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    方法                                       


    方法の部分では、研究がどのように企画され実施されたかを詳細に記述します。そ
    れによって読者に研究方法や研究結果の信頼性や妥当性についての確信を与えるこ
    とになります。方法の書き方は、将来類似した視点から研究しようとする者にも参
    考になるはずです。研究成果の検証のために、他の研究者が同じような条件で実験
    や調査ができるように詳しく記すということを念頭にいれてください。

    方法では、研究に参加した被験者や調査対象者や実験方法や調査法などについて下位
    項目をつけても構いません。下位項目の下にさらに項目を追加する必要があるかもし
    れません。そのほうが、読者に分かりやすくなる場合があります。

    方法の下位項目では、被験者や調査対象者について詳しく記述します。これは、同じ
    グループ間の比較や成果の比較に役に立ちます。研究上の発見の般化、追記の研究、
    文献考察、データ分析などについても被験者の記述は重要となります。被験者の抽出
    の仕方、実験設定への配置なども述べます。年齢、所属、学年、暦年齢、知能指数、
    獲得しているスキルなどは被験者の大事な属性です。

    実験の場合は、テストや実験手続きを詳しく説明します。なお、標準化されたテストの
    場合は、テストに関するくどくどした説明は不必要です。

    調査の場合は、調査票や調査方法の説明がいります。自作の調査票を使う場合は、項目
    の作成に参考とした類似の調査や調査票の説明をつけます。予備調査では、調査項目の
    内的整合性の検討と項目分析結果が要求されます。その場合は、信頼度係数や正規性検
    定のデータをつけ加えます。調査票の一覧は、通常は巻末に参考文献として載せます。


    方法の例 その一::     被調査者:     日本は、香川大学及び広島大学学生240名(男89名,女151名)、米国はカンザス大学     学生76名(男21名,女55名)、計316名(男110名,女206名)に調査を依頼した。いず     れの大学においても、心理学関連科目を受講する学生に対して授業時に実施した。       手続き:     被調査者には、調査目的を説明し、了解を得た上で、調査に参加してもらった。障害を     持つ人々に対する態度に関しては、ATDP尺度Form B(Yuker,B1ock and Young,     1966)を用いて測定を実施した。なお、日本の学生に対してはATDP尺度Form Bをそ     のまま翻訳して実施した。その他の調査項目として、障害を持つ人々に関連する日米い     ずれかの国に存在する制度・法律に対する7つの質問(Appendix A)が用意され、それ     ぞれについて、賛成反対、必要不必要、公平不公平の3つの軸上に5段階評定で自分の     意見を位置づけてもらった。それらは、時問的優遇に関する質問が1項目(質問1)、公     共施設のアクセシビリティに関する質問が3項目(質問2,6,7)、財政的援助に関する     項目が3項目(質問3,4,5)であった。なお、ここでは被調査者に障害の有無を尋ねた     が、障害を持つとの回答、あるいは、障害についての記入が無い回答については今回の     分析では除外し、それ以外の312名(男109名,女203名)について分析を行った。     引用: 障害を持つ人々に対する態度に関する日米比較研究--ATDP尺度とテーマパークに        おける障害を持つ人々に対する特別な方針の検討より--        中邑賢龍  特殊教育学研究, 34(1), 31-40, 1996.     改善すべき点:     1. ATDP尺度がどのような目的で作成されたかを説明すべきである。     2. ATDP尺度Form Bとあるが、Form Aとはなにかも知りたくなる。     3. 被調査者を表で示したほうがわかりやすい。なお、方法を下位項目の被調査者と手       続きに分けて説明しているのでわかりやすい。
    方法の例 その二:     被験者     1)健常群     健常群は2-3歳、4歳、5歳、6歳、8-14歳、15-26歳の6年齢群より構成した。各年齢     群の人数は次の通りであった。2-3歳:160名(男72名, 女88名)、4歳:348名(男193名,     女155名)、5歳:407名(男214名,女193名)、6歳:120名(男63名,女57名)、8-14歳:     107名(男56名,女51名)、15-26歳:161名(男57名,女104名)。     2)遅滞群     遅滞群は、軽度群、中度群、重度群の3群より成り、各群の人数、年齢は次の通りであっ     た。軽度群:男子;54名(8-18歳,X=12.94歳,SD=3.20歳)、女子;44名(7-18歳,      X=11.39歳,SD=2.70歳)、中度群:男子;62名(6-22歳,X=13.52歳,SD=3.90歳)     女子;37名(6-19歳,X=14.49歳,SD=3.66歳)、重度群:男子;63名(6-18歳,     X=12.97歳,SD=3.85歳)、女子;27名(6-20歳,X=13.85歳,SD=4.10歳)。遅滞の     程度は、原則としてIQ(学校の資料による)により分類し、軽度:50以上、中度:49-26、     重度:25以下とした。遅滞児の中には、自閉的傾向のある者が男子で34名、女子で10名     含まれていた。     引用: 精神遅滞児の利き手に関する研究--性差、遅滞の程度、親の利き手との関係に        ついて-- 小林久男 佐野ゆかり  特殊教育学研究, 34(1), 9-17, 1996.     改善すべき点:     1. 健常群と遅滞群の内訳が、読むのがいやになるほどややこしい。いくつかの表にすべ       きである。     2. 平均年齢やそのSDを小数点第二位まで表記する必要はない。
    方法の例 その三:     実験方法1     被験者の状況対象とした被験者は、筑波大学理療科教員養成施設第1学年及び第2学年の     少しでも視力がある者の中から18名を選んだ。但し、そのうちの1名については近距離     視力測定不能だったので、データ処理から除外した。また、実験2の対照群として一般の     正眼者から4名を選んだ。なお、年齢は20歳-37歳の範囲である。視力は図を見るという     ことを意識し、両眼近距離視力を測定した。全ての被験者について「裸眼両眼近距離視     力」を測定し、通常、眼鏡あるいはコンタクトレンズを使用しているものについては使用     眼鏡等で矯正したときの両眼近距離視力も測定した。近距離視力の測定法は指標から30     cmの距離で測定し、指標は「半田屋商店発行新標準近距離視力表(潮崎克著)」及び「同     発行万国近点視力表(石原忍著)」を用いた。     引用: 弱視者の明度弁別に関する研究         増子 正 錦野 弘 吉川恵士 西条一止  特殊教育学研究, 32(2), 33-38, 1994.     改善すべき点:     1. 対照群として一般の正眼者からなぜ4名を選んだのかが不明である。     2. 指標の作成年を入れるべきである。著者名は姓だけでよい。
    方法の例 その四 手続き:     手続き     肺機能測定と子ども達自身の身体状況の主観的記述、観察者による行動観察を実施した。     肺機能の測定にはAssess社の簡易ピークフローメーターを用いた。このピークフロー     メーターは、喘息患者のピークフロー測定に関して信頼性が確認されている(Imbruce,     1991; 松田・小幡・椿・小渋・岩崎・赤沢・飯倉, 1992)。主観的記述及び行動観察は、     ピークフロー測定の前に記録した。測定後の主観的記述、行動観察にはその旨を記入し     た。測定は、1991年8月下句から1993年3月中句まで約1年半の間、学校に登校し測定     可能な日に原則として8時30分から10時30分の間に実施した。     分析方法:ピークフロー測定値の平均値から一1SD以下の値を示す日に関して、身体状況     に関する子どもの主観的記述、観察者の行動観察の記述を比較検討した。     引用: 喘息児における呼吸機能の客観的測定値と主観的症状        村上由則 斉藤美磨 特殊教育学研究, 32(1), 19-25, 1994.     改良すべき点:     1. 最初の文章に主語がないのでわかりにくい。     2. 主観的記述、観察者による行動観察の仕方の説明がない。     3. 測定が1年半続いた場合、その間の被験者の成熟や出来事は測定値に影響を与えた       と考えられデータの信頼性が問われる。
    方法の例 その五 手続き:     手続き     学級の係の一つとして、HSを教室の背面黒板の日課表にその日の学習予定を毎朝チョー     クで記入する係にした。朝、生徒たちが登校すると、担任が「係の仕事をお願いします」     と言う。HSは椅子を持ってきてそれに乗り、背面黒板の日課表に向かう。「マラソン」     「きゅうしょく」等の毎日の決まった活動名については教えられなくても記入できるが、     養護学校の指導計画は非常に柔軟であるために、科目や下校時間等が週時表どおりに定ま     らないことも多く、そのような変更しやすい科目や下校時問等については教師に質問しな     いとわからない。このような場合にHSが教師に向かって「教えてください」と自発的に     言うことを標的行動とした。標的行動が表出されたら教師はすぐに笑顔で「はい」と言     って承認し、書くべき科目名等を教える。HSが困惑してそれを言えないでいる場合には     マンド・モデル法(Rogers Warren and Warren,1980)を適用する。すなわち、5−10     秒問待ったうえで「なんて言うの?」と言って反応を促す。それでも標的行動を表出しな     い場合には「教えてください」というモデルを示す。HSが適切に反応、または模倣したら     、標的行動表出の場合と同様に、教師はすぐに笑顔で「はい」と言って承認し、書くべき     事柄を教える。(以下略)     引用: 自閉症児における既得の表現とは異なる教示要求表現の形成とその機能的        差異        佐竹真次 小林重雄 特殊教育学研究, 32(1), 27-32, 1994.     改良すべき点:     1. 冒頭の文章に主語がなくわかりにくい。     2. 「HSは椅子を持ってきてそれに乗り、、、」の文章が長すぎる。
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