障害者の在宅就労を促す作業所基点の多目的情報ネットワーク応用に関する研究--1999-2000年度文部省 科学研究費助成 基盤研究(B)(2)

課題番号: 11480038
研究代表者: 成田 滋 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp
連絡先: 兵庫教育大学学校教育研究センター  http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp
 http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/naritas/home.html 0795-40-2205
  研究経費:平成11年度 4,200,000円 平成12年度 2,000,000円
研究分担者: 
 長瀬久明(兵庫教育大学・学校教育研究センター) hisac@ceser.hyogo-u.ac.jp
 藤田継道(兵庫教育大学・学校教育学部) tpfujita@edu.hyogo-u.ac.jp
 森広浩一郎(兵庫教育大学・情報処理センター) mori@info.hyogo-u.ac.jp
 棟方哲弥(国立特殊教育総合研究所・教育工学研究部) munekatt@nise.go.jp



1. 研究目的

1)研究の達成目標
 近年、障害者の自立や地域社会参加が取りざたされる中で、障害者の就労に関する問題がクローズアップされるようになっている。その一方で、肢体不自由等のハンディキャップのために養護学校を卒業しても地域の小規模作業所や授産所、あるいは厚生施設等に通うことができず、在宅で生活することを余儀なくされている人々や、慢性の疾患を抱え病院内での生活を送っているために思うような就労ができない人々が多く存在するといった現状がある。
 このような現状を打開する一方策として、インターネットとコンピュータ端末、さらには移動体通信機器を用いた在宅就労支援システムの研究応用が挙げられる。インターネットを介した就労形態であるテレワークとしては、ワープロを用いた印刷製版の作成や編集、データベースを用いた企業の事務管理設計、コンピュータソフトの開発、さらに文章の校正作業や翻訳といった幅広い職種が考えられる。
 そこで本研究は、在宅生活を余儀なくされる障害者が作業所を基点とするネットワークを使い、在宅のまま仕事を探し、必要な支援を受けながら作業を完了することができる多目的なシステムの開発と応用を検討し、在宅就労の機会を拡大することを意図するものである。
 現状では、このような就労形態や就労支援システムに関しての総括的障害者なテレワーク構築の研究はなく、一部の企業ならびに障害者福祉団体を中心としたイントラ的な実践が進められているだけで、今後の研究が待たれている。

2)研究の学術的特色や独創点
 本研究は、障害のために在宅生活を余儀なくされている人々に対して、インターネットを介した小規模作業所基点のテレワーク環境を形成することで、望ましい就労支援のあり方や就労形態に関するシュミレーションモデルを検討し、障害者の在宅就労に必要な戦略的で多目的応用の方途を検討することである。)
 このようなネットワークを活用する就労支援のあり方や、就労形態に関するシュミレーションは、全国各地に数多く存在する授産所や小規模作業所の運営や雇用形態の新たな展開に対して有益な資料を提供することになる。また、インターネットを介した小規模作業所基点のネットワーク形成は、地域の企業や学校、地方公共団体、障害者ボランティア団体等を結ぶことも可能であり、障害者に対する地域の総合支援サービスを促進するという側面からも重視される研究である。

3) 研究の位置づけ
 総合的な情報通信基盤が年々整備されるとともに、人々がいつでも就労や学習に必要な情報を得て、在宅で就労できる可能性が増大している。しかし、国内、海外ともに障害者の雇用環境は厳しい。障害者の自立のためには、情報通信テクノロジーの活用は多くの可能性を秘めている。情報の共有化が進む中で、障害者の自立を支援する作業所や授産所においても、今後インターネット接続を通したネットワークの普及は必至であるため、本研究は障害者福祉分野の新たな雇用形態に対する先進的なモデルと成り得る。


2. 従来の研究経過や研究成果、準備状況

 研究代表者の成田は、1997年から「兵庫県インターネット利用推進協力者会議委員長」や「ひょうご情報社会創生基本構想委員」 として、兵庫県が総合的で戦略的な情報政策の策定やそれにかかわる教育や福祉の推進に関わってきた。こうした総合的な計画の策定をとおして、コミュニティを基盤とした情報化の推進を行政、民間、教育/福祉機関、県民のそれぞれの役割を明確にすることを主張してきた。情報社会の創生は、ネットワークを使った広域サービスの拡大、雇用の創造と増大、生涯教育や福祉の支援につながることが理解されてきた。
 成田は、また科学研究費補助金において1997年から2か年にわたり「移動体画像通信を活用した聴覚障害者の遠隔対面コミュニケーションの研究」を続けている。この研究は、個人用の情報端末機器と高速の移動体通信機器をつないで、聴覚障害者が遠隔地において対面的なコミュニケーションができるような方法を開発することである。こうした方法によって、聴覚障害者の遠隔コミュニケーションの問題を少しでも解消しようとすることが研究の狙いである。この研究によって、移動体通信と情報端末が障害者と健常な人をつなぐコミュニケーションの媒体となる可能性を明らかにしている。
 同じく研究者の長瀬や森広は、兵庫教育大学におけるネットワーク利用の学生支援形態を研究し、移動体通信と情報端末を結ぶインターフェイスを開発している。また藤田は、発達遅滞児のコミュニケーション能力の特徴や学習に関して多方面の研究を続け、表出言語獲得の指導法を開発している。研究者の棟方は、障害者やお年寄りに優しい情報機器の活用分野でユニバーサルデザインの研究に従事し、誰もが使えるアクセシビリティの在り方を研究している。
 障害者の就労におけるネットワーク利用は、端緒についたばかりである。作業所や在宅と職業安定所、企業などを結んでの就労情報の交換や求人案内/応募、面接などにおけるネットワーク利用の可能性は、現在模索中なのが現状である。求人者と障害を持つ求職者との出会いの場を提供するインターネットの可能性なども早急に解決すべき課題である。筆者らは、障害児同士や教師と障害児とのコミュニケーションをネットワークを使ってより促進する研究をしている。また、モバイル通信と小型端末を使い手話による聴覚障害者の会話の研究を実用化しており、その経験と知見を本研究に反映しようとしている。


3. 研究計画・方法

◎研究第1年度
 研究の初年度では、これまでの諸研究や実践で明らかにされてい障害者の作業や授産所での就労条件や在宅就労の実態を把握し、いくつかの作業所を選び多目的ネットワークがどのように機能するかを面接により調査する。次いで、印刷業を主たる就労内容とし、かつインターネットの導入を希望している数箇所の小規模作業所を対象として、試験的にインターネット接続用コンピュータ端末とインターネット通信に必要なソフト、およびダイヤルアップによるISDN接続環境の提供を図る。その際、作業所と障害者双方に対して電子情報の受注と発送に関する技術的サポートを行う。さらに、兵庫教育大学学校教育センター内のFTPサーバーコンピュータを用いて、受注ファイルや発送ファイルの電子情報管理システムを試験的に構築する。さらに、このシステムが障害者の在宅就労などの多目的応用にどの程度有効かを調べる。
 なお、作業所基点の多目的ネットワークにかかわる主要設備は、数カ所の作業所に設置し試験的に運用される。障害者の自宅では個人が購入する端末を使う。自宅で使うネットワークアプリケーションは研究費で支援することになる。
 研究者全員は作業所と障害者の自宅を訪問し、ネットワークの接続や電子情報管理システムの利用方法を伝達教授することになる。

◎研究第2年度
 研究2年度では、地域の企業や学校、地方公共団体、障害者ボランティア団体等とネットワークを結ぶことで障害者福祉に対する地域企業の連携協力を促進する。そのためには、インターネットを通した障害児の職場実習の場を設けたり、障害者ボランティアからのコンピュータ操作等に関する技術的サポートを提供するといった作業所を基点とした多目的ネットワーク活用を進めていく。多目的ネットワークの有効性の検証も同時に行う。その検証に基づき、特に地方公共団体に対しては、障害者の生活全般にわたる地域支援サービスの提供といった側面からネットワークの拡大を進めていく。具体的には、在宅就労を支援する作業所の端末を増やし事例研究を進める。研究成果は関連学会で発表し、報告書を作成して研究成果を普及させる。
 主要な設備は引き続き作業所に貸し出しし、電子情報管理システムを使った在宅就労のより広範囲な活用を研究してもらい、システムの改良を図る。