国公立大学センター情報システム研究会(IS研)研究誌 2002年3月発行に掲載予定


現職教員への遠隔教育の実践とその質的分析

Qualitative Analysis of E-Lerning Practices at Teacher Education Institution



成田 滋 兵庫教育大学学校教育研究センター・教授,〒673-1421兵庫県加東郡社町山国2007 
E-mail:naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp


目 次

I 序
II 研究の背景と目的
III 大学設置基準の改正と大学教育の変容
IV オンラインでの教授/学習
V オンライン教授/学習ツールと授業展開
VI オンライン教授/学習ツールに望まれる機能
VII グループウェアによる授業と評価
VIII 課題と展望
引用文献


邦文抄録

教育改革の一環である現職教員の資質と力量形成は、今や必須の課題である。特にICTを用いた遠隔によるオンライン上での教授/学習形態は、伝統的な教室における対面の学習を補完する有効な選択肢と考えられる。特に遠隔教授/学習マネージメントツールの利用は,現職教員が研修に要する物理的・時間的な移動等に費やす負担を最小限にとどめ,利便性と学習効果を高める具体的な一つの方略である。本研究では、いわゆるe-Learningにおける現職教員の生涯教育の過程で,従来の対面学習に加えて、教授/学習に特化したオンラインマネージメントツールを使った遠隔教育の実践を質的に分析し、現職教員の再教育におけるより効果的な教授学習形態や方法を明らかにする。

キーワード: 遠隔学習 e-Learning マネージメントツール 授業改善 教員養成

英文抄録

Teacher enrichment is one of the crucial issues in schools and colleges. High expectations and disciplined efforts are required in order to meet a variety of educational needs of teachers. Use of groupware, course management tool, in the online learning and teaching minimizes teachers' logistic works and maximizes instructional preparation and assessment.

This paper examines both strengths and shortcomings of e-Learning practices in the teacher education university from various perspectives. More specifically, this paper contains several charges to which the author gave particular attention in regard to curriculum enhancement in the teacher education university. These include:

-- assessing collaborative learning among teachers,
-- providing with well-organized instructional environments,
-- enhancing instructional skills,
-- applying groupware in instruction,
-- comparing asynchronous and synchronous learning settings,
-- contributing to overall curriculum enrichment.


Key Words: online learning, e-Learning, groupware, curriculum enrichment, teacher trainingI


I 序

 社会は絶えず変容を遂げている。教育もまた然りであり、その営為は時代を反映しつつ、次の世代を背負う者の育成という使命を担いながら進化している。現代は、情報通信技術(Information & Communication Technology--ICT)の進歩と発展が顕著である。その影響は企業ばかりでなく、教育の分野にも押し寄せつつある。高等教育での教授/学習における授業改善にもICTの応用が期待されてきている。これまでは、教授/学習の形態は学ぶ者と教える者の役割が明確で、その作用が同一次元で行われるというものであった。しかし,この形態もICTの応用と普及によって大きく様変わりしつつある。

 高等教育の進歩は、科学技術がもたらす時代の変容とその影響に敏感である。文部科学省の一諮問機関である教育職員養成審議会(1997)は、「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」という答申を行った。そこでは教員の資質能力の在り方を不易と流行という視点からとらえ、いずれの時代にも欠かすことのできない教師としての素養や資質と時代に対応した能力の必要性を謳っている。また,教育職員養成審議会(1998)は,夜間課程や通信制課程の開設,遠隔教育等による授業方法の工夫を挙げている。わが国での大学改革の波は,ICTの応用めぐる高等教育の質的充実と能率化を中心的な課題とし、生き残りをかけた機関同志の大競争時代へと押し寄せている。大学教育の改革は、高等教育の大衆化とそれに次ぐ「ポスト大衆化」の課題として質の維持・向上、教育の成果報告と義務、いわゆるアカウンタビリティが主要な課題となっている(成田, 2000; 日本私立大学連盟, 1993; 安岡, 1999; 八代, 1999)。

 本稿の執筆には次のような背景がある。すなわち、現職教員はこれまで学校で教える立場にあったのが、大学では逆に学ぶ立場におかれる場合、相互に学習しあうことの必要性を体感するということである。教える者と学ぶ者のいわば同時体験が、教えることと学ぶことを再点検するということである。教員は、教育に関するさまざまな経験知と専門性を共有し,大学をはじめとする学校をめぐるさまざまな課題を、時代という脈絡と価値意識の変容を通して究明することが要求される。筆者は、時代の変容を促す契機として最もインパクトが持つものをICTととらえておく。今や、このICTがもたらす大学のカリキュラムや教授学習法への影響は、遠隔教育の取り組みに顕著に見られると考えられる。


II 研究の背景と目的

 ICTの特徴を最も良く表す成果にネットワークの成立と、その上での人々のコミュニケーションがある。さらに、コミュニケーションの形態の一つとして、大学における協調的な教授/学習活動を指摘することができる。しかし、協調的な教授/学習を支援する研究は歴史が短い。特に共同で学習する研究は端緒に着いたばかりである。

 協調的な学習はもともと企業における経営革新,技術革新への対応と、それに必要な人材の育成に拠るところが大きい。遠隔での会議やセミナー、研究会、そして研修などが協調学習のノウハウを培ってきた。衛星通信や専用回線を利用した遠隔的な対話から、いまやインターネット型のホームページを中心とした双方向の非同期的な形態が盛んに使われている。従前の通信教育や社内教育による概念を包括するオンラインでの社員研修が、グループウェアや遠隔学習マネージメントツールの開発によって、いっそう容易となっている。

 海外のオープンユニバシティはもちろんのこと,我が国においてもバーチャルユニバーシティとかオンライン大学などと称して一般への講座を提供する試みも見られるようになってきた。その一つは、信州大学工学部情報工学科の「インターネット大学院 」(2001)や青山学院大学の「グローバル・クラスルーム」(2001)、園田学園女子大学の「そのだインターネット大学」(2001)、日本大学の「サイバー・キャンパス」、高知工科大学の「バーチャル・ユニバーシティ」、その他会津大学、早稲田大学や慶応大学の遠隔教育の取り組みなどが挙げられる。このような大学拡張の動きは、文部科学省の大学設置基準の改定や、社会の生涯教育への関心の高さ、グローバル教育の浸透などと呼応している。

 現職教員の資質と力量形成のために、兵庫教育大学などの大学院大学が創設されて23年が経過した。その間、修士課程において学習者の量的な拡大とともに授業方法の工夫が指摘されてきた。これまでの教室における対面的な教授学習に加えて、非同期で必要なときにどこからでも学習に参加できるe-Learningが注目され、教授/学習における協調的学習の高度な方略とデザインが求められている。

 本研究は、以上のようなICTの進歩と協調的な学習のニーズを念頭におき、現職教員を対象とした高等教育におけるe-Learningの実践を質的に分析し、教員養成や現職教員の再教育におけるより効果的な教授学習形態や方法を明らかにするものである。


III 大学設置基準の改正と大学教育の変容

 文部科学省(2000)の大学審議会は、2000年11月に大学設置基準の答申を行った。この答申は、「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」と題するものである。この答申の以下のように要約できる。
 
 1) 遠隔授業の在り方の見直し
 遠隔授業については,既にテレビ会議式の授業が,一定の要件の下,直接の対面授業と同様に取り扱われている。しかし、近年の急速な情報通信技術の発達とその普及により,インターネット等の情報通信技術を活用した授業(についても,きめ細かな学習指導が行われることにより,全体として直接の対面授業と同等の教育効果を確保することができると考えられる。

 今後は,こうした状況等を踏まえて,通信制の教育において遠隔授業により修得することのできる単位数を見直すとともに,インターネット等活用授業を遠隔授業として位置付ける方向で通信制及び通学制の授業方法を見直すことが適当である。
 
 2) 単位の取扱い
 a)遠隔授業により修得することのできる単位数
 現在,通信制の大学においては,通学制の場合と同様に,人間形成に資するなどとの考え方の下,卒業に要する単位のうち20単位以上は直接の対面授業によることとしているが,このような対面教育の併用は,今後とも重要である。
 しかし、情報通信技術の発展により,直接の対面授業以外の方法でもきめ細かな学習指導を行うことが可能となってきており,米国においては,メンターと呼ばれる学習指導者による学習指導体制を確保しつつ,主に職業人を対象としてインターネットを活用した授業のみで学位取得が可能な大学教育が展開されつつある。いつでもどこでも学習が可能な,職業人がアクセスしやすい教育システムの構築は,世界的に共通の課題となっている。 以上のことから,今後,通信制の大学においては,社会人の学習ニーズに柔軟にこたえる通信制本来の役割にかんがみ,従来の直接の対面授業による修得が必要な20単位についても,遠隔授業により修得することができるものとすることが適当である。このことにより,卒業に必要な124単位すべてを遠隔授業により修得することも可能となる。

 b)インターネット等活用授業の遠隔授業としての位置付け
 現行の大学設置基準では,遠隔授業について,「文部大臣が別に定めるところにより,多様なメディアを高度に利用して,当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる」と定めている。インターネット等活用授業については,その特性にかんがみ,直接の対面授業におけるような同時性・双方向性がなくとも,全体としてそれと同等の教育効果が確保されると評価することが可能である。具体的には,次の要件をすべて満たすもので,大学において,直接の対面授業に相当する教育効果を有すると認めたものを遠隔授業として位置付けることが適当である。

 (1) 文字,音声,静止画,動画等の多様な情報を一体的に扱うもの
 (2) 電子メールの交換などの情報通信技術を用いたり,オフィス・アワー等に直接対面したりすることによって,教員やティーチング・アシスタントなどの補助職員が毎回の授業の実施に当たり設問解答,添削指導,質疑応答等による指導を行うもの
 (3) 授業に関して学生が相互に意見を交換する機会が提供されているもの
 なお,インターネット等活用授業についても,1単位が45時間の学修を要する教育内容をもって構成されるのは対面授業の場合と同様である。

 3) 現職教員の研修と大学教育
 現在、教師教育の大学院大学である兵庫教育大学などのいわゆる新構想の大学は、現職教員を2か年間大学院に受け入れて研究や研修を行っている。また、各地の教育センターなども初任者研修、あるいは校種・教科等ごとの講義や討議あるいは実験・観察等で研修が展開されている。いずれも教授学習形態からみれば、いわゆる対面集合形式の研修となっている。

 学習者である受講生は,研修のため物理的に大学や教育センター等へ移動する必要があり,移動のためのエネルギーと時間や経費を費やす。受講生は,同一の内容を同一時間に研修するという形式をとる場合がほとんどである。教育センターなどでの研修講座では受講生を募集後,参加申し込みが少なく,企画担当の研修主事等が現場の教頭等を通じて研修申し込みを打診するような例も珍しくない。

 教員研修は,個々の教員の自発的・主体的な研修意欲に基づく内容と適切な実施形態が必要である。例えば,現職教員が修士課程を提供する大学に通うには,地理的な位置が適切でないために研修への意欲が絶たれてしまったりする。大学が近いなど地理的には恵まれていても,教員としての業務のためにまとまった時間を確保できにくいという状況もある。フルタイムで大学院に在籍することの他,科目の履修による修学を可能にすることが望まれる。さらに,対面による講義調の一方的な内容から,参加型学習の視点へ転換を図るのも大学教育の質的な改善の一つとして重要である。オンラインでの教授学習も授業改善もその一つである。

 学習者個人が、教室などの対面を基盤としながらも、ネットワークを介して学習に参加することにより、さまざまな人的な資源や教材などの資源へアクセスすることによって対面と非対面の相乗的な効果をねらうことができる。対面授業では教授/学習での役割は概して固定的と考えられるが,オンライン上での学習では相互に役割を担い合う学習の交代性がある。


IV オンラインでの教授/学習


 ネットワークという支援手段と協調的学習という支援対象を視点にもった概念は、オンライン学習/教授という新しい方法をもたらしている(Bodzin & Park, 2000)。オンライン学習/教授は、特定の学習上の動機や目的をもつ学習者と教官が、情報通信技術とサーバー・クライアントシステムのもとで、学習や教授環境を管理するグループウエア等を利用し、個別・共同な学習活動を非同期・非対面で行う方法というように定義しておく。この方法は、学習情報や教材を利用しながら学習者と教官が互いに討議し、教授学習過程を記録したり評価し、その結果を学習者へ提示する機能を持つ学習形態である。
 協調的学習の特徴として次のことがあげられる(Scardamalia & Bereiter, 1996)。
  1) 学習者間での共通の学習目的を媒介としたコミュニケーション
  2) 個人の知識や情報をグループの知として活用する
  3) 学習には媒体となるものや媒介者が存在する
  4) 学習は対話である(discourse)
  5) 学習は脈絡や状況にある
  6) 学習グループは文化-知識や経験の共有に共感的である

 オンラインでの協調的学習の基本的なコンセプトは、伝統的な対面学習の長所を活かしつつ、個々の学習者が分散しつつ、その知識や経験を共有しながら学びあうという側面がある。対面での教授/学習では,学習者と教官が同時・同場性を共有することで学習が成立する。オンラインでは,情報通信システムを使い,同時・同場性をある程度補うことにより学習を成立させる。

 オンラインでは、ネットワークを介し教授/学習を支援する教材や教官および学習者といった資源が物理的な位置として意識されることが少ないことが挙げられる。学習者が指導を求めたり,学習者同士が協議したりする場合,互いにその資源を活用しようとする。学習者はどの地点からも同程度に確保できるという長所があり、学習のためにキャンパスに通うことから解放される。通学にかける時間や労力を学習本来の活動に向けることを可能にするのが、オンラインでの教授学習なのである。
1) オンライン教授/学習の実践
 1999年の7月に筆者らはニュージーランドはハミルトン市のワイカト大学に滞在していた。その間、インターネット上において指導する院生との間で同期的な方法で、テキストと静止画データの送受信によるオンライン討議を実施した(成田,1999)。こうした遠隔での討議に際しては,遠隔での参加を全く意識することなくディスカッションが可能であることが実証された。同様の機会は、2001年の6月にバンクーバーと兵庫の間でも行った(Narita & Shino, 2001)。この際のオンライン対話では、話題の継続性と発展性を維持するために、20数名とのオンラインでの発言には、書き込み上のルールを作っておき、それに添って受講者が発言権を行使することが話題の討議を深めるうえで有効であることも検証された。

 以上のように,ネットワーク上でのオンライン教授/学習システムは,システム全体が学習者や教官にとって,全体として一つの教授/学習のための仮想空間での教室を提供する。ネットワーク端末に実現される教授/学習の画面は,システムの支援によって,あたかも端末を操作する一人の参加者が、他のメンバーとで双方向のコミュニケーションの場を創るのである。同時性や同場性という条件のもとで成立してきたこれまでの伝統的な教授/学習形態は、オンライン環境が提供するメディアの出現により,その短所を補いつつ対面的な学習の持つ長所を再認識するものであるといえる。

 学習の持続や成立には,即時的な学習環境を有すると同時に,学習者の持続的な主体的な参加意欲が鍵である。協調的な学習における情報の交換や共有あるいは討論を支えるには,ある学習目的にそった他の学習者との情報共有の意図が学習者集団に存在していること、あるいは意図的にそうした集団の力学が働くような環境を整える必要がある。オンラインのみでのコミュニケーションでは,ネットワーク端末を介するが故に,現今の情報通信技術に依存する伝送速度や,インターフェース,メディアの限界をわきまえつつ、対面での授業との補完的意味を重視した教授/学習の形態が重要となる。

 対面授業と比較すれば、オンラインによる授業には限界もある。しかし、学習者が非対面・非同期,あるいは遠隔での対面同期な学習環境を自己決定で選択可能とすることで,個人の身体的・心理的あるいは物理的な事情を配慮した学習環境が提供できる。つまり,オンラインの学習ツールによる双方向のコミュニケーションは,こうした学習者に対し,その学習者個別の条件に沿うことで教授者や学習仲間をより身近な存在へと変換できる。これにより,伝統的な対面授業が制約する時間,場所,集団という条件を緩和することができ,対面と非対面の学習は補完しあうことになる。
 
 
V オンライン教授/学習ツールと授業展開
 
 今日のあらゆる高等教育機関は,キャンパス全体がネットワーク化された情報通信環境を提供している。また,キャンパス外部に対しても情報発信を行い,外部からの情報検索を詳細に支援している場合も数多くある。必要に応じてキャンパス内部からのアクセスに限定したシステムを構成したり、内外に情報提供の格差を意図的に設けることにより、施設設備や人的な投資がオンラインで最適に活用されるような仕組みとなっている。

 オンラインによる教授/学習への利用の形態として,電子メールは学習者と教官の間での個別的な情報交換に多用されている。学習者が課題書類を電子メールで提出したり,教官が添削して学習者に返却したりするのは,メールシステムの通常の使い方である。Webサーバーが提供するホームページコンテンツとサーチエンジンを駆使した検索結果の利用も日常的になっている。Webは巨大なデータベースで、高度化した教育・学習システムとなっている。また,Webコンテンツには,利用者が直接内容を閲覧するだけでなく,即時に端末から記事等を登録できる電子掲示板システムも付随している。これは,問い合わせや意見表明、および討議に有効なシステムの一例である。その他,今日では,FTP,CGIを介したデータベースサーバーの支援などにより,通常のインターネット端末が,学習情報へのアクセス機能を提供している。どの利用者でも任意の場所から時間を限定せずサービスを享受できる。しかし,閉じられたネットワークの形態であるLANよりも,異なるネットワーク間で統一プロトコルによる地球規模でのいわゆるインターネットとしての利用形態が、高等教育機関での一般的な利用といえる。

1) グループウェアの登場
 オンラインによる教授/学習では,少なくとも学習者と教官そして学習コースなど,特定した構成員とコンテンツによる仮想的な教授/学習システムが必要である。そのためのアプリケーションシステムは,いわゆるグループウェア(groupware)である。グループウェアは,インターネット上で以下の特色を有するサーバー・クライアント用アプリケーションシステムである。1977年にPeter and Trudy Johnson-Lenz(1978)が、共通の仕事や目的のために働く利用者を支援し、共同作業の環境のためのインターフェイスを提供するコンピュータシステムを提唱した。これがいわゆるグループウエアの登場である。このグループウエアは、企業の中のコミュニケーション、共同プロジェクト、出張、会議、稟議、日程などのロジステックを調整するのに便利なツールとして用いられるようになった。今や、グループウエアのコンセプトは、企業から高等教育機関における授業改善や学習環境の充実に応用されるようになっている。つまり、共通の学習の目的のために学習者を支援し、共同学習環境のためのインターフェイスを提供するようになったのである。現在、高等教育機関で盛んに使用されているグループウエアにWebCTというのがある(WebCT,2001: 梶田, 板倉, 1999)。

2) グループウェアの構成と機能
 現在高等教育機関で利用され始めているグループウェアは、学習環境の快適さを提供するとともに、学習管理を容易にする構成となっている。そこにはいくつかの特徴を有する。たとえばHTMLの知識なしに,既存のhtml,pdf,pptで作られた教材を用いてコースコンテンツの作成が可能であることである。また、学習やコミュニケーションや協調学習を可能にする教育用ツール群、例えばメール,掲示板,クイズ,プレゼンテーションの機能を有している。さらに、コースの管理作業や改良作業において教官を支援する管理ツール群、例えば学習履歴の追跡,クイズの採点,成績管理などの機能が充実している。加えて、コースコンテンツを交換する共有化やコンテンツ販売などが可能となっている。グループウエアは次のような機能を有する。

(1) 階層的な利用者認証システム
 各利用者は,利用権限が付与され,IDとパスワードによってグループウェアに対し接続時に認証される。今日のネットワークシステムでは,パスワードの不正利用等は法的にも厳しく規制されている(経済産業省, 2000)。グループウェアでの利用者は,IDによって,いわゆる学習者であったり,教官であったり,場合によってはシステム全体を保守・運営する管理者となる。グループウェアには、階層的に利用権限を設定できる設計が求められる。
(2) 学習者やコース登録と管理
 学習者はネットワークを介してシステムに接続すると,提供されている学習コースを利用できることになる。学習コースを開設する教官は,学習者に対し適当な方法でその権限を行使できるIDとパスワードを通知する。キャンパス全体で,このような学習者と各教官が開講した複数の学習コースを選択して履修する。キャンパス全体で大規模にオンライン教授/学習システムを展開する場合は,その都度教官が学習者の利用のための設定を行うのではなく,教務担当部署が一括して学習者の登録を受理し,それに基づいて履修状況を管理するシステムとなる。教務担当部署と,直接指導にあたる教官とは,本来このように登録と指導や評価といった業務を分担する機構と運用が求められる。
(3) 学習コースで提供するコンテンツやツール
 学習者に対するプレゼンテーションや各種の資料あるいは指示は,一般的なWebページコンテンツの提供で実現が可能である。今日では,ドキュメントのHTML化は極めて容易となり,テキストエディターで直接HTMLを用いて記述するよりも,専用のホームページ作成ツールや通常のワードプロセッサ等で作成したコンテンツが,HTML形式を指示した変換処理で大抵のページが作成できる。また,ビデオカメラで撮影した映像コンテンツを始め,音響データ,静止画像,ベクトルデータによる軽量なアニメーションが容易に教材として提供することも可能となっている
 更に,学習者が自身で理解を確認したり,教官が学習者の理解度を測定したりできるツールが必要である。これらは,教官権限の内に実現できるものとしてグループウェアに用意されるべきである。この場合,統一的な基準と拡張の可能性をもつグローバルスタンタードに則ったツールによって、テキストベースでも容易に作成できるものであることが望ましい。
(4) コンテンツのサイズと配信
 情報通信技術の発展は,CPUの処理機能などのように急激な発展を遂げる分野と,実際の利用で問題となる通信速度や通信料金という体系の分野がある。今日、通信業界での規制緩和の進展とともに,接続の形態は、従来のダイアルアップ回線のアナログ利用からADSL関連技術の利用による廉価な常時接続回線の利用に移行しつつある。しかし,録画講義録の視聴を始めとするVODシステムから配信するのは,サーバー機能や回線容量等を考慮すると現実的とはいえない。しかも、30分や60分の録画を見て講義を受けるというのは視聴者にとって退屈きわまりない。このような場合には,事前に各学習者に配布した大規模な記憶容量をもつCD-ROM等に保存したコンテンツを学習者のローカルドライブから視聴するのが望ましい。教官のテキストや副教材と動画を同期させて提示する方法もすでに存在する。
(5) 教官による学習者の掌握
 オンライン教授/学習において教官は,学習者がネットワーク上の端末から,必要なときに学習コースに接続し,どの学習コンテンツにアクセスし,どの程度の時間や頻度で学習課題と取り組んだかを把握しなければならない。このような作業によって、提供する課題の内容を検討し,個々の学習者の傾向に対して適切に応答する必要がある。グループウェアをオンラインシステムの教授/学習に利用するについては,必須となる機能やインターフェースを検討し,必要に応じて、機能追加や改定を求めるべきである。
(6) 不正アクセス行為への対策
 学習コースの性質によっては,学習者が任意の端末からアクセスするのではなく,限定的な利用が妥当と判断されるならば,IPアドレスによる限定された端末からのみ操作できる構成などの特徴を具備せねばならない。不正なアクセス行為に備える多重の対応が可能であることによって、堅固な機構を維持できる。


VI オンライン教授/学習ツールに望まれる機能

 以上のグループウェアの構成要件を備えることにより,オンライン上の教授/学習マネージメントツールを用いた授業展開は,同期・非同期での資料提示,グループ討議,課題提示とリポート回収及び添削,問題演習や調査など,様々な学習目的に利用できる。グループウェアでは,(1) 対面の授業の中で取り入れる,(2) 非対面の学習コースとして展開する,(3) 対面と非対面を組み合わせ状況に応じて使い分ける、という3つの形態が考えられる。学習コースの目的と内容によっては,上記の利用形態から最適な方法を選択すればよい。

 グループウェアの利用に関する場面をここで検討してみる。例えば課題テーマを基に資料を収集し,学習者の考えを表明させながら討議する場合である。学習者には個々の資料を整理して電子掲示板上で課題を提起する。その資料を交えての掲示板での討議を経た後,対面でのディスカッションで全体の意見を集約することができる。資料の検索や整理、およびネットワークツールを介した討論は,非対面も含めて同期・非同期で展開できる。電子掲示板のほかに、同期的な場面としては資料を提示しながら、オンライン対話で討議することもできる。

 次に,学習者に対して,学ぶべき一定の教材資料がすでにオンライン上の教授/学習マネージメントツールに存在するとする。学習者は,提示された学習目標に対して,コース設定に携わった教官の意図にそいながら、マネージメントツール上の複数のやり方で学習を進める。このような授業設計の場合は対面である必要性は少ないので、複数の学習者の同場性や同時性は要求されない。むしろ個々の学習者の学習を促進する支援が大事となる。
 
 学習者と教官が同じ場に存在すると,いつでも対面での支援を獲得でき,心理的な安心感が満たされる。ところが,教官は複数であることが少なく,同時に複数の学習者への支援にかかわりにくい。支援の要求は,整然とした内容だけではないので,非同期,非対面下での支援の可能性を発揮する好機といえる。いずれにせよ,具体的なオンライン上の教授/学習マネージメントツールの利用は,課題の特質や学習コースの性格および学習者の置かれている状況等により異なるので、適宜選択すべきである。
 
 オンライン上の教授/学習マネージメントツールは,ネットワーク上で各機能が統合化されたツールである。各機能は,ツールへの接続者を特定することから,教材群の提供等,教授/学習を目的とした様々なコース設計が必要である。つまり,学習者個人や学習者グループについて、詳細に設定することが重要である。学習者に対する必要な機能は、以下のようになる。

(1) 接続日時や回数把握
 これは,どの学習者がいつ、どのくらいの時間マネージメントツールへ接続したかを教官が把握し,授業への参与状況を把握することである。学習に要した時間の測定は必須である。
(2) 学習者のツール内アクセス記録
 通常,マネージメントツールには,様々な基本的ツールやページコンテンツを配置しておく。各学習者によってそれらがどのように利用されたか、という詳細なツール利用の記録が大事である。また学習者のページコンテンツ一つひとつへのアクセスを把握できるべきである。
(3) 学習者の学習記録
 学習者がコンテンツを利用したかというアクセスと同時に,学習者がどのような内容を保存蓄積したか,あるいはどのくらいの回数で意見を述べたのかは,学習へのコミットメントに関わる事項である。この内容を援助者が容易かつ的確に確かめることができ,その内容について援助者から学習者へコメントを提供できる機構が必要である。また、学習者を評価する資料の一つとして提出された回答などを単純集計できる機能が望ましい。
(4) 質問などへの資料提供
 学習者は,コースの課題をよりよく理解するため,様々な関連事項についての説明を求めたくなる。それに応えるためには、用語の定義や補助的関連事項に関する用語解説がツール上で提供されるべきである。また,この機能は索引や検索機能もついていると便利である。ツール内の用語集を参照することによって,学習者は印刷媒体への参照から解放される。
 (5) 軽量なコンテンツ開発と配信
 一般的にマネージメントツールが提供するコンテンツは,サーバーから端末へ短時間でデータ転送ができるように、軽量なファイルサイズが望ましい。このためには,コンテンツはテキストと静止画像の組み合わせや,ベクトルデータによる動画が好ましい。また援助者は,単にテキストでの学習コース提供のみならず,視覚的に訴えるコンテンツを必要に応じて提供できるように努めるべきである。コンテンツ開発に関しては、大学のスタッフでは限界がある。今後は、大学と地場産業などとの共同研究や委託開発などにより、教材の収益を見込んだ開発と配信を考えるべきである。
(6) 学習者用メモ
 オンライン学習では、従来のような特定の場所で学ぶという制約はなくなる。その場合、学習者に必要なのは,マネージメントツールへアクセスできるネットワーク端末と、どの端末からも学習ができるツールの機能である。例えば、学習者がツールを通してさまざまに発想したアイデアや学習の個人的な記録は,手元のノートに記録することよりも,端末上からシステムの個人的な保存領域にそれらのメモを登録したり,読み直したり整理したりすことができる機能が必要となる。
(7) 機能の利用設定
 以上の各ツールの統合的なデザインでは,学習者の個別の学習を促進するために、個々の指定が可能な機構が必要である。即ち,各ツール利用が学習者を指定したり,学習の日時を指定したり,レポートやテストの締め切りを示したり、学習の進度や理解度を提示したりしながら援助者によって学習の方向付けができることが重要である。

 学習コースにおいて,目標が同じであっても,学習者の学習開始時における習熟度や関心の程度は異なっている。実際に学習を始めると,学習者は自らの興味や関心および必要性は微妙に異なる。コース全体は,これらの組み合わせを示すが,論理的な直線上に学習事項を構成する場合と学習者が選択的に経路を決定できる状況に全体が構成できることが重要である。このように教官は,学習コースを設計する場合は,教材の配列や消費する時間にいくつかの選択可能性を設け,学習者が高い利便性を享受できるように設計することが肝要である。


VII グループウェアによる授業と評価

(1) 授業の実際と評価
 筆者は,2000-2001年度に兵庫教育大学において昼間・夜間の現職教員を中心とする受講者に対し教育情報活用特論などの科目を担当した。初年度,本授業は,電子メールやwww、FTPサーバーを用いたが、集団や個々の学習が柔軟に実行しやすいグループウェアを利用する方針に転換した。後期の開講においては教授/学習に特化したマネージメントツールの評価を行い,2001年度の二つの科目で、討議や課題にかかわる演習で利用した。その中で13回の授業を通して、受講生やゲストスピーカーを含む授業参加者がオンライン教授/学習マネージメントツールを利用した。このツールは,多国語対応を前提に開発されてはいるものの,基本的にシングルバイト系での動作が保障されていたので、2バイト系文字コード体系での利用には,若干の対応が必要であった。そうした問題は、授業の実施ではさしたる障害とはならなかった。

 
         図1 グループウェアの利用と満足度(クリックすると拡大) 

 20名余の受講者は,対面による授業中に一人1台の端末利用が可能な環境にあった。13回の授業の中で教官がカナダへの海外出張が重なった時,受講者は事前に示された討議課題に沿ってリアルタイムによる90分オンライン会議に参加した。また,同一テーマの討議は,受講生を4つの班に分け、それぞれが掲示板を介した討議を行った。課題によっては,教官は文字数や引用した情報源を示すなど様式の概略を指定して課題提出用のツールにファイルを送出するよう学習者に求めた。受講者のほかに、一部ゲストスピーカーもオンライン教授/学習マネージメントシステムに接続し,掲示板システムやメールシステムを介して討議に加わった。討議に用いられた投稿記事は,300件以上に及び,ツール内の記事の参照は,述べ8,000回を超えた。一人あたりの記事読了は,190件程度であった。

 
         図2 グループウェアの利便性

 科目の受講者の大半は現職教員であった。そこで、各自が所属する学校におけるマネージメントツールの利用希望について回答を求めた。その結果を図3に示した。受講者は,小学校から高等学校及び養護学校に分布していることもあり,高等教育での利用が前提としたマネージメントツールではあるものの,全体的には否定的な回答は示されなかった。

 
        図3 グループウェアの学校現場での利用
 

 本授業は4か月間の授業で,受講者全員に対し3つの課題レポートを科し,マネージメントツール内での提出を求めた。受講者は,ワードプロセッサやエディタ,html、あるいはマネージメントツールそのものを用いて課題レポートを提出することを体験した。このような課題の提示と提出に関しては図4のような回答であった。回答者の80%程度の肯定的な考えを示し,昨今でのこうしたメディアを積極的に利用する姿がうかがえた。

 
       図4 グループウェア上での討議のしやすさ
 
 授業などでグループウェアをより応用し活用することについての意見は図5のような結果となった。受講生全員がはじめてグループウェアを利用して授業に臨んだこともあり、はじめは戸惑う者も見られたのは事実である。だが、次第に慣れてきたことが伺えた。
   

        図5 グループウェア上での遠隔授業
 
 
 本授業の評価は,学内の統一様式に対する授業評価とは別に,マネージメントツール内の「サーベイ」機能を使って受講者が直接回答する形式で求めた。それが以下の図6である。この結果から,大半が自学自習用のツールに対して肯定的な印象を持ったものと考えられる。

 
        図6 グループウェアを使った授業全体の評価
     
(2) グループウェアを使った教授/学習に対するコメント
 教室と教室外での学習を組み合わせ、学習者の協調的な学習を促進する目的でグループウエアを使う授業を実施した。学期末の受講生による授業評価から、自由記述の一部を以下にあげる。授業開始の当初では、グループウエアの個々の機能の使い方で混乱があり、十分な事前指導が必要であることが判明している。また、討論やフォーラムといった特定の課題についての内容の深めでは、相手を特定しにくいなどの理由で討議の内容が不十分であったことも改善すべき点である。しかし、非対面や非同期の学習方法の導入については、全般に肯定的な評価を下している。
 
 ----------- コメントの例 --------------
・”グループウェアを実際に使ってはじめて新しい学習方法が少々わかったので、この授業を受けさせていただいて大変よかったと思います。ですが、やはり直接対面で話し合う方が、人間と人間のコミュニケーションという意味ではいいということを実感させていただきました。時間や距離の制約からの解放は魅力です。

・グループ内の他のメンバーがあまり参加してくれなかったので、期待していた程深まりができず少し欲求不満気味です。かといって途中から他のグループに入る勇気はまだ持てませんでした。”

・”自分の小学校での自学自習用グループウエアの利用は無理があります。”

・”フォーラムの場は、討議が深まらない、表示型式が問題。個人の意見の題だけでも一覧で見られるといいのだが、はじめの2題の課題は2回目に公開ということがあり公開することで一層学習になると思う。遠隔授業は使い方と工夫で小学校の学習のヒントになった。”

・”「フォーラムの場」の使いにくさはかなりのものだ。つまり討議がやりにくい。自分は別にコンピュータの操作になれてないわけでもなく、よく使うが、今回は、、、。ソフトの内容をもう少し何とかしないと、、、。”

・”昔人間なのか、やっぱり顔を見合わして、討議していく方法が自分の好みです。討論がやりにくいです。”

・”昔他のメンバーの人をほとんど知らないため、ネットワーク上でのコミュニケーションを文字だけでとりにくかったです。人数が少なければ、誰かわかってくるような気がしますが最後まで人物像がうかんできませんでした。授業自体は大変有益で自分の考えも出せてコンピュータの使い方の理解も深まりよかったです。”

(3) グループウェアでの授業改善の視点
 グループウェアでの授業改善を考えるときには、次のような点から踏み込むことができると考えられる。第一の視点は,受講生の勉学目的や目標の明確化という課題である。強い意思と学習効果の自己把握能力とを持つことが重要である。
 
 学習意欲学習者の思考が互いにグループウェア上で共有されることである。学習者の学習内容は,グループウェア上で参照されるに適当なモードやツール上に保存される。他の学習者や教官は,この内容を必要なときに繰り返し参照することができる。このような参照は、学習者相互において確保できる。このことにより,与えられた討議すべき話題に関連する記事を検索したり、整理したりしながら、学習者が自ら検討を加えて再構成しやすい状況を作り上げることができる。併せて学習者間の活発なコミュニケーションが期待できる。グループウェアを使わない場合は,印刷媒体による討論の記憶やメモに依存するという限られた情報に頼ることになる。
 
 第二の視点は,学習者の情報収集と蓄積が拡大することである。討議の主題についてグループウェア上でコミュニケーションを活発にするには,学習者は様々な関連事項の情報を求めて検索・評価せねばならない。授業を展開する側は,事前に主題と関連の深い情報提供サイトや文書情報を調べておいて,学習者に示すことが可能である。学習者は,オンライン上の関連情報について,賛否の両面から検討したり,先進的な取り組み例や先行研究の傾向を整理したりしながら,自身の論調をグループウェア上の各種ツールを使って展開することができる。それはあたかも,学習者一人ひとりが巨大なデータベースを背景に授業で科された課題と取り組む姿のようなものである。

 第三の視点は,グループウェアを介して情報発信のスキルトレーニングをすることができることである。学習者は,グループウェア内,あるいはその中でも小グループを任意に構成して最も発信しやすいところから、順次新しい情報を発信する体験を遂げやすい。つまり,積極的に授業に参加する姿勢を培う体験が展開できる。対面での授業では,教官が一方的に話題を展開し,受講者は,これを拝聴するという形態に陥りやすい。こうした承りの教授学習方法では、自らのうちに発想されたことを表明する機会が困難であり,個々の意見や思想が整理されないまま埋もれてしまいがちである。オンライン教授/学習ツールの利用では,なによりも学習者自身がまずグループウェアにアクセスすることが大切である。学習者は、対面での授業に出席するのと同様の気概でオンラインでの学習に参加する態度が望まれる。単にグループウェアの中を覗くといった形式的な参加だけでなく,グループウェア内の教材・課題に取り組み,ツールを用いて常に学習課題と取り組み、教官や仲間の学習者へ情報を提供することが求められる。


VIII 課題と展望

 オンライン教授/学習マネージメントツールを使った非対面的な授業や協調的学習は,大学での伝統的な対面による学習形態を大きく変える可能性を有している。また、そのインパクトは授業改善、ひいては大学の改革に影響を及ぼすような勢いである。昨今の 高等教育機関や産業界でのe-Learningへの熱い期待は、大きなビジネスチャンスと考えられており、産学の共同研究も萌芽の時代を迎えている。。マネージメントツールであるグループウエアのこのツールをどのような授業でいかに応用するかは, 国内での実施例はいまだ少なく今後の大きな課題である。
 
 インターネット上のオンライン教授/学習には、教材などのコンテンツの充実が欠かせない。残念ながら現状では、教材といわれるものは、個々の教官が所持していて共有されていない。また、他の教官や講義で使われることも希である。今日の大学の資産は学内の組織など有形であるものが多いが、これからはオープンな知識、ネットワーク上の知識や教材といった無形の財産が中心となることが期待される。無形の知的財産としての教材の開発とオンラインでの提供は、インターネット環境の最適利用の前提であることを理解せねばならない。
 
 オンライン教授/学習が黎明期にあるのはコンテンツの不足にあると考えられる。従来型の対面授業に比べて、Web教材の開発コストは高いので付加価値をいかにつけるかが課題となっている。教材の開発と充実のために、現在遠隔教育の標準化ということが言われている(伊藤, 2001)。学習目的に適した教材の検索や購入が容易になり、一旦作成した教材を再利用可能にすることが望まれている。このために、教材分類情報の標準化、教材フォーマットの標準化、受講生の成績や履歴情報の標準化が進められている。標準化が進めば、オンライン教授/学習は今以上に進展すると考えられる。
 
 現時点で兵庫教育大学においてこの種のマネージメントツールを搭載したサーバーはごく僅かである。また,実際に授業や協調的学習に応用している科目も筆者の担当する授業以外にない。こうした数少ない経験知を積み上げて授業の改善に努めるために、授業改善を視野に入れた学内での関連ワークショップをこれまで3回開催してきた。それにより各教官にマネージメントツールを試行的に取り入れるよう啓蒙している。現職教員が多く学ぶ大学院レベルの授業改善と教官の指導力量向上には、こうしたワークショップなどのFD活動が必須であると考えられる。

 オンラインによる教授/学習環境では,個別の学習ニーズへの対応が可能で,選択的で個性的な学習環境を構築できる。だが、学習自身の学習への高い動機や目的意識なしには、オンラインによる協調的学習は長続きしない懸念もある。現に、アメリカの主要な大学でも中途で科目から離脱する学生が多いと言われている(上野, 2001)。学習を遂行させるには、個々の学習者の目標、知識、能力に応じて適切に対応せねばならない。自学自習の支援体制は教官の負担をある程度強いるであろうが、時には対面での指導を組み合わせ、学習者をガイダンスすることも必要である。こうした支援体制が日常化すれば、教官の負担はむしろ新たな教授方略の考案などに向けられていくに違いない。オンラインによる学習者支援は,教官の協働体制や教務処理との連携も検討が必要とされる。


謝辞

本稿をまとめるにあたっては、兵庫教育大学学校教育研究センター客員研究員である奈良工業高等学校の筱 更治氏の協力を得た。

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