■本の紹介
「重度知的障害への挑戦」 ボブレミントン編 二瓶社

 以前、「重度知的障害への挑戦」(ボブ・レミントン編 二瓶社 ISBN4-931199-63‐1)という書籍を、この ML で紹介させていただきました。いまだになかなか読めずにいますが、一部の章だけ要約してみました。要約箇所は、「第 8 章重度あるいは最重度の知的障害者のためのマニュアルサインによるコミュニケーション」です。少し長文ですが、お許しください。

「重度知的障害への挑戦」 ボブレミントン編 二瓶社

第 8 章 重度あるいは最重度の知的障害者のためのマニュアルサインによるコミュニケーション by Pieter C. Duker and Bob Remington

○序
 重度あるいは最重度の知的障害者の約 80% が効果的なことばを習得し損なっており(Garcia and Dehaven,1974)、こうした人々のためにはマニュアルサインが、コミュニケーションの実行可能な代替手段となるだろう。
 ・サイン使用のための対象の選定
 大脳皮質のブローカー領域やウェルニッケ領域の神経的損傷に苦しむ人々、小頭症、先天性風疹、プラウダーウイリー症候群、き弱性 X 症候群、舌が大きいために発音に困難を伴うダウン症候群を有する人々などがサイン指導の対象者として考慮される。
 ・指導するサインの選定
 サイン語彙の選定で第一に考慮すべきことは、サインの習得が彼らの社会的環境や身体的環境に対する制御コントロールの機会を増やすかどうかということである。さらに、
  1)そのサインは推測しやすいか
  2)サインは遂行しやすいか
  3)サインに対応する単語についての受容的理解がどの程度できているか
などが、サイン習得に影響する重要な要因である。

○サインの刺激性制御を転移させる手続き
 様々な指導訓練の研究成果があるが、大切な点は「自発的に」サインするように教えること。

○自発的で伝達的なサイン
 Carr and Kologinsky(1983) は、自閉症児にマンドとしてのサインのセットを教えるための模倣プロンプト、フェーディング、分化強化パッケージにより、対象児の自発的で多様な伝達サインの獲得と般化を示した。また、Duker and Moonen(1985) は、自発的な伝達サインが直接訓練されなくても、その支援者を訓練することの付随効果として出現することを見いだした。
 ・般化の問題→施設での使用、地域社会での使用を想定してプロンプトシステムをつくることが大切。
 ・自発的サインの問題
 問題1)Yamamoto and Mochizuki(1988) は、マンドとして機能していると考えられる発語が、実際は非特定てきな結果により維持されていることを見いだした。また、Duker, Dortmans and Loodder(1991) も、多くのサイン語彙を持つ 5 人の重度あるいは最重度の知的障害者が、明白な要求の後に、提供された非対応物品のほとんどすべてを受け取ることを見いだした。
 問題2)多くのサインによるマンドを学習した人々が自発的にサインの一部のみを使用したり、習得済みのサインがあるのにもかかわらず限定的固執的に使用する可能性がある。
 上記の対応として、自発的なマンドは 2 段階の手続きとして教えることができることが示唆されている。最初に、集中的で断続的な試行に基づいて定義済みの訓練刺激の提示に対してサインするように生徒に教える。次の段階では、サインの刺激性制御を「何が欲しい?」という質問に転移させる手続きを実施。この段階では生徒の自然環境において、自発的で多様なサインを確立させ増加させるために機会利用型指導手続きを使用できる。また、この段階では、様々な伝達的なサインを増加させ維持させるために、高い頻度で自発されるサインを一時的に無視する場合も考えられる。

○伝達的なサインと行動問題
  Talkington ら (Talkington and Hall,1969; Hall and Altman,1971;Talkington, Hall and Cleland,1971) による相関研究によれば、音声および非音声いずれのコミュニケーション行動も持たない重度あるいは最重度の知的障害者は、コミュニケーション行動を持つ人々よりも問題行動を示すことが多いことが示されている。これらの知見は、よく知られているフラストレーション−攻撃仮説により解釈されているが、他の説明として、確実にコミュニケーションできる人々は、おそらく適切行動に対して指導員からの注目をより多く受けており、これは、問題となる行動とは機能的にあるいは反応型として両立し得ない適切行動をより確かなものにする。
 問題行動と機能的に等価なコミュニケーション行動を教えること、MAS 尺度の活用等→(本書以外でも広く知られているため省略。また、本書では、機能的に等価なコミュニケーション行動を教えることに対する内的妥当性--例えば、指導者の介入そのものが注目機能となって働き、結果的に問題行動を減少させていないか--などの研究ついても言及しているが、結果的には内的妥当性に問題はなかった。)

○結論
 いったん、自発的で伝達的なサインが自然環境で生起するようになると、それは指導員にいくつかの問題を引き起こす可能性を持つ。
 問題1)サインは、その人が示す他の運動的反応に隠れて目立ちにくいことが多く、指導員がサインと同定するのが難しい。
 問題2)彼らの生活環境における社会的な部分が、以前のコミュニケーションのない状態に順応してしまっているかもしれない。例えば、トイレへのマンドとしてマニュアルサインを使用するように学習したのにもかかわらず、学習者は提示にトイレに連れて行かれるかも知れない。
 しかしそれでも、サイン獲得の重要性を我々が認識することは大切。サインのレパートリーは、問題行動の減少をもたらすだけでなく、さらに、多少なりとも他者との意図的な相互作用が可能となる社会的、物理的環境をコントロールする手段を彼らに与える。

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