教職課程における教育内容・方法の開発研究事業 文部科学省助成局助成 2001年度中間報告

英語  情報通信ネットワークを使って「コミュニケートできる英語」を養う指導法の開発

研究代表者
成田 滋

この国の英語教育と文化を一つの事例から考える



兵庫教育大学カリキュラム開発研究会

成田研究室

naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp


英語指導改善の起死回生策 --小学校から耳学を中心とした一貫教育と「英語で学ぶ」授業を


 兵庫教育大学学校教育研究センター
 成田 滋 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp



英語能力試験の結果
                    
 英語は教科の中で大きな位置を占めている。それにもかかわらず、我々の英語は一向に実用に耐えられない状況が続いている。それを端的に示す数字としてしばしば引用されるのが、英語の能力テストの一つであるTOEFLの結果である。

 TOEFLは、外国の大学に進学するときには不可欠な英語能力試験である。非英語圏からの受験生が、大学の授業を受ける能力があるか否か決めるために、米国やカナダ、さらにニュージランドやオーストラリアの大学が留学生に受験を義務付けている試験である。TOEFLは、聴解力、語法・文法に対する理解力、読解力を審査する。筆者の経験では、米国やカナダの4年制大学の学部レベルでは520点以上を指定するところが多く、大学院修士レベルでは550点以上を要求される。ちなみに母校であるアメリカ・ウイスコンシン大学の修士課程では、550点が入学の最低点となっている。

 1998年度の受験者は161カ国の地域で約34万人であり、そのうち日本人は約10万人を占めた。日本人受験者の平均点は501点で、世界39カ国地域中、33位となっている。アジアの21カ国では18位という深刻な点数となった。日本人の平均点が低いのは受験生が多いためとも考えられるが、受験者が7,000人だった1976年度は483点であるから一概に受験生が多いために平均点が低いとは断定しがたい。ちなみに、1998年度に約7万人が受験している中国は562点であった。

 2001年1月19日の「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」が最終報告を出した。この報告は、英語教育を国民全体の英語力を高めるための方法と国際的に活躍する人材のための高度の英語力の養成とに分けて考えるというものである。報告書では、小中高大の一貫した英語教育の指導方法を提示している。同時に、各段階での到達目標、評価基準、シラバス(授業計画)や教材の開発、情報機器の活用、教員研修の在り方、外国語指導助手(ALT)の増員と採用条件などについて幅広く、かつ具体的に触れている。

 大学における語学教育も大いに改善の必要がある。大学では、従来「英語を学ぶ」のところであった。これからは「英語で学ぶ」に転換しなければならない。懇談会は、カリキュラム編成への転換を指摘し、大学は国際社会の変化に対応して活躍し知的国際貢献を担う人材の養成が緊急の責務であるとしている。
 
危機感の欠如と提案

 懇談会が示した最終な英語教育に対する一つの方向性は、このままでは日本は、世界の舞台で立ち向かえなくなるのではないかという危機感である。国際化、情報化、グローバル化が不可避的に進行する今日、日本人がこのままの状態で外国語、特に英語の運用能力を欠如したままでいると取り残されるという危機感である。

 事実、我が国は国際的に大きく立ち遅れているばかりか、韓国、シンガポールなどアジアのいわゆる漢字文化圏の諸地域に比しても国際的な発信力においてはかなり低下している。このままでは、みせかけの経済大国に転落するのではないかという危機意識は、残念ながら国民の間では弱い。そうした状況への警鐘がこの報告書である。

 これからの国際社会においては、言語のもつ意味がさらに重要になり、同時に国際コミュニケーションの手段としては国際共通語としての英語がさらに多様化して、即時的に使われるであろうことは論を待たない。報告書は、少々斬新な提案を次のようにしている。すなわち、
 1) .企業や官庁は人材の採用に際して英語力を極力条件にする
 2) 教員、特に大学教員の英語力を高めるために、教員人事においては外国語の運用能力を考慮するとともに、世界各国から優れた人材を採用して大学の国際化を推進する
 3) 従来の教育における平等主義や平均主義を排して、英語学習における明確な動機づけや目標を重視し、能力に応じた習熟度別のクラス編成を実行する
 4) 教材を日本社会の日常性に求める
 5) 大学入試においてもTOEFL、TOEIC、ケンブリッジ英検などを積極的に活用する
 6) ALTの採用にあたっては国籍や人種を問わず、アジア地域などからも採用する
 7) 外国体験の豊富な社会人なども特別講師として採用する
 8) AFS、YFUなど有益な高校生留学を支えてきた民間団体への助成を強化するなどである。
 
早期の語学教育は耳から

 小学校から「教科としての英語教育の可能性を含め、今後も積極的に検討をすすめる必要」は遅きに失した提言である。幼児期からの早期教育の開始も無条件で賛成すべき提案と考える。早期教育の語学は耳学から始めるべきである。つまりオーラルな外国語教育を幼児から始めるのである。オーラルなメソッドの典型は、音楽教育におけるスズキメソッドである。語学も音楽も耳を使わずして上達しない。

 我が国の生徒は、自ら進んで相手に語りかけようとしない。そうした訓練も受けていない。英語もそうで、「自ら話そう」としないために、いつまでも「英語がはなせない」でいる。このような状態では、若者がいかに頻繁に海外に旅行しようとも、世界に雄飛して活躍などできるはずがない。これまでの英語教育は根本から間違っている。これからでも遅くはないが、国際社会で活躍しようとするならば、大学時代の短期集中的な英語教育をきちんと受け、TOEFLのテストを受けて海外留学に挑戦するという姿勢が重要である。
 
おわりに

 今回の報告は、「21世紀日本の構想」懇談会のいわゆる英語公用語化論を提起した時期と重なり、多くの注目を浴びた。ただ言えることは、英語公用語化論の賛否と英語指導方法の改善は、無関係であることである。英語公用語化論は、今後時間をかけて討議すべき一つの提案なのであるが、英語指導方法の改善は国是ともいうべき緊急の課題なのである。

 英語教育に力を注げば国語力が低下するといった議論は、的がはずれている。なぜならば、ヨーロッパの多くの人々は、国語の他に数カ国語に精通しているのである。彼らから自分の母国語の力が低下したとはきいたことがない。「外国語を一つ学び、用いるようになったぐらいで低下する国語力だとしたら、そのような国語力そのものが危ういのである。また日本の伝統文化や母語というものは、外国の文化や言語にさらされて相対化されてこそ、より一層光り輝くものだからである。」は傾聴すべき意見である。

参考 
 英語指導改善報告の狙い 2001年2月24日(土) 日本経済新聞