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 論文の書き方

      兵庫教育大学学校教育研究センター 成田 滋  2005年4月8日更新


    いろいろな領域や分野での論文の書き方は、それぞれ違っています。ここでは、
    教育研究論文の書き方を勉強することにします。対象は、学部及び院生で、レ
    ポートや小論文、卒業論文や修士論文を書くことを想定しています。

    実験研究や実践研究は書式は少しづつ異なりますが、読者に分かりやす書くと
    いう視点では共通しています。論文の書き方にはスタイルがあると思ってくだ
    さい。テニスや水泳に基本的な型があると同じように、論文にも定形がありま
    す。また表記方法にも型があります。これを習得しておくと、論文を書くのが
    大変楽になります。

    論文の書き方で参考となる文献としては、アメリカ心理学会が出版している
            APA Publication Manualというのがあります。これには、論文を英語で書く
    ときのスタイルがこと細かに記述される教科書のようなものです。このManual
    に沿わないとAPAが刊行する専門誌に論文を投稿することはできません。我が
    国の場合は、そのあたりが極めてルーズです。専門誌によってスタイルが違う
    のでは、論文の書き方で投稿者にも読者にもいろいろな不都合がでてきます。
    こうした手引き書が早く刊行されるのを期待します。

    本稿では、例文をたくさん入れながら、以下のような項目で、論文の書き方を
    説明していきます。例文は、障害児教育などの分野を中心にしていますが、関
    連分野でも十分通用します。なお、本稿は筆者のセミナーでの学習材料として
    作られています。

    また、読者からのご意見などは、このページの最後で出せるようになっています
    。ご利用ください。

     参考   Publication Manual of the American Psychological
                       Association, 4th Ed. APA, Washington DC  1995.

    レポートの書き方のページ(参考)

    レビュー(論評)の書き方


    目次
        研究題目
        論文抄録
        序論
          問題の所在
          目的
        方法
          対象
          手続
        結果と考察
        結論とまとめ
        英語の論文抄録




    研究題目


    研究題目は意外とルーズに書かれることが多いようです。研究題目の付け方の注
    意点を知らないと、読者に無用な誤解や不安を与えてしまいます。 題目の付け方
    で最も重要なことは、題目から研究の内容が推測できるような表記にすることで
    す。副題はできる限り付けないで一文でまとめることです。以下、要点です。

    ・40字以内でまとめる。
    ・研究の分析方法である相関関係か因果関係かを示すキーワードが入っている。
    ・調査対象や被験者が明示されている。
    ・従属変数と独立変数が明示されている。
    ・研究方法や分野が明示されている。
    ・副題をつけない。
    ・表記での「〜の研究」は不必要である。
    望ましくない例 その1:
    ・重度知的障害児における見本合わせ学習
      --事物の機能的操作が見本合わせに及ぼす影響-

    理由: 題目が長い。
       語彙が重複して冗長となっている。

    改良例
    ・重度知的障害児による事物の機能的操作が見本合わせに及ぼす影響


    望ましくない例 その2:     ・合否判定による運動能力測定に関する研究       -幼児用運動成就テストの精神遅滞児への応用について-     理由:題目が長い。        研究の分析方法がわからない。     改良例     ・幼児用運動成就テストを応用した精神遅滞児の運動能力測定の有効性


    望ましくない例 その3:     ・障害児童生徒の静的動作に関する傾向     理由:「障害児童生徒」が曖昧である。        研究の分析方法がわからない。        「静的動作に関する傾向」とはなにかが不明。     改良例     ・肢体不自由児の静的動作に関する傾向と特徴の分析
    望ましくない例 その4:     ・母子相互交渉に及ぼす動作法の効果     理由:誰が被験者なのかが不明。     改良例     ・動作法が肢体不自由児と親の相互交渉に及ぼす効果
    悪い例その5:     ・自閉症児の社会生活スキル訓練        - 一人通学の訓練プログラム--     理由:研究の狙いが不明確。        研究の方法がわからない。     改良例     ・自閉症児の通学訓練プログラムが社会的スキルの獲得に及ぼす効果
    望ましくない例その6:     ・重度・重複障害児へのアセスメントに関する一考察     理由:「アセスメント」のなにに注目するのかが不明瞭。        研究の方法がわからない。        「重度・重複障害児」が冗長。     改良例     ・重複障害児の交信行動の測定と評価に関する視点とその分析
    望ましくない例その7:     ・精神遅滞児の数概念における刺激等価性の特徴と援助に関する研究     理由:研究の方法が不明瞭。        研究であることは自明である。        なにに関する「援助」なのか不明。     改良例     ・精神遅滞児の数概念の育成からみた刺激等価性の特徴の抽出と援助方法に関する分析     
   論文抄録


   抄録の要諦は、これを読者が読めば研究の概略がわかるかどうかです。論文全体が抄
   録に集約されるのですから、抄録の書き方には細心の注意が必要です。現在の論文のほ
   とんどは、抄録を付けることを要求しています。英文の抄録を付記する場合も多くなっ
   ています。

   どのような読者でも論文を読む前に抄録に目を通します。コンピュータ上の検索の場合
   などでは、2次情報としての抄録をまず読むことになります。通常は、抄録を読んでか
   ら、本文を読むかどうかを決めます。いくら論文自体が良く書けていても、抄録が貧弱
   で印象が悪ければ、折角の論文も陽の目を見ないことになります。

   抄録は、理路整然として簡潔で無駄な表現がなく、研究のすべてが集約されるべきです。
   例えていうと最初の冷たいビールのように、スムーズに読者の喉を流れるようなもので
   あるべきです。抄録がわかりにくいのは、なまぬるいグラスで冷えていないビールを飲
   まされるようなものです。

   抄録はまず、論文の正確な内容を伝えるものであることです。論文の目的や内容が正確に
   凝縮されていなければなりません。次に抄録はそれ自体で完結すべきものです。用語や
   固有名詞は略さずに用い、測定法や被験者の属性なども記すことです。キーワードを使う
   ことも忘れてはなりません。抄録の大事なことは、書き出しの表記に注意を払うことです。
   最も重要なことを冒頭の文章で表すこと、これを銘記してください。大抵は、冒頭では研
   究の目的や結果、知見などを簡潔にまとめることです。また表現には弱いのとパンチのき
   いたものがありますが、後者のほうが望ましいのはいうまでもありません。

   抄録では、実験や調査から得られた結果を述べるのであり、その評価や意義などを記述し
   てはいけません。表記は能動態を用います。受動態の文章はインパクトが弱くなります。
   現在形は過去形よりもパンチがあります。過去形の表記では、現在から将来にわたる般化
   がないと受けとめられことになります。自信のある論文を読者に是非読んでもらいたいと
   きは、調査や実験結果の知見は現在形で書くべきです。受動態を使うことは、日本人の
   謙譲のあらわれのようですが、こと論文に関してはそのような美徳は通用しません。

   抄録の構成

   論文抄録の構成、はおおよそ次のようになります。
   1. 抄録の字数は300-600字が普通です。専門誌には、抄録の長さの規定があります。
    それに従います。APA  Manualの場合は、実験論文では120字以内とあります。
   2. 問題の所在は一文で記します。
   3. 被験者年齢、性別などの属性や数、所属などを明記します。
   4. 実験計画、測定法、テスト名、データ収集法、分析手法などを説明します。
   5. 有意水準、分析結果などを加えます。
   6. 結論と知見を入れます。

   抄録の例 その1

    障害を持つ人々に対する態度に関する日米比較研究
    -ATDP尺度とテーマパークにおける障害を持つ人々に対する特別な方針の検討より-

                    中邑賢龍

    本研究では、日米における障害を持つ人に対する態度を、両国に存在する法律・制度と
    の関連で検討した。研究1では、日米大学生の態度をATDP尺度(Yuker, B1ock,
            and Young, 1966)を用いて測定した。その結果、米国の学生の方が日本の学生に比
    べて、障害を持つ人により肯定的態度を持つことが明らかになった。また、障害を持つ
    人に対する特別な法律・制度に対する態度も測定され、財政的支援に関しては、日本で
    は肯定的、米国では否定的態度が示された。研究2では、障害を持つ人に対する特別な
    方針を日米のテーマパークで比較した。入園料金の割引に関して、日本のテーマパーク
    の方が多くこの制度を取り入れており、障害のタイプにかかわらず身体障害者手帳や療
    育手帳の提示による一律の割り引きを行っていたが、米国では障害によってはすべての
    乗り物やアトラクションを楽しめないという理由から、選択的割り引きを実施していた。
    結論として、両国で障害を持つ人に対する異なる態度や特別な制度が示された。その学
    生の態度は、それぞれの国の法律や制度に沿ったものであった。

    キー・ワード:障害を持つ人々に対する態度 テーマパーク 異文化研究
                                          引用文献: 特殊教育学研究, 34(1),31-40, 1996.

    改良すべき点
    (1)  研究1では、という表記からいくつの研究をしたのかが不明である。
    (2)  ATDP尺度とはいかなるものかがわからない。ATDPの正式名称もわからない。
    (3)  調査方法が不明である。
    (4)  分析方法も不明である。
    (5)  研究2、、以下の文章があまりにも長すぎる。

    改良した抄録の例

    本研究では、日米における障害を持つ人に対する大学生の態度を、両国の法律・制度と
    の関連で二つの角度から検討した。研究1では、ATDP尺度(Attitude Toward DIsabled
            Persons Scale)(Yuker, B1ock, and Young, 1966)を用いて、両国の大学生の態度を
    測定した。その結果、米国の学生の方が日本の学生に比べて、障害を持つ人により肯定的
    態度を持つことが、分散分析より明らかになった。また、障害を持つ人に対する特別な法
    律・制度に対する態度も測定され、財政的支援に関しては、日本の大学生では肯定的、米
    国の学生では否定的態度が示された。研究2では、日米のテーマパークを取り上げ、障害
    を持つ人に対する特別な方針があるかないかを比較した。入園料金の割引に関して、日本
    のテーマパークの方が多くこの制度を取り入れており、障害のタイプにかかわらず身体
    障害者手帳や療育手帳の提示による一律の割り引きを行っていた。一方、米国では障害に
    よってはすべての乗り物やアトラクションを楽しめないという理由から、選択的割り引き
    を実施していた。結論として、両国で障害を持つ人に対する異なる態度や特別な制度が示
    された。その学生の態度は、それぞれの国の法律や制度に沿うことが判明した。

    抄録の例 その2

    自閉症生徒における代表例教授法(General Case lnstruction)を用いた料理指導
    −品目間般化の検討−


                井上暁子 井上雅彦 小林重雄

    3名の自閉症生徒を対象に、代表例教授法(General Case lnstruction)を用いて料理指導
    を行い、正確で広範囲な般化を可能にするための要因について分析を行った。まず、26の
    料理品目から料理行程に含まれる代表的な反応型が抽出され、それらを多く含む3つの品
    目が直接訓練品目として選定された。そして、料理カードと教示ビデオを使用して直接
    訓練品目について指導が行われ、末訓練の5品目について般化が測定された。結果、カード
    参照行動については1品目の指導によって、末訓練品目への般化が確認された。料理行
    動についても刺激(材料・数値等)が異なっていても同一の反応型であれば般化が示され、
    末訓練の5品目全ての料理が可能となり、代表例教授法の品目間般化促進に対する有効性が
    示された。また、料理カード配布による家庭での料理行動の変容、16カ月後のスキルの維
    持も確認された。

    キー・ワード:料理スキル 代表例教授法 般化 維持 自閉症生徒
                     引用文献: 特殊教育学研究, 34(1),19-30, 1996.

    改良すべき点:
    (1)  題目にある「料理指導品目間般化」が曖昧で目標とするスキルも不明である。
    (2)  実験デザインの記述がない。
    (3)  自閉症児の年齢や所属が不明である。
    (4)  分析方法も不明である。

    改良した抄録の例:

    自閉症と診断された中学生3名を対象に、代表例教授法(General Case lnstruction)を
    用いて料理スキル習得の指導を行い、正確で広範囲な般化を可能にするための要因につい
    て分析を行った。実験デザインとして、マルチプルベースラインデザインが採用された。
    まず、26の料理品目から料理行程に含まれる代表的な反応型が抽出され、それらを多く
    含む3つの品目が直接訓練品目として選定された。そして、料理カードと教示ビデオを
    使用して直接訓練品目について指導が行われ、末訓練の5品目について般化が測定された。
    結果、カード参照行動については1品目の指導によって、末訓練品目への般化が確認された。
    料理行動についても刺激(材料・数値等)が異なっていても同一の反応型であれば般化が
    示され、末訓練の5品目全ての料理が可能となり、代表例教授法の品目間般化促進に対す
    る有効性が示された。また、料理カード配布による家庭での料理行動の変容、16カ月後の
    スキルの維持も確認されている。
    
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