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    結論とまとめ                            

論文の結論とまとめの部分は、研究全体のまとめのようなものであるから自分の 研究成果に自信を持って簡潔かつ、要領よく締めくくりたいものである。通常、 読者はその結論とまとめを読むことによって自分の研究の参考にするか否かを決 める。その意味で注意を払って書くべきである。 また、この部分は論文の抄録にあたるものと考えてよいので、実験デザインや方 法を交えて重要と思われる発見の事実などを要約する。 結論であるが、結果を短くまとめる。自分が設定した仮説に関する検証結果を 記述する。つまり、仮説が支持されたか棄却されたかの説明をする。自分の研究 で得た知見が先行研究のものとどのような共通点や相違点があるのかも紹介し、 その結果をなんらかの根拠を基にして議論を展開する。 結論の部分には研究上で不十分であったと思われる点や、今後改善すべき点に 言及すべきである。つまり、研究仮説の検証は、時間や費用、人的資源など限ら れた状況で行われたことを明記し、読者に研究の追試において参考となる事柄を 喚起するのである。以上のような改善点に触れながら、今後の研究課題に言及し さらに研究の継続が必要であることを指摘する。 ・研究デザインや方法を短く説明する。 ・仮説に基づく検証を行い、支持されたか棄却されたかを述べる。 ・自分の研究結果を先行研究の研究成果と比較し、その違いや独自の 新しい発見などについて言及する。 ・研究デザインが限定された環境で行われたことを指摘し、発見の般化 について注意を促す。 次にいくつかの研究の考察や結論、まとめを引用し、それについて解説を試みる 。参考にして欲しい。 [例文1] 総合的考察 本研究では、「叙述的」言語機能の成立が困難であるとされる自閉症児について、 機能的な報告言語行動が成立するための条件を検討した。そのために、叙述機能の 必要条件の分析を行い、必要な行動をひとつひとつ形成していった。その結果、 離れた場所にある静止画、動画、実際動作を見本刺激とし、それを見てから聞き手 に報告にいく訓練を通じて、「主語十助詞十目的語十動詞」を用いた報告言語行動 が成立し、他者動作と自己動作とが、主語と助詞を含む共通の言語行動を引き起こ す刺激クラスとなったことが示された。また、報告言語行動の一連の行動連鎖の中 に、聞き手の注目を引くための「呼びかけ」反応を組み込むことで、特定の人に伝 達を行うという叙述言語の重要な機能も確立することができた。さらに、対象児が 実際に在籍する学校の教室場面において、聞き手のところまで移動する反応につい ての手がかり刺激を与える手続きを付加することで、聞き手を呼ぴかけ、適切な報 告言語反応を行うことが示された。 ( 山本淳一, 自閉症児における報告言語行動--タクト-の機能化と般化に及ぼす 条件--, 特殊教育学研究, 35(1), 11-22 ) [解説] この文節は、考察としては優れた叙述であることを示している。まず最初の文章が、 どのような研究を行ったかについて短くまとめ、なにを解明したかについて明確に 記述している。実験に登場した対象児についての記述もある。研究手続きも手短に まとめまた、どのような研究成果を生み出したかについての説明も素人でもわかる ように簡潔にまとめている。 [例文2] まとめ 聴覚障害者による各種の言語媒体の相手に応じた使い分けについて、現在の日本 社会での使用状況を分析した。この研究で用いた調査資料は、東京と近県の重度 聴覚障害者に、1991年に質問紙を郵送して、20歳から70歳の男女約1,700人 から回答を得たものである。このうちの、口話・手話・筆談などの言語媒体の 有効性についての応答を、男女の差異と、項目の相互の関係に注目して分析した。 特にこの分析では、相手に応じた言語媒体の使用の割合と有効な割合という量を 定義して、それらを数値化し、口話と手話と筆談を3方向に対比させた円座標の グラフに表示したが、これによって初めて、各言語媒体の併用の全般的な傾向を 適確に把握することができるようになった。その結果、家族、聴覚障害の友人、 健聴の友人、近所の人、会社の人などの言話使用の相手に応じて、使用の割合や その有効な割合が異なる傾向が明らかになった。 (上久保恵美子 他, 聴覚障害者による言語媒体の相手に応じた使い分け-口話・ 手話・筆談の使用傾向の男女による差異-, 特殊教育学研究, 35(1), 1-9 ) [解説] まとめの文節としてわかりやすく、簡潔に記述している。研究が調査であり、 対象地域や対象者も記述され、どのような調査を行ったかもわかりやすい。 調査結果もきちんと指摘している。この類のまとめ方は、抄録にそのまま使え るほど優れた文節となっている。難をいえば、他の類似する研究との比較や 研究の課題に言及するともっと優れたものとなったと考えられる。 [例文3] 今後の課題 本研究で設定した線種の中で点線は、有効線幅が太いことが明らかとなった。 点線が見にくいことの一つの要因として点線を構成する物理的特性がその一因 であることが示唆されたが、必ずしも理論的な数値と一致していない面もみられ る。さらに、本研究は線を追うという課題を用いており、破線、鎖線がそれぞれ の線として認知されているかどうかは問題としなかった。そのため設定した線が 実線と同時に提示されたとき識別できる条件を備えた線であったかどうかの検討 はなされていない。これらの点の解明が弱視児・者に対して見やすい補助的に用 いることのできる線の条件を明らかにすると考えられる。 (小林秀之, 弱視者の線の認知に関する基礎的研究, 特殊教育学研究, 35(1), 23-32) [解説] 結論と今後の課題の部分は、研究者によって合体したり分離することがある。 本例は後者である。この研究目的は前章で述べられているはずなので、別の目的 に言及する必要は毛頭ない。つまり、「本研究は線を追うという課題を用いてお り、破線、鎖線がそれぞれの線として認知されているかどうかは問題としなかっ た。そのため設定した線が実線と同時に提示されたとき識別できる条件を備えた 線であったかどうかの検討はなされていない」という指摘は不必要である。 つけ加えると、今後の課題の部分が本例のように長いと、読者はこの研究自体に 疑問を持つかもしれない。適度な量の問題の指摘が要求される。 [例文4] 考察 10カ月時に発達的リスク児であった中で36カ月時に正常になった者は、発達的 リスクが残っている者に比べて3時点におけるJHSQ得点がより高い傾向にあり、 18カ月時には環境的リスクの低いBタイプに属していた。このことは、家庭環境 の質が発達的リスク児の回復力に関与しており、環境的リスクの改善により障害 から子どもの発達を守る保護的要因を強化できる可能性を示唆している。Werner (1989)は、698人の子どもたちを誕生から30代前半まで追跡し、どんな要因 が子どもの健全な発達を阻害し、あるいは障害から子どもたちを保護するか分析 した。その結果、発達的リスク児であっても保護的要因の数が多い場合、発達的 問題が改善される可能性が高いことを報告している。本研究でも同じ結果であっ たが、本研究は対象が乳幼児期(早期)であること、乳幼児健診の場における結 果であることなどの点で異なる。そして、本研究の結果こそ、日本の乳幼児健診 システムの中で、早期療育において家庭環境の調整を重視すべきであるという一 つの方向を支持する新しい知見である。 (久保由美子他, 環境的リスク児の早期発見に関する研究-家庭環境要因を中心と して-, 特殊教育学研究, 34(3), 45-54) [解説] 最初の文章が、複文で長く理解しにくい。さらにこの文は、発見した事実を直接的 に性急に指摘しているために、研究のなかでなにを調べようとしたのかがわかりに くくなっている。もっと枕詞になるものを入れて考察にかかるべきである。 最後の箇所で著者は、「一つの方向を支持する新しい知見である」と自分の研究 成果を力説しているが、それほど新しい知見とは思われない。なぜならWernerの 研究は、誕生から30代前半までを追跡しているのに、著者のは一回だけのアンケ ート調査で乳幼児期に焦点を当てているに過ぎないからである。また回答の内容が 不正確である点で調査の誤差が大きく、筆者が断定するほど信頼性の高い結論とは 考えにくい。アンケート調査の問題点をわきまえるべきである。従って「新しい 知見である」という結論は控えめであるべきである。 [例文5] 総合的考察 本研究結果より、精神遅滞児の自己能力評価や社会的受容感が、精神年齢や生活 年齢と関連していることが示された。また、特に注目すべき結果として、生活 年齢およぴ精神年齢にかかわりなく、自己能力評価における運動と認知領域の評 価レベルの差が明らかになった。そしてこのような対象領域での差は、教科指導 における健常児との課題遂行性の差を直接比較する機会の差に起因すると考えた。 このような仮説の妥当性は、入学直後からの自己能力評価における二領域の変化 を、教科の指導や交流形態との関連で縦断的に追跡することなどを通して、今後 詳細に検討する必要があろう。また、養護学校在籍児と特殊学級在籍児問での自 己能力評価や社会的受容感の評価レベル差も、教科や課外活動・休憩時間におけ る健常児との交流の有無や程度差から予想される。両在籍児間の比較も今後の 重要な検討課題としてあげられる。 (大谷博俊 他, 精神遅滞児の自己概念に関する研究-自己能力評価・社会的受容 感と生活年齢・精神年齢との関連性の検討, 特殊教育学研究, 34(2), 11-19) [解説] 本研究で明らかにされたことを冒頭に述べることはよい。だが、次の文章で「特 に注目すべき結果として、、、」という指摘は冒頭の文章と競合する恐れがある 。注目すべき事柄をなぜ冒頭に述べないのかという疑問が生まれるのは望ましく ない。重要な事柄は文章の初めで叙述すべきで、後半にいくにつれて内容の重要 度は低くなるものである。


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