個別障害者教育法(IDEA)第23回議会報告書
 

Twenty-Third Annual Report to Congress on the Implementation of TheIndividuals with Disabilities Education Act, 2001. U.S. Department of Education, Washington D.C.
 
 

翻訳
 

兵庫教育大学学校教育研究センター教授   (第一部)
成田 滋 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp

和歌山大学教育学部学校教育教員養成課程
助教授  (第二部) 
江田裕介   eda@center.wakayama-u.ac.jp 

京都教育大学 教育学部学校教育教員養成課程講師   (第三部) 
吉利宗久 yositosi@kyokyo-u.ac.jp

島根県立松江緑が丘養護学校教諭   (第四部)
渡部親司 wshinji@skyblue.ocn.ne.jp

アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第23回議会報告書(速報)
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第22回議会報告書
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第21回議会報告書
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第20回議会報告書
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アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第19回議会報告書
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第19回議会報告書:テクノロジーの発展と障害児教育
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第18回議会報告書
アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第17回議会報告書
 

アメリカ合衆国連邦教育省  連邦障害児教育局(Office of Special Education Programs (OSEP)
アメリカ合衆国連邦教育省刊行
 
 

2002年8月18日更新     ご意見をお待ちしています。

報告書の要約

目 次
第一部 報告結果
第二部 生徒の特徴 
第三部 プログラムとサービス 
第四部 政 策


1997年に個別障害児教育法(Individuals with Disabilities Education Act: IDEA)の修正が施行されたが、議会は、連邦教育省に対してこの法律の674条による全米にわたる活動評価を行うように指示した。本報告書は、674条に基づいて行われた全米評価に関するいくつかのモジュールを含んでいる。以上のような理由で、本報告書の形式はこれまで刊行されてきた報告書の構成とは若干異なっている。

■第一部 報告結果

この報告結果は、5つのモジュールから構成されている。すなわち第1のモジュールは、各州が報告している障害生徒の高等学校の修了率である。第2のモジュールは、州評価システムへの障害生徒の学習への参加と学力評定結果、及び別な評価方法について述べている。第3のモジュールは、後期中等教育の内容と進路移行に関するサービスとその課題を述べている。あわせて、こうした課題に対処する方略について言及している。第4のモジュールは、学校における行動上の問題のある生徒への対応とその成果について述べている。こうした傾向を示す生徒の特異な傾向や教育成果を取り上げ、効果的な予防措置などを記述している。最後のモジュールでは、全米早期教育縦断研究(National Early Intervention Longitudinal Study: NEILS)からのデータを掲載している。

障害生徒の高等学校の修了(卒業)

・14歳以上の生徒の高校修了率は、1993-94年以来上昇している。同期間における中途退学率は下降している。
・14歳以上の生徒の高校修了率は、障害別で異なる。しかし、修了率が最も高いのは視覚障害である。一方修了率が最も低いのは行動障害のある生徒である。
・修了率は種や民族の背景によって異なる。すなわち、白人の場合は63.4%が修了し、黒人の場合は43.5%が修了している。

州の評価システムへの障害生徒の学習への参加と学力評定結果

・1999年に各州から集計した公式報告によれば、州評価システムへの障害生徒の学習への参加は、33%から97%というように州により異なっている。障害生徒の学力評定結果も同様に広範囲にばらついている。
・州評価システムへの障害生徒の学習への参加は、半数以上の州で増加している。また4分の1の州は前年と同じ割合となっている。報告にあった州の内、1州だけが、前年度に比べて参加率が下がっている。
・州ごとにデータ収集法や管理運営法について違いがあるため、障害生徒の参加についての報告については難しさがあることが判明している。

後期中等教育の内容と進路指導に関するサービスとその課題

・個別教育計画(IEP)を作成するチームは、高い期待を維持しながら、障害生徒が様々なカリキュラムをとおしてスキルを磨くように努めなければならない。そのカリキュラムとは、職業教育、関連サービス学習、コミュニティ参加経験、成人としての日常生活スキルなどのことである。
・修了要件の多様化は、各州によって修了制度が異なり複雑である。さらに、標準的な高校修了に加え、いくつかの州では障害児教育の修了証書、単位履修証明書、職業教育証明書などを発行しているところもある。
・学校から社会への移行を可能にするには、保護者の役割は極めて大きい。従って、学校と卒業後の選択や決定などについてより積極的に方略や方策をうち立てる努力が要求される。

学校における行動上の問題のある生徒への対応とその成果:課題、予測要因、措置

・個別障害児教育法の規定により、情緒や行動上の障害があると認定されたおよそ50%の生徒は、学校を中途退学している。一度学校を退学した生徒は、将来就労に要求される社会的スキルが欠如してしまう。そのため、就職が極めて低くなったり、仕事の履歴が悪かったりする。
・貧困は、アメリカの生徒が学力不振や社会的な失敗を予測するうえでの最も的確な指標となっている。
・行動上の問題行動を示す生徒にとって、行動面における前向きの支援を受けることは、行動上の問題行動を予防するのに役立つ。問題行動は、多くの場合学力不振や社会的失敗を引き起こす原因となる。

子どもとその保護者への早期教育の結果

・身体上の健康に関するデータによれば、早期教育を受けた子どもの健康はすこぶる良いことが判明している。しかし、5歳以下の一般の子どもに比べ、そうした早期教育を受ける割合は低いことも判明している。
・12か月未満で早期教育を受け始める子どもは、なんらかの措置が必要とされたりリスクがあるという診断を受ける割合が高くなる。
・全米早期教育縦断研究では、早期教育を受けた子どもに現れる教育の成果が検討されている。つまり、さらに継続したサービス、保健衛生、発達段階への到達、学習スキル、スポーツチームでのメンバーとしての資質、友情などの人間関係スキルなどの育成である。(目次へ)
 
 

第二部 生徒の特徴

第二部では、個別障害者教育法に基づくサービスを受けている子どもや学生の特徴に関する情報を示す。報告された人数は、早期教育を受けている子どもとその家庭、幼稚園児、6歳から21歳の学齢期にある者、および英語能力が不十分な学生(Limited English Proficient: LEP)で、障害のある者である。

早期教育を受ける子どもと家庭の特性

・1999-2000年には、合衆国の205,769人の子どもとその家庭が個別障害者教育法のパートCに基づく早期教育サービスを受けた。この数字は、全国の乳幼児のうち1.8%に相当する。
・早期支援を受けている子どもたちの中には、低体重出生児が高い率を占めており、その傾向はどの人種・民族においても見られた。ただし、その割合は人種・民族によって異なっていた。
・早期教育のほとんどすべての子どもの家庭が、定期的な医療ケアのために通う場所があり、それには健康保険が適用されたと報告している。

個別障害者教育法に基づくサービスを受けた幼稚園児

・1999-2000年度には、588,300人の障害のある幼稚園児がサービスを受け、この数字は、同年度において合衆国内および遠隔領土に在住するすべての幼稚園児の5%にあたると報告された。
・1999-2000年の報告資料によれば、個別障害者教育法に基づくサービスを受けた幼稚園児のうち67%が白人であり、16%が黒人、14%がヒスパニック系、2%がアジア・太平洋諸島系、そして1%はアメリカンインディアン・アラスカ先住民族であったと示されている。
・サービスを受けた幼稚園児の人種的な分布について、1998-1999年度と1999-2000年度とで概況が比較された。前年度からヒスパニック系の幼稚園児の割合が1.7%増加し、白人の幼稚園児は1.6%減少した。

個別障害者教育法に基づくサービスを受けた6歳から21歳の生徒

・個別障害者教育法のパートBに基づいてサービスを受けた6歳から21歳の障害のある生徒は、5,683,707人に達し、1998-1999年度から2.6%増加した。
・特異的学習障害は、今回も継続して全体の中で最も大きな割合の障害であり、個別障害者教育法に基づくサービスを受けた生徒の半数に相当する。
・障害のある黒人生徒は、居住者数の中でそれらの代表を上回った。最も顕著な格差は、精神遅滞と発達遅滞のカテゴリーである。

英語能力が不十分な障害生徒

・公民権局は1997年に174,530人の障害生徒が、英語能力が不十分として特別なサービスが必要であったと推定した。
・合衆国の英語能力が不十分な生徒は、多様な国、文化および言語的な背景を有して来ているが、大多数はスペイン語を話す家庭である。スペイン語を第一言語とする生徒はLEP生徒のほぼ73%である。
・研究者たちは、文化的、言語的に多様な生徒たちが、調査と評価の過程で不利になることがあると考えている。(目次へ)
 
 

第三部 プログラムとサービス
 第三部における5つのモジュールは、障害児や彼らの家族のために学校内で有用なプログラムやサービスのいくつかを検討するものであり、全米アセスメントプログラム(National Assessment Program)の諸研究からのプログラムやサービスに関する予備的結果を含むものである。教育的環境に関するモジュールは、子どもたちがサービスを受ける措置に関する州の報告データを含む。第2のモジュールは、家族参加及び「初等段階における特殊教育縦断研究(special education elementary longitudinal study: SEELS)」からの初等中等学校生徒に関するデータが示されている。特殊教育教師の採用(補充)及び雇用が第3モジュールである。それは、特殊教育におけるパーソナルニーズに関する研究(Study of Personal Needs in Special Education: SPeNSE)からのデータと分析を提供する。第4モジュールは、早期教育に参加している子どもたちや家族によって受け取られたサービスを述べるためにNEILSデータが用いられている。本セクションにおける最後のモジュールは、個別障害者教育法の州及び地方実施状況(State and Local Implementation of IDEA: SLIIDEA)を記述しており,あわせて予備的所見が示されている。

障害児のための教育環境

・通常学校及び通常学級内で支援された6歳から21歳の障害児のパーセンテージは、継続的に増加している。
・授業日の21%以下の間、通常学級外で支援された6歳から21歳の障害児については、およそ70%が白人系、14%が黒人系、12%がヒスパニック系であり、2%がアジア・パシフィック系、1%は、アメリカインディアン・アラスカ先住民族系であった。
・情緒障害、精神遅滞、及び重複障害のある生徒は、授業日の60%以上を通常学級の外でサービス受ける傾向がある。

特殊教育を受けている初等中等学校生徒の教育における家族の参加

・最初のSEELS家族インタビューからの情報は、障害児についての家族参加与や、異なる障害、年齢、人種・民族的背景、世帯収入の生徒についての差違に関するいくつかの特徴を描いている。
・親の情報における参加、サポート、またはトレーニングセッションは、収入のレベルにわたって十分に一致していた。
・個別教育計画のプロセスにおける参加のレベルについて控えめな家族は、黒人系、ヒスパニック系、アジア・パシフィック系の家族、また低収入世帯から見て、不釣り合いであった。

特殊教育教師の採用(補充)及び雇用

・SPeNSEは、障害児を支援する職員数の全国的不足や、雇用された人々の資格に関する改善の必要性についての問題を検討するために計画された。
・1999年10月1日現在、適当な候補者が見つけることができないために、欠員のまま残されたり、或いは代理人によって満たされた有給のポジションは12,241あった。
・行政官によって言及された雇用についての2つの付加的な障壁は、学校区の地理的立地条件と不十分な俸給、利益である。双方は、行政官の50%もしくはそれ以上によって、多大な、或いは中程度の障壁として言及された。

早期教育に参加している子どもたちや家族によって受け取られたサービス

・パートCの下でサービスを受けている大多数の家族は、2つから6つの異なるサービスを受けていた。
・早期教育提供者の最も共通したタイプは、サービスコーディネーター、言語療法士、作業及び理学療法士、子ども発達スペシャリスト、及び特殊教育者であった。
・サービス提供者は、パートCの下でサービスを受けている子どもたちの大多数について肯定的進歩の評価を示した。

州、学校区、及び学校の影響を研究するための実施データの活用

・SLIIDEAの経費は、州、学校区、学校レベルで1997年修正個別障害者教育法において生み出された政策的変化の実施と影響の両方を理解するためのものである。
・SLIIDEAは,各州や地方がIDEAの目標を達成するために必要とされる懸案事項、すなわち、サービスの調整、報告責任システム、適正手続き(procedural safeguard)などの証拠を提示することを期待されている。
・州は、立法、記載された要求書、またはガイダンスや誘因、すなわち、インセンティブ、報奨金、制裁措置、技術的援助、財政的援助、及び地方レベルで特殊教育活動に影響を及ぼすための公的報告を通じたアカンタビリティーを活用できる。 (目次へ)
 
 

第四部 政策

第四部は、3つのモジュールから構成されている。第1のモジュールでは、個別障害者教育法の取り組みに対する州による改善とモニタリング調査、第2のモジュールでは、個別障害者教育法のパートDの取り組みをより進展させるために用いられた計画立案の進行状況について、第3のモジュールでは全米評価計画について述べている。

州による改善とモニタリング調査

・ OSEP(Office of Special Education Programs: 教育省障害児教育局)が実施した3年間にわたるモニタリング調査では、多くの州が、個別障害者教育法のパートCの取り組みが十分になされていない場合の確認と、その改善のための有効なシステムをまだ持っていないことが明らかになった。
・OSEPの調査によれば、いくつかの州においてはパートCの取り組みが順調になされていることを見いだされた。このケースでは、特に親と、個別障害者教育法のパートCを進めるためのシステム、障害生徒のスムーズで効果的な進路移行措置を支援するための地区教育委員会との相互間の強力な連携が見いだされた。
・OSEPの過去3年間の調査によれば、多くの州では移行措置に関しては十分に取り組みがなされていないことが判明した。16歳以上の個別教育計画では、今や進路移行についてほとんどの場合含まれているものの、進路移行サービスの必要性についての記述は、個別障害者教育法のパートBには見られない。

全米における個別障害者教育法パートDの取り組みのための包括的活動計画:課題と機会

・OSEPはそのスタッフによって長期的活動計画を推進してきた。推進にあたっては、従来進められた計画の効果やそこから見いだされた提言から学んだ教訓についての情報を収集した。
・活動計画の推進にあたっては、通常教育や他の連邦政府機関および関係機関との連携協力を図った。これは、家庭や学校、地域社会、州などの草の根的なレベルで直接的に連携協力が図られた。
・OSEPは、全米活動計画の推進にあたって5人の有識者によって提供された専門家レベルでの意見を参考にしている。また、同時に関係機関と財政資金の出資代表者間の話し合いを進め始めている。

教育省障害児教育局の全米評価計画

・全米早期教育縦断研究(The National Early Intervention Longitudinal Study: NEILS)では、個別障害者教育法のパートCに基づく早期教育サービスを受けている0歳から2歳までの乳幼児とその家族を調査している。その調査によって、対象者の特質や対象者が受けているサービスのタイプや水準、サービスの提供者、パートCによって実現された成果、対象者の特質の違いによるつながり、効果的なサービスなどが明らかにしようとするものである。
・小学校前教育縦断研究 (Pre-elementary Education Longitudinal Study: PEELS)によって、3歳から5歳までの子どもの研究が進められるであろう。研究の焦点は幼稚園前と幼稚園間の進路移行について、および修学前の特殊教育プログラムの対象となった子どもたちの教育成果についての検討である。
・小学校特殊教育縦断研究(The Special Education Elementary Longitudinal Study: SEELS)によって、全米から抽出された生徒の追跡調査が行われるであろう。本対象生徒は小学校から中学校および中学校から高校へ進学する生徒たちである。
・全米進路移行縦断研究−2(The National Longitudinal Transition Study-2: NLTS-2)により、13歳から16歳の生徒各個人と家庭の特質によって決定された事項すなわち、標準化された評価テストの成就値や中学校での成績とその結果、早期就業や教育および自活ならび社会的活動範囲の状況に関するデータが収集されるであろう。
・特殊教育の個人的ニーズの研究(Study of Personnel Needs in Special Education: SPeNSE)の焦点は、特殊教育を進めるためのスタッフ配置の適否についてであり、スタッフの人員数と州や地区教育委員会の政策に基づいたサービスの質などの差異について明らかにしようとするものである。
・州や地方レベルにおける個別障害者教育法の履行(The State and Local Implementation of IDEA: SLIIDEA)の研究では、個別障害者教育法の実施状況について評価のための調査研究計画が立てられた。調査研究計画にあたっては6地域群における個別障害者教育法の履行上の問題点に焦点があてられた。
・特殊教育にかかる経費歳出プロジェクト(Special Education Expenditure Project: SEEP)は、連邦や州および地域において、障害生徒のための支援計画やサービスに必要な財源確保をどのように行っているのかを調査しようとするものである。(目次へ)