2002 年 11月会報 No.142..
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■「MES 自作教材集 CD-ROM2002」自作教材の募集と制作のお知らせ
 ・お知らせの内容


『自閉症の息子たちのためにサービスを選ぶ』--その一

  I.誰のためにサービスがあるのか ―家族のごく普通の地域での生活のために―

東京都 野口美加子

1. 家族にとってのサービス
 我が家には、大学一年生、都立養護学校高等部2年生、国立大学附属養護学校高等部1年生の三人の息子がいます。次男、三男は知的な遅れをともなう自閉症です。兄弟でも障害の内容は非常に異なり、各々の生活上のニーズは決して同じではありません。教育的なニーズが違うために、息子たちは別々の学校に通学しています。次男は、言語による理解が多少できるので大きい集団での行動が可能です。一方、三男は表出言語が全くなく、言語による理解は限られた場面でしかできないので、小さい集団のほうが本人にとって適応しやすいのです。このような障害特性の違いを考えると、高等部卒業後の進路についても違った形の就労形態が予想されます。

 加えて,地域で生活する上での支援の在り方も、次男と三男とでは同じ形をとることはないと思います。例えば、三男は、安全面から外出時には必ず付き添いが必要です。今後、ガイドヘルパーのサービスを積極的利用できればと思います。次男は早い時期にグループホームなどでの生活を始められたらと考えています。

 しかし、身辺自立がまだ不完全な三男はそのための準備として、ショートステーなどのサービスを利用して、将来の家からの自立に向けた準備をしなくてはなりません。このように、発達障害のある子どもとその家族が医療・教育・福祉のサービスを必要とするのは、子どもの障害とケアの方法を理解し、彼らの発達を保障し、家族としてごく当たり前の地域生活を送るためなのです。

2.医療の場、教育の場、福祉の場でのサービス

 親が子どもに発達障害があると分かった時から、医療の場、教育の場、福祉の場で様々な専門家と出会い,子どもと家族が必要とするサービスを選択し、受けています。まず、医療の場をあげてみましょう。子どもの発達が普通とは違うと感じた時、やはり最初に相談するのは小児科の医師です。しかし、自閉症の障害の診断は,水疱瘡の診断のように簡単ではありません。最初から、その障害について詳しい医師に巡り合えればよいのですが、現実にはそうではありません。今でも息子たちは自閉症を専門とする精神科の医師と臨床心理士の定期診断を受けています。やはり、息子たちの身体的そして精神的な発達を把握しておくことはとても大切ですし、親としても安心できます。

 次に教育の場を考えてみましょう。コミュニケーションに障害がある息子たちは、言語を中心とした集団での学習が困難です。彼らの発達にあった働きかけが可能な教育の場を捜すことは難しい課題です。小学校、中学校、高校を選択する時は大変悩みましたが,息子たちがお世話になっている学校関係者と医療関係者の意見を参考にしながら、息子たちにとり適切な教育の場を捜しました。v
 福祉の場でのサービスでは、公的なホームヘルプなどのサービスがありますが、最初はどのような種類のサービスがあり、どのようにしたら受けられるのかについて理解することは難しいものでした。また、自閉症という障害の特徴から第三者に預けにくい面があり、現実にはなかなか適切なサービスがないのが現状です。

 このように、残念ながら医療・教育・福祉のサービスはまだ縦割りになっている場合が多く、サービスを受ける当事者としては、非常に不都合な面があります。障害のある子どもとその家族の生活をトータルに支える必要性と、各々の分野のサービス内容が重なり合うことを考えたならば、この三分野でのより良い連携が求められています。

II.最初に受けたサービス ―米国でのサービス―

 次男に自閉症の障害があると初めて分かったのは米国で生活していた時でした。1年間ほど、米国ボストンで特殊教育のサービスを受ける機会がありました。その後、1988年に日本に帰国して以来、米国での経験を踏まえながら、我が家にとり必要なサービスを考え選択しています。この15年前のアメリカでの経験は、帰国後の息子たちとの生活を組み立てる上で貴重な指針となっています。

 1. 小児科医の定期診断から

 家族で加入していた健康保険(HCHP: Harvard Community Health Plan )は、ボストン市内の何ケ所かにクリニックをもっていました。保険に加入すると、家の近くにあるクリニックに登録します。家族全員の定期的な健康診断がありました。次男は1歳半で渡米しましたが、2歳近くになっても言葉がなく、耳が聞こえていないのではと思うことや、対人関係についても少し他の子どもたちとは違うように感じることがありました。ただ、長男も言葉が遅かったこともあり、環境の変化もあったので小児科の先生とも相談して様子を見ていました。2歳の定期検診の時、小児科医の勧めにより、聴覚検査と精神科医の診察を受けました。クリニックには専門医がいるので、簡単に検査や診察の予約がとれました。また、バイリンガルの問題も考えられるため,言語療法士によるアセスメントを受けることにしました。

 このような検査や診察の結果、二男には特別なニーズがある可能性が明らかになり、ベルモント町の教育委員会に連絡するよう言われました。公費で正式なアセスメントと,それに基づく教育を3歳になったら受けられるとのことでした。

 2. ベルモント町教育委員会のコーディネーター

 教育委員会に連絡すると、教育委員会の言語療法士の資格をもったMs. Eliasが二男の担当のコーディネーターになりました。彼女は親へのインタビュー、アセスメントについての手続き、学校についての情報収集係、相談相手になってくれました。彼女は、面接のたびにお互いにどのような話しをしたかについて簡単なメモを作成して、帰る時に渡してくれました。この彼女とのやり取りの経験は、その後、三男の障害を理解して適切な療育や教育の場を捜し、選択する方法を考えるにあたって大変参考になりました。

 3. 3歳児のスクリーニング

 二男は,Ms. Elias との話し合いで、3歳児のスクリーニングを受けることになりました。そのスクリーニングは,ベルモント町在住すべての3歳児が対象で、親へのインタビューと子どもの観察がありました。その結果、正式なアセスメントを受けることになりました。

 この結果、Shriver Center でのアセスメントの結果を待ってから学校を決めたのでは、夏休み期間中に通う学校を決定することが事務手続きの上で間に合わないことがわかりました。ベルモント町の教育委員会は、HCHPのクリニックでの診断と言語療法士の診断と息子を何回か観察した結果、息子に学習する態度を学ばせる必要がある(He has to learn to learn.)という結論に達しました。息子の問題は何かと聞くと、教育委員会としては,見当はつくが、まだ正式なアセスメントが終わっていないので、息子の障害について何かコメントすることは公平でないと説明されました。

 このようなアセスメントの結果、二男の教育の場として5、6件ほどの早期療育機関を紹介されました。教育委員会は,予算、通い易さなどからその中の一つを最終的に推薦しました。Ms. Elias と見学にも行きました。話し合いの上で、Behavioral Intervention Projectというプログラムに通う事になりました。

 4. Shriver Center でのアセスメント

 Shriver Centerでのアセスメントの内容は、精神科医、臨床心理士、言語療法士、理学療法士、作業療法士による保護者への面接と本人の観察・テストでした。ソーシャルワーカーと看護婦は、自宅を訪れ面接を行いました。  最終的に全員の報告書が出揃うと会議が開かれました。まず、保護者に対して、精神科医、心理士、言語療法士、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、看護婦各々の報告の後に、チームとしての総合的な診断の説明がありました。親の質問には、時間をかけて回答がなされ、保護者が質問しやすいようにと気を使っているのがわかりました。親との話し合いが終わると、Ms. Elias が呼ばれて、これから息子にどのような教育が必要なのかが説明されました。学習する態度を身につけるために、Behavioral Intervention Project のプログラムが教育の場として妥当との考えが示されました。

 私たちは、このアセスメントを通して、息子の状態が良く理解できました。また、各々の分野の専門家との面接や、息子のテストに立ち会うことにより、子どもの発達に様々な側面があることを知りました。特に、自閉症障害の発達のアンバランスを理解する上で貴重な経験でした。(次号に続く)

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