(House Republicans Introduce Bill to Reauthorize IDEA)
共和党-下院への個別障害者教育法(IDEA)修正案

 翻訳・編集  成田 滋  兵庫教育大学 学校教育研究センター
         2003年4月8日掲載

はじめに:å
連邦議会下院の共和党は、2002年の年度末に正式に失効した個別障害者教育法(IDEA)を再度立法化するための法案を提出した。教育改革の下部委員会の委員長であるデラウエア州選出のMike Castle議員が提案したものである。この提案は、「2003年障害児教育法の教育成果を改善するための法案」と呼ばれる。

報道機関に送られた内容によれば、議会の教育と作業部会は、この法案について、”IDEAの報告責任、生徒に見られる学習成果、教師のIDEAに関わる煩雑な文書作成業務を減らすこと、そのための学校区教育委員会に対してより自由度を付与し、障害の早期対応措置の方策を改善すること、誤診断によって望ましくない教育措置を受ける生徒を減らすこと、保護者の不服申し立てを減らし保護者と学校区教育委員会の信頼を回復すること、2002年1月にブッシュ大統領が署名した「一人の落ちこぼれもない教育法」(No Child Left Behind:NCLB) の趣旨に沿ったIDEAの再検討などを盛り込んでいる。NCLBは、連邦政府の補助資金を受ける学校に対し、障害のある生徒を含む全ての子どもたちに質の高い教育を授ける責任を有することを求めている。この法案の要約は以下の通りである。

「障害児教育法の教育成果を改善するための法案」
この法案は、より教育の成果を明確にするため、これまでのような法律の規定を満たすために定められていた重複し、負担の多い作業や複雑な規定などを減らし、全ての障害のある生徒が学びを達成することを強調する方針へのと転換するものである。そのために、この法案は、次のような細則を提案している。

報告責任を高め、障害児の教育成果を改善する:

現在のIDEAは、あまりにも規定を遵守することに強調点が置かれている。そのため、障害のある生徒の学習成果を確認することを重視していなかった。このように法律の重点の置き方が間違っていたため、多くの生徒は障害児教育のクラスに配置され、学習成果を問われてこなかった。そこで、今度の法案は、州が報告責任のシステムを見直し、そのためのNCLBの報告責任体制を充実することを求める。さらに、個別教育計画(IEP)が障害のある生徒の学習成果を記述することを求める。そして、学校区教育委員会に対しては、より多くの裁量権を付与し、短期目標の達成という現在の評価方法に代わるやり方で子どもの発達を評価することとし、NCLBが規定する定期的な報告規定を取り入れることとする。

文書作成業務の縮小:
 優れた特殊教育の教師は、現在のIDEA体系にある膨大で不必要な文書作成業務に嫌気がさし、その職を辞している。このため、優秀な障害児教育教師の不足は慢性化している。そこでこの法案は、フロリダ州選出であるRic Keller共和党議員が提出した文書作成業務縮小法案は呼応している。すなわち、3カ年有効のIEPの作成、テレビ会議の利用、10州を選んで文書作成業務の実験プログラムを開始し、文書作成業務を減らすように努め、より生徒の学習成果をあげるための指導時間や資源活用の増大を意図する。その結果として、障害のある生徒の学習成果を改善し、州や学校区における文書作成業務の整理と縮小化を計る。

障害の早期対応措置の方策の改善:
現在、読字障害などを示す多くの子どもは特殊学級などに配属されており、必ずしもそうした配属が適当であるとはいえないことも多々ある。このような過剰な読字障害などの認定は、生徒が不適切な配置のために学業の発展を阻害している。しかも、その結果として、真に学習障害である生徒に注ぐべき貴重な資源を奪ってしまうことになっている。

 専門家は、全米の読字指導プログラムの質を高めることを支持している。それにより、連邦政府も障害児教育を強化し、上述の課題を解決できると考えている。この法案は、学校区教育委員会により裁量権を付与することを提案している。例えば、障害児教育が必要であると認定する前に、予備的な診断のために連邦政府の資金のうち、15%をそのために費やすことを提案している。

少数民族出身を含む障害でない生徒の障害認定の誤診と多数認定の防止:
少数民族出身の生徒は、そうでない生徒に比べて誤って障害児教育の対象となっている。その比率も異常に多く、本来適切な措置をうけられるはずなのに、不適切な教育を受けることが多い。Rod Paige教育省長官が言うように、少数民族出身の生徒の特定な障害の発生率は、全体の就学児童の数に比べてきわめて高い。特に、黒人生徒は他の生徒に比べて、精神遅滞や情緒障害の発生率が高いとされている。こうした生徒にとっては、誤診断や不適切な措置を受けることは、きわめて好ましくない結果をもたらすことになる。とりわけ、通常学級で指導を受けれず、コアのカリキュラムから阻害されることの被害は計り知れない。この法案は、学校区教育委員会がこうした障害児を多数認定することを防止し、次のような提案をする。

 1 予備的な診断措置のプログラムを立ち上げる。
 2 時代遅れとなったIQの遅滞モデルを廃止し、「発達を待つことによる失敗」のモデルと決別し、特別な学習障害の発生を防ぐ。
 3 「措置と応答」というモデルを導入し、学習障害の生徒を正確に見つけ、学年での遅れを無くする。
 4 正の強化刺激による行動分析指導方法によるプログラムを推進する。
 
普通教育と障害児教育教師の支援:
慢性的な教師不足が、普通教育と同様に障害児教育でも続いている。適切な障害児教育の訓練を受けた普通教育教師の不足は、IDEAにおける障害のある生徒の教育成果の達成に大きな支障となっている。現在教師である者も、今後教師になろうとしている者に対して、専門性の向上のための訓練が必要であり、それによって障害児の教育ニーズに対応することができる。
 そこでこの法案は、次のことを強調する。
 1 教師の専門性を高めるための資金を提供し、障害児教育に携わる者の力量を伸ばす。
 2 IDEAをNCLBに定める高度の力量を有する教師の養成の規定に準拠させ、それによって
訓練された教師から、障害児はコアカリキュラムの科目を指導を受けれる。
 3 人材育成のプログラムを再編し、普通教育と障害児教育の教師はいずれも障害のある生徒を指導できるような研修を受ける。

保護者との信頼回復と不服申し立ての減少:
この法案による不服申し立ては、障害児の実質的な権利の擁護というよりは、学校区教育委員会が規定の違反する行為の発見とそれに伴う罰則強化をうたうことにある。不服申し立ての形態は保護者と学校職員が生徒に関して最も望ましい配置を決める際に起こるというよりも、両者の不信感で生まれやすい。この不服申し立てに関する規定は、次のような行為を支援する。
 1 早期の段階において調停者が介入し、事前に自主的な解決を図る機会をつくる。
 2 申し立てをする際に明確で詳細な不服内容を求める。
 3 違反や申し立ての発生から一年間に限り有効な規定を整備する。

保護者の参加と選択を促す先進的なアプローチ:
保護者は子どもの教育において積極的に関わるべきである。しかし、現在のIDEAでは障害のある生徒の保護者は、しばしば十分に学校より告知されなかったり、子どもがいかに学習しているかについての限られた情報しか知らされこなかった。そこでこの法案は、次のような規定を盛り込む。
 1 保護者や学校区教育委員会は、IEP委員会の開催を待たずにIEPに同意したり変更したりできるようにする。
 2 学校区教育委員会はIDEAの資金を活用し、NCLBの規定に沿った改善策を講じ、障害を認定された生徒への補助的な措置を提供することができるとする。
 3 保護者のための研修センターをつくり、特に低所得や少数民族、英語を第二言語とする保護者への支援を行う 。

障害教育の財政と補助資金の改革:
現在のIDEAによる補助資金制度は、不必要なほど複雑である。この法案では、こうした財政の仕組みをより簡素化し、連邦政府からの補助資金を40%とする目標を達成するように道筋をたてる。この法案はさらに、IDEAのパートIIにうたう補助資金を7年間とし連邦政府からの40%の補助資金を達成するように、州に対して自由な裁量を認める。
 
生徒の安全の保障:
学校は全ての生徒にとって安全な場所であるべきである。行動上の問題がある子どもであっても他の生徒と同じような措置が受けれるべきである。この法案は、学校区教育委員会が障害のある生徒に適切な教育サービスを提供できるよう、整合性のある方針や規定を設けてすべての生徒の安全対策を講じるべきである。
この法案の報道機関に提供された内容は、以下のページから入手できる。
http://edworkforce.house.gov/press/press108/03mar/idea031903.htm
編集:現在CEC法制度検討部は、この法案を詳しく検討している。より詳細な情報をCEC会員に提供する予定である。


関連リンク:

連邦教育省
http://www.ed.gov/

No Child Left Behind
http://www.nclb.gov/index.html

NO CHILD LEFT BEHIND
http://edworkforce.house.gov/issues/108th/education/nclb/nclb.htm

Great IDEAs about Special Education Reform
http://edworkforce.house.gov/issues/107th/education/idea/ideacomments/index.htm