Repor to Congress


アメリカ合衆国

個別障害者教育法(IDEA)第17回議会報告書

Seventeenth Annual Report to Congress on the Implementation of The Individuals with Disabilities Education Act, 1995. U.S. Department of Education, Washington DC.

翻訳と解説 1996年11月14日更新 Copy Right Shigeru Narita, Ph.D.

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アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第19回議会報告書

アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第18回議会報告書


この報告書は、個別障害者教育法の施行状況に関する第17回の報告である。この立法の趣旨は、以下のようになっている。

第1章 障害児の教育措置形態と教職員体制

障害児教育局(OSEP)に提出された各州ごとの統計と分析結果をここに公表する。連邦政府からの障害児教育に関する予算措置に関する要約もあわせて含める。

・障害児教育局の先端開発部、および重度障害課は過去10年間にわたって一体化教育を推進する研究を支援してきた。こうした活動のいくつかは、特別研究的な課題を支援し、また他のは一体化教育の実践例や教育事例を支援してきた。

・最近5か年間に6才から21才までの人に対する通常学級での教育措置は10%の増加である。リソースルームでの措置は減少し、他の措置形態は変化がない。

・1992-93年度の場合、95%のなんらかの障害があるとされる生徒は、普通校で措置された。6才から11才までの生徒の場合は、通常学級で指導されるようである。この傾向は、一体化教育の影響で今後も続くと考えられる。

・1994年度では、個別障害者教育法のパートBによって連邦政府は各州に対して2億1,490万ドルの助成を行った。生徒一人当たりの支出は413ドルであり、この額は過去3カ年ほぼ横這いである。

・アメリカ学校改革法によって初等中等教育法は支援されたが、チャプターワン・プログラムは支援されなかった。1995年5月より、すべての障害児は個別障害者教育法のパートBによって措置される。1994年の場合、チャプターワン・プログラムによる生徒一人当たりの支出は387ドルであった。

・1994年度では、個別障害者教育法のパートBとチャプターワン・プログラムを合わせた予算は、前年度より4%増の8,740万ドルであった。

・1993-94年度では、537万人の嬰児から21才までの人々が個別障害者教育法のパートBとチャプターワン・プログラムによって措置を受けた。この数は1976年に障害児教育が法制化されて以来、最高の伸び率である4.2%を記録した。

・6才から21才までの学習障害の数は、障害児教育の措置を受けた者の半数以上の51.1%を占めた。言語障害、精神遅滞、重度情緒障害で残りの41.4%を占めた。

・脳損傷、病弱、自閉の占める割合はすべての障害児の3%に過ぎないが、こうした生徒数は最も増加が目立つ。この理由は、こうした障害種別が最近用いられたためと推測される。病弱などの生徒数の増加は、措置人口の増加による。特に注意欠陥障害(ADD)の増加はその1例である。

・1992年度の場合、障害児教育局は変更されたデータ収集様式を使い、各州からのデータを集計した。この新しい収集様式では、従来の障害児教育システムでの障害児の把握ではなく、14才以上の生徒を特定することにした。これによると、卒業証書や修了証書をもらう14才以上の生徒数は、過去5か年の数とはほとんど変わっていない。この傾向は他の障害についても同様である。

・自己充足度評価(PASS)の結果は、パイロット研究として学校行政で生徒が期待した措置を受けられたかを調査するものであるが、それによると最も要求の高かった項目は、ケースマネージメントへの期待であった。その他、教育の選択自由やレクリエーションや余暇サービスへの期待が高いことが判明した。

・6才から21才までの人々を指導する教員数であるが、1991-92年から1992-93年は、0.7%の増加であった。1992-93年度の場合、最も多い教師の領域は学習障害であった。

・3才から21才までの人々に関わる介助教員は、障害児教師を除く他の教職員の間では半数を超える55.7%を占めた。にもかかわらず、各州からの報告によれば最も必要としている職員は、介助教員である。こうした報告では、現在不足している教員免許状を持たない職員の穴埋めのために5,000名の常勤の介助教員が必要であるということである。

第2章 障害のある嬰児・幼少児への措置

本章は、個別障害者教育法のパートHでうたわれる嬰児への早期教育と、同じくパートBにある幼児への早期教育についての報告である。この内容は、州が提出した各州の取り組みや障害児教育局が補助金を出している0才から5才までの障害児用早期教育プロジェクトの分析についてである。

・1993年は、パートHプログラムの実施に必要な連邦予算を受けるための要件が課せられた最初の年度である。連邦政府より、これまでの1億7,280万ドルから2億1,320万ドルが支出されその増加率は23%となった。

・各州からの報告によれば、1993年度に早期教育措置を受けた嬰児の数は154,065名で、これは0才から2才までの人口の1.3%にあたる。この数字は、過去3か年同じような傾向を示している。

・障害のある嬰児・幼少児が措置を受ける場所は家庭が中心であり、その他病院や早期教育機関などが続いている。1992-93年度は、1) 家庭教育/カウンセリング、家庭訪問、2) 特別指導、3) 言語治療などが最も多い措置であることが判明した。

・嬰児・幼少児とその家族への措置にあたる職員に関する州からのデータの収集は困難である。そのため、1995年からデータ収集のための新しい様式が作られた。それによると、措置にあたる職員で最も多いのが医療関係者であり、続いて教師、言語療法士などであった。言語療法士が最も必要として専門職員であるということも判明している。

・パートHによる教育措置の実施は、なお課題を持っている。州のデータ収集の改善も続いている。さらに、各州は、さまざまな措置財源、法令、措置プログラムなどの調整に苦悩している。
・1994年度は3億3,900万ドルが幼少児補助金プログラムとして使われた。これは1993年度の3億2,600万ドルに比べて4%の増加にあたる。しかし、1994年度の措置を受けた幼少児の数は49万人あまりで、1992-93年度に比べて8.3%の増加を示した。

・1992-93年度は19,000名の専従教員が、3才から5才の早期教育プログラムのために採用された。だが、2,200名あまりの教員が不足している。

・州の報告によれば、幼小児への教育措置と他の措置との調整が必要であるということである。NES*TASという調査によれば、15の州や行政機関は、パートHでうたわれる機関間調整委員会の中心は、0才から5才の子どもへの措置にあるとしている。ヘッドスタート・プログラムに関する機関間合意も強化されるとしている。パートHのプログラムから幼小児への教育措置への移行は多くの州の抱える課題であり、子どもの教育ニーズに適合する施策の実施や移行のための合意が必要とされている。

・1994年度は、「早期教育プログラム」は116のプロジェクトを支援した。その内訳は、34の先導的プロジェクト、45の支援プロジェクト、21の職員研修プロジェクト、4つの実験プロジェクト、6つの研究プロジェクト、5つの州データシステム・プロジェクトなどとなっている。

・教育省は、パートHプログラムに関連する特別研究に補助金を出している。次ぎの二つの研究はその例である。すなわち、「早期教育措置と費用の算出に関する根拠」、「パートHにおける家族支払いシステムの利用」である。

第3章 中等教育の経験と中等教育終了の成果との関連

本章は、「全米長期移行研究」(National Longitudinal Transition Study-NLTS)を取り上げ、通常の中等教育を終えた障害のある生徒の進路に関するプログラム、成果など進路調査結果を報告する。

・NLTSデータは1985-1990年度に中等教育を受けた障害のある生徒の措置プログラムである。一体化教育を受けたなかで、どのような支援が行われたについても報告している。

・通常教育を受けることと、望ましい成果との関係について報告されている。データによると、軽度の障害の生徒がより多く通常学級で指導を受けている。こうした環境では、知的・社会的能力の発達が全体的に目立っており、卒後の経験のために役立っているという報告がなされている。

・9学年から12学年で学んでいた障害のある生徒の30%は中途退学した。さらに8%の生徒は9学年に達する前に退学した。こうした中途退学者は、後期中等職業教育を受ける機会が少なかった。

・NLTSによると、ほとんどの障害のある生徒は中等教育においてなんらかの職業教育の機会に浴することができた。職業教育は、人気のある雇用の機会を求める上で有意に貢献していた。

・全米教育協会(American Council on Education)の報告によれば、障害のある学生の大学入学者数は、1978年から1991年にかけて2.2%から8.8%に上昇した。一方、NLTSによれば障害のある学生のうち中等教育後3か年で16.5%の者がなんらかの大学教育を受け、14.7%の者が後期中等教育における職業教育を受けた。

・後期中等教育を受けた障害のある生徒の70%は、75%以上の時間を高等学校で勉学していた。
・障害のある学生で通常の高等学校教育を受けた者は、そうでない者に比べて、高等学校卒業後3年間でより雇用の機会を得、さらに給与も高いことが判明した。しかし、障害のある者は全体としてみれば、障害のない者よりも雇用の機会に恵まれていない。

・高等学校卒業後は、障害のある者はそうでない者と比べて独立して生活する率が低い。NLTSによれば、28%の障害のある者は、高等学校卒業後の3か年で自立するという。自立して生計をたてる者のうち、視覚障害者が最も高く、重複障害、精神遅滞、肢体不自由などの者の場合は低い。自立している者の2/3は、75%以上の時間を高等学校ですごしていたということも判明している。

・通常教育を受けた者は、地域社会の生活によりとけ込んでいる。75%以上の時間を高等学校ですごした者のうち、障害のある者の50%以上は就職したり、学習を続けたり、婚約したり結婚している。

第4章 障害児教育の成果

生徒の学習成果は、全米的な関心事である。特に障害児教育の教育成果は年々関心が高まっている。というのは、この類の情報はこれまで欠如していたからである。この章では、全米教育成果評価センター(National Center on Educational Outcome-NCEO)が公表している情報を取り上げる。全米教育成果評価センターは1990年にOSEPの補助金によって設立され、障害児教育の成果の評価を主たる任務としている。本章は、全米教育成果評価センターが行っている州と全米の障害児教育の成果の評価について触れる。

1. 各州は、障害児教育において部分的に独自の評価システムを使って教育成果があがっていることを報告している。教育成果が上がっているという規準は:

  (1) 評価に障害児を特定していること、
  (2) 障害児参加のガイドラインが策定されていること、
  (3) ガイドラインの実施方法が明記されていること、などである。
2. 1993年に行った調査にようると59州のうち、障害児の教育成果を州でとりあげたのは6州であった。その調査による障害児教育の評価であるが、26の州は、50%以下の障害児が評価の対象となり、13の州は、50%以上の障害児が評価の対象となった。14の州は、障害の割合を特定できなかったと報告している。

3. 1993年では、34の州が州全体の評価に障害児を加えるガイドラインを策定していた。多くの州は、障害児の教育評定に関してガイドラインではなく、一つ以上の規準項目を作っていた。こうした規準項目で最も多かったものは、IEPでうたわれる生徒のカリキュラムと推薦された領域に関することであった。

4. 教育成果の評価に関して州全体の体制を整えたり改善した州は、過去3か年増加した。全米教育成果評価センターは、4つの広領域における評価項目が強調されていることがわかっている。それは、(1) 評価の時期と日程、(2) 評価フォーマット、(3)実施方法、 (4)評価の検討である。

5. 1994年に全米教育成果評価センターは、州が評価を行うためのガイドラインを作りそれを発表している。全米教育成果評価センターのガイドラインは3つの領域からなっている。すなわち、参加方法、実施と調整、そして実施チックリストである。

6. 1992年の全米成人文盲調査(NALS)では、障害者が含まれるようになった。実施方法を不適切に使うと、調査結果の信頼性が問われるが、全米成人文盲調査によると10の自己申告による障害者の文盲についての調査結果を発表している。それによると、障害者の文盲率は、そうでない者に比べて全体に文盲率が高いことが判明した。しかし、個々の障害別でみると、障害者の中では読字率が極めて高い人がいることも判明している。

第5章 障害児教育と財政

本章は、特殊教育財政センター(Center for Special Education Finance: CSEF)が50州を対象とした1993年度と1994年度特殊教育財政の調査報告である。特殊教育財政センターは障害児教育局によって設立され、議会、連邦政府や州政府や自治体の行政関係者に障害児教育に関する財政データ、その分析、知見などを提供してきた。特殊教育会計センターは、次のようなプロジェクトを実施している。すなわち、州レベルの障害児教育財政改革調査、一体化教育の推進と財政政策のガイドラインの策定、州レベルでの費用効果分析の事例調査などである。

・1994年に特殊教育財政センターは、各州の障害児教育の人事に関する改革について調査した。それによれば過去5年間に18州が財政上の改革を導入し、28州が大幅な改革を計画しているということである。22州は、いまだ改革を行うかどうかを決めていない。調査に対するこうした州からの回答は、次の5つに集約される。

   1) より柔軟に措置できる方法
   2) 制約を課する措置に対する優遇を廃止すること
   3)   財政上の理由で改革が必要である事情
   4) 増大する費用と生徒数
   5) 一体化教育の進行とその支援体制
・ いくつかの州は、従来の措置費用の決め方を廃止し、推測統計に基づく財政システムを導入している。これまでの決め方は、障害児を発見して措置費用を決めるというものである。他の州では、一律に障害児一人当たり費用を算出する方法をとっている。

・特殊教育財政センターは、行政担当者が一体化教育を推進するための政策を立案するためのガイドラインを策定している。それらは次ぎのとおりである。

   (1) 分離教育のための優遇措置をなくすること
   (2) 私立学校での措置を支援すること
   (3) 制約の少ない措置先に移行する場合も補助金がそれに伴って移行するシステムの導入
   (4) 学校区レベルでの研修とその予算的な支援、
   (5) すべての生徒に対する適切な教育措置の検討
・特殊教育財政センターは、ケンタッキー州で取り入れている障害児教育財政配分方法を分析した。それによると、州と連邦政府からの補助金システムは、障害児教育を支援し実施する上で適切であることが判明した。この調査によれば、障害児教育に要する収入と支出とは均衡しているが、障害に対応した費用の配分については、なお大きな違いがあることが判明した。平均すると、収入に対する支出の割合は、最も貧しい生徒に対する費用が最も少ないにもかかわらず、障害児教育を必要とする生徒数は最も多かった。またこの調査によると、ケンタッキー州の場合の費用配分については、ある障害領域においては傾斜配分をとっていないということである。

第6章 障害児教育における州と学校区

本章は、障害児教育局が州や学校区が障害児教育を実施するための支援や財政監査の方法を述べる。

・各州は、パートBの規定に基づきあらゆる法令や施行規則を遵守しなければならない。地方の学校区が、パートBや連邦行政施行規則にそって実施しているかを監督するために、障害児教育局は多角的な監査制度を導入している。

・効果的な教育の成果評価システムは、所期の教育目的を成就するためには極めて重要なことである。障害児教育局は、過去2か年にわたり研究、革新、支援などの分野との協力でこの評価システムの強化を図ってきた。こうした努力は、法令や施行規則の遵守によるより効果的な障害児教育の実施や改良に役立つと考えられる。

・障害児教育局は、IDEAの規定は一様に重要であるとしながらも、部分的な規定は、障害児の措置にとってより直接的にかかわる重要な規定であると認識している。障害児教育局は、こうした重要な項目についての監督や監査には特に力を入れており、その実施にいっそうの努力を払っている。障害児教育局はまた、IDEAの趣旨を実行するのは第一義的には州であること、それを実行するには親の障害児教育を受ける権利を保障することにあると考えている。従って、障害児教育局の州に対する監督と監査事務は、州のシステムがこうした点において機能しているかを調べることにある。

・1994-95年では、障害児教育局は、こうした障害児の教育成果に最も関わる規定について集中的に監督してきた。さらに障害児教育局は、監督監査において広範囲な人々が参加できる方法を講じてきた。このような努力によって、州と一体になり法令の規定の順守と実施にとによって教育成果の向上を目的とするために、州を支援してきた。

第7章 学校区における障害児教育の実施

本章は、各地の学校区における教員や行政管理者が直面しているさまざまな状況を述べ、適切な公教育を提供する姿を報告する。ここでは「農村部」といわれる学校の現状を述べる。

・農村部といってもその規模や内容はさまざまであり定義も多岐にわたる。公立学校共通情報(Common Core of data Public School Universe)と学校職員調査(School and Staffing Survey)が参考になるが、1989-90年度の統計によると全米の28%の公立学校は農村部にあり、1990-91年度の調査でも27%が農村部にある。

・農村部の学校区は、都市部の学校区に比べてより多くの障害児を普通学級で指導している。農村部の学校区では、14.6%の障害児が固定の特殊学級で学ぶのにたいして、都市部では25.3%の障害児が固定の特殊学級で学んでいる。いずれの学校区でも約.5.5%の障害児は自分の学校区以外の学校で学んでいる。 ・1990-91年度の統計によれば、都市部と農村部の学校区ともに学齢期の10%くらいの児童生徒を障害児教育で措置している。

・農村部の学校区は、障害児教育サービスにさまざまな課題を抱えている。すなわち、貧困な家庭からの子どもが多く生徒数の22.9%となっている。一方都市部では貧困な家庭からの子どもは20.6%となっている。さらに、農村部の学校区では、長期にわたって貧困な家庭からの子どもを指導する傾向がみられる。地理的に隔絶する学校区では、障害の発見、特別な教育措置、人的な資源の活用などで困難に直面している。

・農村部の学校区は、教職員の確保と転出に苦慮している。そこで働く多くの教職員は、社会的文化的に孤独であると感じている。障害児教育局は、こうした学校区を財政的に補助し、教職員の確保を支援している。

・「全米長期移行研究」は、障害者の高等学校から成年期への移行に関する情報を提供している。農村部に生活する障害者の移行に関する資料も提供している。それによると、農村部では、約半分くらいの時間を教科の学習に使い、53.5%の者が職業教育を受けている。一方、都市部では50.6%の者が職業教育を受けている。さらに、農村部では62%の者が学校教育においてなんらかの職業訓練プログラムを受け、都市部では58.9%の者が職業訓練プログラムを受けている。高等学校レベルでは、農村部の生徒の職業訓練プログラムでは、建設関連が32%、事務職が22%、農業が20%となっている。

以上