■デジタル化映像ムービー活用の学習遅滞児用多目的教材開発の方略研究  文部省科学研究費助成 一般研究(B) 研究成果報告書 (課題番号 05451148)  平成7年3月  研究代表者 成田 滋 (国立特殊教育総合研究所) 1. 研究目的  多くの生徒は、主として文字や数字などテキスト情報をベースとした学習をしている。 いきおい、社会科や理科学習の中心は暗記、繰り返し学習、個々の知識の習得など情報の 単発的で量的な記憶になりがちになる。このような知識の離散的な習得方法では、とりわ け認知的理解の遅い生徒や学習そのものに内発的動機がわかない生徒の学習意欲はそが れる。こうして学年進行と学習内容の複雑さとともに学習理解に遅れる生徒が増加する。  今日こうした生徒への適切な指導環境の改善が叫ばれている。とりわけ学習者の興味や 関心に応じた自由な探索行動を助長することによる学習への高い動機づけにつなげる教授 が必要とされている。そこで情報活用の新しい方法であるハイパーテキストと先端的な技 術であるデジタル化ムービー(動画)を組み合わせた多目的かつ複合的な学習教材を使った 指導方法が注目されている。このようなメディアの重層的な配置による教材をデザインす るには、学習に遅滞する生徒の学習パタンの研究から得られている知見とともに、デジタ ル化された動画や静止画像、自然音声が生徒の学習過程を通して、記憶や再生にどのよう な影響を及ぼすかを考察する必要がある。  本研究は、教材デザインに不可欠な方略すなわち、(1)ムービーデータの編集方法、(2) 使いやすい教材インターフェイスの開発、(3) ムービー呈示のタイミング、(4) 呈示回数、 (5)呈示時間などを究明し、その知見を学習に遅滞する小学校レベルの生徒の教材ソフト 開発に役立たせることを目的とする。 2. 研究成果の要約  本研究では、デジタル化された動画や静止画像、自然音声、そしてハイパーテキスト 構成の教材が、生徒の学習過程を通して、記憶や再生にどのような影響を及ぼすかを考 察した。具体的には、ハイパーテキスト中心の教材上の視覚的な刺激と聴覚的な刺激の 提示が記憶に及ぼす交互作用に関する実験を研究指定校である横浜市内の公立小学校の 特殊学級にて行った。  研究機関や研究指定校での実験から得られた知見として、動画やアニメーション等 動きのある教材呈示手段は、生徒の自己探索学習や調べ学習における長時間に渡る課題 への集中を促すこと、学習への意欲を高めること、概念の形成と習得した知識の長期的 な記憶に有効なことが判明した。また、生徒自身の自然音声を教材に組み込むことに よって課題への取り組みが教師とクラスメートの交互作用を促すきっかけとなることも 判明した。また、学習に遅れがちな聴覚障害の生徒のコミュニケーション促進のために デジタル化された動画を駆使した手話学習教材を試作し、その有効性が一定程度で解明 された。以上のような研究実験で得られた知見に基づいて、学習に遅れがちな小学生に 必要な教材開発のための提言も行なった。以上の研究成果は、電子情報通信学会や特殊 教育などの関連専門誌で発表するとともに、アメリカのフロリダ州で開かれた障害児教 育とテクノロジー関連学会においても報告した。