序論 2. 目的 問題の所在に続いては、研究目的とその理由を述べます。目的は検証する仮説に基 づきますから、どのような仮説がたてられ、そこではなにが独立変数か従属変数か を明確にし、なにを導きだそうとするかがが述べられていなければなりません。な お研究目的は、序論の最後のパラグラフにくるのが普通です。 目的の例 その1: 本調査ではGalIoway(1985)の調査方法を参考にして,年間30日以上欠席した児 童・生徒の状況を学級担任の報告にもとづいて調査者が点検するという手法を採用す ることにした。具体的には,特定の市(以下A市とする)の教育委員会の協力を得て, 市内全公立小・中学校において年間30日以上欠席した全児童・生徒の欠席理由および 学級担任の指導記録を1989年度から1991年にかけての3年間にわたって点検した。 これによって本調査では「不登校」の実態を明らかにするのに先立って,長期欠席の 実態を把握することを第1の目的とする。さらに,この長期欠席のうちどれくらいが 「不登校」にあたるのかを明らかにするのが本調査の第2の目的である。 引用: 学校を欠席する子どもたち--長期欠席の中の登校拒否(不登校)とその潜在群-- 保坂 亨 教育心理学研究, 43(1), 52-57, 1995. 改良すべき点: 1. 「長期欠席の実態を明らかにする」という調査目的が明確でない。 2. 「長期欠席のうちどれくらいが「不登校」にあたるのかを明らかにする」という目 的も新鮮さがない。 目的の例 その2: 本研究では,玩具を用いた同年齢の友だちとの遊びの中で,物をめぐる対人葛藤が生 じた場合,幼児の自己調整能力によって導かれる問題解決方略は質的にどのように発 達変化するのか,また,それは当事者間の親密性および場面への不快感の程度といった 要因とどのように関連しているのかを検討した。本研究で検討した仮説は以下の2点で ある。@対人葛藤場面における自己主張解決方略の質は,年齢の増加に伴って自己中心 的な自己主張解決方略から脱する方向へと変化するであろう。A社会的な,あるいは自 他双方の要求を考慮した自己主張解決方略は,低親密条件よりも高親密条件で多く用い られ,また,自己中心的な自己主張解決方略は,高親密条件よりも低親密条件で多く用 いられるであろう。 引用: 幼児の自己調整能力に関する発達的研究--幼児の対人葛藤場面における自己主張 解決方略について-- 山本愛子 教育心理学研究, 43(1), 42-51, 1995. 改良すべき点: 1. 仮説は現在形で表記すべきである。 2. 本研究の意義がなにかがわからない。 目的の例 その3: (略)健常児における前述の結果からは、文理解における二つの過程が推測できよう。 一つは心的文型に従って文を保持する過程であり、一つは保持された文の中の手がかり に従って動作主・被動作主を決定する過程である。文理解にこの二段階の処理がある とすれば次の作業仮説がなりたつ。1. 格助詞を正確に理解出来る格助詞ストラテジー の被験者は正序文・倒置文の心的文型をもつ。2. 倒置文の心的文型が未獲得な被験者 は、格助詞ストラテジーにいたらない。3. 移行段階では、正序文・倒置文の心的文型を 持ちながら格助詞ストラテジーにいたらない被験者が存在する。本研究では心的文型に ついては文模倣課題、手がかりによる動作主・被動作主の決定については単文理解課題 の結果をもとに上記の作業仮説を検討する。 引用: 精神遅滞者の文理解過程における2つの段階 松本敏治 古塚 孝 特殊教育学研究, 32(2), 1-9, 1994. 改良すべき点: 1. 目的を作業仮説の検証とするという点は良い。良く書けた目的文といえる。 目的の例 その4: 人口13万人の中規模地方都市である上越市のl年生を対象にして、その中から一斉指導 では十分な書字学習ができなかった児童を抽出し、それらの児童の平仮名書きの習得状 況と個別に行われている書字指導の現状を調査する。このような調査を通して、平仮名 書きの学習が困難な児童に対する今後の書字指導方法のあり方を探る。 引用: 通常学級における平仮名書字学習困難児の実態とその指導形態 大庭重治 佐々木清秀 特殊教育学研究, 28(2), 35-42, 1990 改良すべき点: 1. 「書字指導の現状を調査する」という目的は不明瞭である。 2. 「書字指導方法のあり方」とはなにかの具体的な展望を指摘すべきである。 目的の例 その5: そこで本研究では、子どもの病気に関する知識や概念、さらには情報の与え方を検討す る際の基礎資料と、カテゴリーとしての「病気」の概念をとりあげ、年齢による様相の 変化と、病弱と健康という子どもの状態による違いによる差異について明らかにするを 目的とした。 引用: 病弱児の「病気」の概念--そのカテゴリー化の発達的変化と健康児との比較-- 小畑文也 特殊教育学研究, 28(2), 13-23, 1990. 改良すべき点: 1. 「違いによる差異について明らかにする」はいかにも冗長である。 目的の例 その6: 推測統計が特殊教育関係の論文の中に増えていることは、欧米でもここ30年以来の傾向 である(Mclaughlin, Hinojosa, and Trlica, 1973)。Mclaughlinらは、特殊教育教師 を志望する学生は、推測統計の用語を理解する力が不足していると指摘し、これら学生は 論文の質的内容を理解することが困難であると指摘している。 本研究の目的は、特殊教育にかかわる教師が教育専門誌を購読、あるいは投稿する際に要 求される実験計画、教育統計に関する基礎知識の理解の程度を検討することである。 引用: 特殊教育担当教師の実験計画、教育測定・統計についての理解度に関する 研究 成田 滋 特殊教育学研究, 26(2), 37-42, 1988. 改良すべき点: 1. 「教育統計に関する基礎知識の理解の程度を検討することである。」をもう少し 具体的に記述すべきである。たとえば、「記述統計や推測統計の用語の理解度に 関する分析」としたかった。 目的の例 その7: 本研究は、普通学級で教育を受けている軽度精神遅滞児と特殊学級で主として教育を 受けている軽度精神遅滞児の発達・学習を比較し、軽度精神遅滞児の教育的処遇を検討 する資料とすることを目的とする。 引用: 軽度精神遅滞児の教育的処遇に関する比較研究 位頭義仁 特殊教育学研究, 26(2), 29-36, 1988. 改良すべき点: 1. 「軽度精神遅滞児の教育的処遇を検討する資料とすることを目的とする。」は理解 しにくい。「軽度精神遅滞児の教育的処遇における問題点と改善すべき提言となる 資料を提供することを目的とする。」などと書き換えられる。 目次へ戻る。