長崎大学附属養護学校 11/10-11/1995 日本教育大学協会全国特殊教育研究部門合同研究集会 長崎大会 論集 38-40ページ 「障害児の教材開発に及ぼすインターネット上の教育情報活用」 兵庫教育大学 成田 滋 はじめに  さまざまな教授や学習の工夫を凝らす中で、フロッピーディスクやCD-ROMで提供 される教材が流通してきた。今や機器の進歩やマルチメディア環境の充実によって、 こうした媒体だけでなく、ネットワーク上で教育情報資源が普及しつつある。  しかし、教授学習過程において、どのようにして適切な教育情報を探しそれを学習者 に提供するかは、教材の開発者にとっていつも思案するところである。どの生徒も同じ ように学ぶ意欲があるという前提に立ち、教師は学ぶことの喜びを生徒に体験させよう と努力する。動作や認知上の困難を伴う生徒の学習には、とりわけ配慮と工夫が要求さ れる。特にこうした生徒には、彼らが日常知っている事象や身近な出来事に関連し、と りわけ視覚的な題材は欠かせない。  障害児の学習環境における次ぎのような障壁もある。すなわち、障害のゆえに生活体 験が限られがちになり、学校や家庭などでの体験がそれ以外の場所や空間での体験に結 びつけることが困難な状況のことである。この懸隔を橋渡しする一つの方法が仮想現実 とかバーチュアル体験という学習環境の設定であり、そのための新しい教育情報の収集 とその教材への活用である。幸い、こうした題材を教材に取り込む環境が整っている。 デジタル化技術、とりわけマルチメディアの環境である。この環境は限定されることの 多い障害児の学習領域や内容を豊かにする要素を含んでいる。  I. 教材開発  現在の教材開発は、1) 独自の創作、2) 複写、録音、3) 著作権フリーなどのソース からの収集と編集作業が中心である。独自の教材の収集は 描写、8ミリ、写真、録音 によって行われる。複写は、いうまでもなくスキャン、模写、ダビングといった作業で ある。さらに著作権フリーの材料は、CD-ROM、ディスクで流通しており、またネット ワークからのダウンロードによって得られる。こうした作業は、多かれ少なかれ編集や 加工作業が必要とされ、教材開発の大部分がそれに費やされる。最近では、材料そのま まの活用が、授業というプレゼンテーションの中で展開されることも珍しくなくなって きている。 II. 教育情報資源とネットワーク  独自の材料を使った教材は、本来もっとも望ましい性質のものであるが、個人やグル ープで取材することが困難な題材もある。たとえば国外にしかないもの、科学技術など の専門領域のもの、特定の音声たとえば人、歌、効果音など、仮想の世界の出来事、た とえば実験から得られる手続きと結果などである。しかし、こうした課題は国際的な情 報通信網といわれるインターネットの活用によって新しい入手のチャネルが開かれてい る。 a) インターネットとWWW  1994-5年度に最も注目された話題は、WWW(World Wide Web)という情報提供・ 検索システムである。これはハイパーテキストという情報のランダムアクセス方法を 用いて、グラフィックス、テキスト、映像、音声情報を提供することである。 Macintosh上で流通しているハイパーカードのネットワーク版のようなもので、情報 の整理法であると同時に検索法とでもいうべき考え方である。ここでの情報の提供は、 WWW上でホームページという欄を作り、そこに発信や受信の仕掛けを作る。この場合、 HTMLというテキストベースの言語を使い、タグという命令を埋め込むことによってい ろいろな情報を公開する手続きを書く。 b) WWW上の教育関連情報  WWWでの情報の多くは、映像が主体となっている。これがインターネットが急速に 普及していることの理由の一つである。映像情報の領域は多岐に渡り世界中の政治、 経済、文化の情報が流通している。具体的にいえば、地理、文化と習慣、観光、スポー ツ、コミュニケーション、各種行事、科学技術、芸術、音楽、建築、 趣味、出版-図書、 政府官庁サービスなどなどであり、枚挙にいとまがない。 c) 情報の検索  世界中のWWW上のホームページから情報を検索するために、いくつかの検索用のペ ージが作られている。たとえば「Yahoo」,「Webcrawler」,「Lycos」などのページ を開き、必要とする教育情報を貯蔵するサーバーを特定しそこからダウンロードするこ とができる。こうした作業は、通常英語のキーワードを入力して行う。また、「Internet Yellow Page」という電話帳のような分厚い資料もある。日本語環境でも最新の情報を 検索・提供するページも増えており、年々検索の使い勝手が向上している。 III. 教育情報の利用と著作権  ダウンロードした情報を教育上の目的で使う場合、特定のキャラクタなどを除けば引用 し利用することができると考えられている。著作権法32条 では、「公表されている著作 物は、引用して用いることができる。その引用は、公正な慣行に合致するものであり、 かつ、報道批判、研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるべきものでなければ ならない。」とある。つまり教育活動という公正な慣行に合致して、引用の目的上正当 な範囲内であればWWWの画面情報を雑誌、教材に引用してよいと考えられる。その場合、 教材の中に引用する者は、どのような意図で引用するのかを明確にすべきである。著作権 をはっきりと謳う画面でからの複写は、個人の利用にとどまるべきであろう。なお著作権 を明確に謳う場合は、なんらかの使用手続きをとるべきである。  最後にほとんどの場合人間の創作物といわれるものは、過去の人々の創造や成果の上に 成り立っている。「創作者は巨人の肩に乗っている」といわれるように、なにかを作ろう とする者は、巨人といわれる先駆者の創造に依存しているといって差し支えない。教材の 題材となる素材は、誰かがすでになんらかの意図のもとに作られている。それらに規制を かけることは、社会の知的生産を妨げることになる。教材開発者は、社会の相互作用を配 慮しながら、流通する教育情報を公正な慣行に合致させながら、非営利の教育目的に限定 して積極的に活用すべきである。 参考文献 小林 巌(1995). 国際理解を深める障害児教育と「インターネット」の活用. 日本特殊教 育学会第33回大会発表論文集. 952-953. 成田 滋(1995). インターネットにおける障害者情報サービスの現状(2). 日本特殊教育学 会第33回大会発表論文集. 950-951.