障害者とコンピュータ利用教育研究会

1998年9月会報 NO. 98  Mac Education Society(MES)

監修 成田 滋

編集 西谷淳 猶原秀明 丹羽登、 村川佳子、渡部親司、岩井宏氏

PDF版の会報(247K)はこちらです。お読みになるにはAcrobatReader日本語版が必要です。どうかダウンロードしてください。また、コンピュータ関連の雑誌についているCD-ROMには、無料のAcrobatReader日本語版がついています。これをハードディスクにインストールすることをお勧めします。


MES
ホームページ
1998年
8月号
1998年
7月号
1998年
6月号
1998年
5月号
1998年
4月号
1998年
3月号
成田研究室

 

〒673-14 兵庫県加東郡社町山国2007
  兵庫教育大学 学校教育研究センター
  naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp
  Fax 0795-40-2203

■ 目次 ■

 

第98回関西例会のお知らせ

第100回記念例会の予告

MES自作教材集CD-ROM'98に向けて

百科事典CD-ROMと養護学校

今年のPOEMから

自閉症児を連れてアメリカへ

Closing the Gapカンファレンス

皆さんからのお便り

ふれあいネットワークのご案内

■第98回関西例会のお知らせ

○日時: 9月19日土曜日(第3土曜日) 午後2時-5時
○会場: 大阪府立盲学校
     大阪市住吉区山之内10-12 Tel:06-693-3471 Fax:06-693-1504 幹事 中島康明氏 携帯電話 020-708-0883
  ○プログラム:  ・低学年向きマルチメディア教材の紹介
・インターネット利用の障害児教育の紹介
・パソコンバンクの紹介
・大阪府立盲学校の情報教育
・オーサリングソフト Authorwareの紹介
・その他

  ◎交通

●学校までの経路です。JRがおすすめです。

○電車利用の場合
JR阪和線 天王寺から各駅停車にて10分 我孫子町駅下車 徒歩5分(前の方に乗る )

 地下鉄御堂筋線 あびこ駅下車 徒歩20分(一駅手前の長居でJRに乗り換え可能 後ろの方に乗る 長居で改札左手階段から地上に出たら左手ラーメン屋の角をまわりJRへ)いずれも駅から進行方向(南)に対して右(西)へまっすぐ進み住吉郵便局の交差点を南に100m進進んだ右手。(歩道橋がみえる)学校までの経路です。JRがおすすめです。

○車の場合
 中国道から近畿道 八尾出口で中央環状へ。長吉で右折、長居公園前から踏み切りを渡って最初の交差点を左折。まっすぐいくと住吉郵便局が左にみえてさらに南に100m進んだ右手。歩道橋がみえる阪神高速は附属養護の近くの喜連瓜破からになります。

○注意
 大阪市立盲学校と間違えないでください。駐車場が狭いので車の方は中島に事前に連絡を下さい。


■第100回記念例会の予告

 障害者とコンピュータ利用教育研究会(MES)の例会も回を重ねて11月で100回を迎えます。ついては以下の要領で例会を開く計画です。現在、実行委員会を作って準備しています。どうか、ご家族でおこしください。

○日時: 1998年11月28日(土) 午後1時-4時30分

○会場:アップルコンピュータ株式会社セミナールーム
   〒163-1480 東京都新宿区西新宿 3-20-2  東京オペラシティタワー2


●記念例会プログラム
1:00-3:00pm 実践紹介
 ・Mac利用の障害児教育の実践紹介
 ・子どもと親による熱中ソフトの紹介
 ・協賛各社の新製品などの紹介
 ・MES 自作教材集CD-ROM98の紹介
 ・市販教材の紹介
3:00-4:30pm 懇親パーティとオークション
 ・参加者やユーザーグループの紹介
 ・新製品などの提供とオークション 

●協賛企業
 アップルコンピュータ株式会社
 島津理化機械株式会社
 日立デジタル平凡社株式会社
 アクセスインタナショナル株式会社(交渉中)
 ヤノ電器株式会社
 株式会社アスキー(交渉中)
 株式会社ビー・エヌ・エヌ(交渉中)
■MES自作教材集CD-ROM98に向けて

「CD'98の教材の集まり具合の中間報告とお願い」

大杉成喜 兵庫教育大学大学院 osugi@pop.net135.or.jp
 9月2日現在のCD'98制作状況です。15日の二次締め切りに向けてがんばっております。まだ、容量的にはかなりの余裕があります。みなさま、ご協力をよろしくお願いいたします。特に、今回は北陸軍団の勢いが少ないように思います。 (北陸方面担当の小塚先生よろしくお願いいたします。)

以下、現在の教材の集まり具合です。(敬称略)
ジャケットデザイン(ラフスケッチのみ完了)
 近藤 英治 滋賀県立甲良養護学校
       Macのみで動作する教材
 志村克美 北海道教育大学附属養護学校
       HyperCard「ミスタードーナッツを買いに行こう」
 立川幸男 (有)光琳館
       HyperCard「亀の学校」
 盤若一樹 富山県高岡市立こまどり養護学校
       HyperCard「反対ことば」
       Winのみで動作する教材
 河野俊寛 石川県立明和養護学校
       VB教材「色と形」提供
 後藤英光 山形県余目中学校
       VB教材「ひらがな音声ワープロ」「たしざんドリル」
  「お金をならべる」
 酒井瑞雄 「九九もぐら」
       Win・Macコンバート可能
 加藤利彦 群馬県立みやま養護学校小学部
       OMO「切符を買う」「色をそろえる」「数字を選ぶ」
 大前洋介 神戸市立垂水養護学校
       Director「風船」「3D的迷路-入力方法別3部作」
       「かくれんぼ-3部作」「ボーリング」「ヘディング」
       「キック」「とけい」「回転寿司」
       OMOスタック「お金のシリーズ」
      ※Win・Mac用制作(岩井担当:現物は私の手元にありません。)
 戸田幸子 デザイナー
       Photoshopのレイヤー機能で遊ぶ教材「レイヤーパズル」
       素材集「表情シール」
 清水一郎 山口県立岩国養護学校
       Green教材「トーキングねこちゃん」
 谷内みどり
      「おけいこJAVA」
 小野龍智 佐賀県立金立養護学校
       HTML資料「AAC」を提供
 加地 守  広島県立西条養護学校 八本松分級
       OMO教材「ひらがな絵カード」「ひらがなつみき」
      「のりものビデオ」
 前田宏治 鳴門教育大学学校教育学部附属養護学校
       AuthorWare教材 「お金基本」「お金数え」「お金数字」
       「お金2種」「お金3種」「かけ算」「足し算」「声で品物」
       「声で場所」「声で動物」「家の品」「色合わせ」「色合わせ2」
       「色形合わせ」「蝶で色」「物色形合」「もじ1」「もじ2」
       「字で台所」「2つの数」「りんご集」「小犬何匹」「指1-5」
       「指5-10」「指と数10」「指数え10」「声と指数」「物と指数」
       「ジャンケン」「タッチ練習」「時計短針」
       ※CD'97に収録、今回はMacにコンバート(西谷担当)
 大野裕子 名古屋市立小碓小学校
       Director教材「言葉遊び歌」「お金の歌」「時計の歌」

  私こと大杉はDirector教材「おいどでまいど」81MBを用意しています。 もし、容量が少ない場合はWinにコンバートして160MBあげ底げしようかな、何て思ってます。あと、千葉県立市川養護学校の佐原さんから教材提供の予約をいただいております。(みなさんで把握されている情報をお知らせください。)成田研究室の教材についても教材名等をお知らせください。


■百科事典CD-ROMと養護学校

 成田 滋 兵庫教育大学 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp

 養護学校のコンピュータ利用は、学校の自助努力よりも親や親の団体、さらに教師や親が組織する民間団体や研究会の努力によるところが大きいといえます。学校のコンピュータやネットワーク利用の取り組みは、ほんの一握りの学校で行われているにすぎません。養護学校というところは、社会的にあまり知られていないせいか、周りからの影響を受けることが少ないといえます。そのために、内部からの変革は起こりにくい体質があります。また外の変容に対する対応についてもきわめて疎いところがあります。周りもさほど養護学校の変革を期待していません。学校のコンピュータやネットワーク利用の取り組みの遅さは、そんな体質からきています。

 しかし、ネットワーク時代の到来は、情報を非公開としていた「校是」に風穴をあける契機となりつつあります。生徒の学習活動がネットワークを通して社会に知られ、各地の障害のある生徒同士や学年を超えた生徒間のコミュニケーションも小規模ながら行われています。生徒や親が自宅でコンピュータを使うのが増えているために、教師もうかうかしていられない状況が生まれています。どの県もコンピュータ教員の再研修には利用の力を入れており、こうした傾向は今後加速するはずです。  障害者とコンピュータ利用教育研究会は、親と教師がともにコンピュータを使って障害児教育をより促進するために結成されました。活動は8年以上も続いており、この11月28日には東京で100回目の記念例会を予定しています。例会はこれまで欠かさず、毎月開かれています。研究会の活動で特筆すべきことは、障害児や親や教師がもっとコンピュータを使って楽しく学習するために、自作教材を集めたCD-ROMを作成していることです。これまで3種類をつくり、現在は1998年版を制作中です。

 CD-ROMによる教材の配布という形態は、いまのところ一番手ごろで便利な方法です。たしかにネットワーク上でもいろいろな教材は配布されていますが、今日の教材はマルチメディア対応で、どでかい分量のものが多く電話回線でダウンロードして使うのは現実的でありません。そこでCD-ROMがもっとも手軽な媒体となります。

 百科事典CD-ROMも大事な教材です。教師が自分で百科事典の内容は用意することは、不可能に近いことです。百科事典CD-ROMの良さは、事象や事実を関連づけて学ぶことができることであります。知識は断片的に学んでもあまり意味がありません。必ず物事には必ず背景や経緯があることを生徒にわからすべきです。この「関連づけて学ぶ」方法を教えるのが教師の役割であります。学習の仕方を学ぶ、いわゆる「メタ学習」にとって百科事典は格好の材料となります。

 百科事典CD-ROMを使った探索発見活動は、それだけでうきうきするような学習ともなります。知的な発達にさほど遅れがない生徒には、こうした活動は効果的な学習の場となります。生徒をグループ化し、学習課題を与えて何らかの結論へ導くよう支援するのです。教室内での生徒と教師による共同作業では、百科事典がないと実現が困難だ、といっても過言ではないでしょう。

 百科事典CD-ROMには、映像も音声もふんだんに盛り込まれているので、小さなモニターをちまちま覗き込むのではなく、明るいプロジェクターと音質の良いスピーカを用意して、生徒の聴覚や視覚を存分刺激し、陶酔させるような配慮もしたいものです。生徒の学習過程は、生徒が調べたことを皆に紹介する表現力の育成にもなりますし、生徒が自分たちでやったという自己効力感と達成感を高める機会になるでしょう。

 えてして百科事典というものは、図書館に鎮座して埃をかぶっていることが多いものです。百科事典は、わざわざ図書室へいって調べるものではなく、教室で手軽に利用できるものであるべきです。百科CD-ROMを生徒が日常的になんの違和感もなく使えるようになれば、わざわざ「コンピュータ利用の教育」などと肩を張る必要もなくなるでしょう。そのためには百科事典CD-ROMは、いつも手元にある副教材として教室になければなりません。(この原稿は、教育家庭新聞1998年9月5日号に寄稿したものです。)

■今年のPOEMから

 今年のPOEM(マルチメディアのパーティー)は九州・グリーンピア南阿蘇を会場に「POEM 98 in ASO〜思い出してみませんか伝える楽しさを〜」をテーマに開催されました。主催はACE(教育とコンピュータ利用研究会)九州。会場となった「グリーンピア南阿蘇」は阿蘇のカルデラの中腹に位置し、窓からはすばらしいながめでした。地元スタッフとして筑後養護の小宮さん、金立養護の深町さん、熊本聾の財満さんは自前のマシンを持ち込み、ブースの運営にご苦労いただきました。もちろん、例年通りMESからも多くの参加がありました。ACE会員でもある人も多くどっちからの参加かよくわからない、というのも例年通りです。

 参加したのは筑波大附属大塚養の永田さん、千葉聾の宮下さん、野田養の熊谷さん、滋賀大附養の大杉さん、仰木の里小の檜皮さん、三雲小の西谷さん一家、甲西中に進学した長谷君とお母さん、龍野市の前田さん一家、大阪府立盲の中島一家、そして渡部です。

 メインとなった7日は、午前中に鈴木敏恵先生の講演、午後からは事例発表、夕方からは懇親会がありました。鈴木先生は「授業はプレゼン」をキーワードに、テレビ出演や、コンピュータネットワーク関係の講演等でご活躍中の新進気鋭の建築家です。講演では、「学ぶとは何か」について、自分の経験をもとに講演が行われました。また、「伝える」ということは「自分のエネルギーを相手に伝える」ことであり、マルチメディアを駆使したプレゼンテーションであるという発想から、新しい学校つくり教室作りの提案がされました。

 また、実際に鈴木先生が設計し、完成した神奈川県の明徳学園相洋中高等学校のセンター棟(インテリジェントセンター21)の様子がビデオで紹介されました。そこでは、100BASE-Tによる高速LANや大型ディスプレイ黒板の使用などの先進的な設計、建築に基づく学校の様子が紹介されました。

 午後からの事例発表では養護の先生が中心となってのネットワークつくりや不登校児に対する活用事例について発表がありました。また、MES九州からは小宮さんと深町さんのほうから、「トーキングねこちゃん」や「どうぶつえんへいこう」などの自作教材を通して具体的な実践の事例の紹介がありました。また、聾学校でのMIDIを通した実践や、社会参加を支援するコンピュータ活用について、金立養護学校からの実践発表がありました。そして、大杉さんからは、滋賀大附属小学校の中司さんや北海道の幌内小学校の岩間さんらとともに進めているインターネット遠隔共同学習の実践についてユーモアたっぷりに紹介がありました。

 夕方からは懇親会がありました。懇親会では、西谷さんの4歳になる息子さん、こう へい君がじゃんけんに見事勝ちぬき(彼はチョキしか出せない!!)鈴木先生著の「マルチメディアで学校改革」という本を手に入れたり、長谷翔太君とお母さんが鈴木先生と一緒に記念写真を撮ったりと楽しい雰囲で進められました。会場となった阿蘇グリーンピアホテルは少し高台にあり、季候もよく、その上温泉も満喫できました。(リポータ 渡部親司 島根県立出雲養護学校 m97332h@students.hyogo-u.ac.jp)

■自閉症児を連れてアメリカへ

 佐藤恵利子・佐藤裕 札幌市 ysato@execpc.com

●パーティー嫌いのテピ
 アメリカ人=パーティー好き、と思うくらい頻繁にパーティーは開かれている。フォーマルな格好で出席するパーティは希で、ほとんどが家族単位で出席できるカジュアルなものだ。コミュニティーの交流をはかる目的のものや、子供達のためにアレンジされたもの、参加する人が料理を持ち寄るポトラック・パーティなども多い。。パーティーという言葉自体がなにか華やかなものを連想させるが、実際のところは友人・知人・そのまた友人などが、気軽に集まって茶飲み話をするといった実にあっさりしたものが主流だ。

 マディソンに引っ越してきたばかりの頃、知人が私のためにたくさんの友人を自宅 に招いて、ランチパーティーを開いてくれたことがあった。私の交友を広げ、必要な 情報が得られるようにと。この時知り合った人達は最後まで何かと親切にしてくれ た。感謝の気持ちと共に、私はこの心暖まるパーティーのことを決して忘れないだろ う。

 テピはパーティー嫌いである。そんなテピと共にパーティーに参加する機会も多か った。混乱の中から得られた、テピを連れてのパーティー攻略法を5例を基に書き出 してみよう。

●空腹状態は避ける
 6月、大学付属庭園にて行われた大学主催のガーデンパーティの時のことである。 午後3時スタートのこのパーティには裕が初めから出席し、私と子供達は1時間ほど遅れて加わった。平日なので、子供達には学校があったのだ。

 庭園には厳しい冬を耐え抜いた植物に緑が戻り始めていた。軽音楽が流れ、シャンパンやワイングラスを片手に談笑する参加者達で溢れている。 会場に着いたテピはまず裕を捜し始める。見つけたと思うといきなり 「ごはん!」と叫んだ。私は「しまった」と思った。テピはとてもお腹を空かせている。いつもなら学校から帰宅して、おやつを食べている時間だ。近頃のテピは驚くほど食欲旺盛になり、おやつの時間にもご飯を食べたがる。特に緊張状態にあるときは、どんなに空腹であっても好みの物以外は食べないという困った癖も持っている。

 テピはレストランに来たつもりでいたらしい。軽いスナックの並ぶテントの中を見 て不満の声を出し始める。テピの好みに合い、空腹を満たす物は見つからない。試し にチョコレートやビスケットを与えてみたが、テピは怒って拒否する。ジュースでご まかそうとしてもだめだった。そしてとうとう大声で泣き始めてしまった。しまいには芝生の上に仰向けになって、足でバタバタと地面を叩き始めた。
「帰るしかないみたいねえ。」
 私達は顔を見合わせてどちらからともなくそう言った。そそくさと帰ろうとしているところ、裕のボス、デイビー教授とばったり出会う。久しぶりの出会いなのでひとしきり立ち話に花を咲かせることになった。足止めを食らったテピはというと裕の手を引っ張りながらもおとなしく話が終わるのを待っている。この場の雰囲気に少しは慣れてきたのだろうか。時間の経過がテピの苛立ちを静めてくれるということもよくある。

●曖昧な予告は禁物
 我が家で初めてパーティを開いたのは、裕の誕生日にかこつけて研究室の大学院生 達が集まった時だ。私達はテピが来客にどういう反応を示すか少し不安だったので、 パーティの準備をしている間にテピに言い聞かせた。
「もうすぐ、おにいさんたちが来るよ。」
 これが裏目に出た。テピは「おにいさん=いとこのおにいさん(アキにいちゃん )」と自分勝手に理解して、「アキにいちゃん、来るよ。」と言いながら大喜びなの だ。アキにいちゃんは東京に住む大学生なのだが、3月にマディソンまで遊びに来て くれたことがあったので、テピはそれを思い出しているらしい。一度思い込むと修正 は不可能に近いのがテピの習性だ。それを分かっていながら、「おにいさん」などと 曖昧な言い方をしたのは失敗だった。

 学生達がやって来た。愛想良く子供達に話しかける学生たち。彼らの顔を見たテピ の表情が突然変わった。みるみる堅くこわばり、怒りと拒絶の声を出し始める。 学生達には裕が前もってテピの障害を伝えてあったので、「これが自閉症か」と思ったことだろう。「ごめんなさいね。」と言った私の言葉に、「気にしないでいいよ。」と言いながら、彼らは持ってきた料理をテーブルの上に並べ始めた。

 私がテピをなだめながら2階の寝室へ連れて行く。1人にして大好きなカセットテ ープを聞かせていれば30分で落ちつきを取り戻すことが多いのだ。 席に戻り、パーティは始まった。裕と既に親しい彼らとの会話はすぐに盛り上がり、楽しく平穏な1時間が過ぎた。その時、ゴリラの縫いぐるみを抱いたテピが2階から降りてきた。そのままつかつかと学生達に近づき、顔をしげしげと覗き込む。そして、「やっぱり違う、アキにいちゃんじゃない」というような表情を見せ、また大声を出し怒りを吐き出した。

 こんなことを3回も繰り返しただろうか。パーティがそれで台無しになったというわけではないが、「おにいさんが来る」などとテピに誤解を与えるような言い方をし たのが悔やまれた。初対面の人の来訪をテピにどう説明するかずっと迷っていたが、 集合的な言葉を使うよりきちんとその人物の名前(写真があるともっといい)を伝え ることの方がテピにとってずっと親切だと肝に銘じた。

●散歩をするぐらいのゆとりをもつ
 独立記念日に友人宅でのバーベキューパーティーに招かれた。8組の家族が緑の美 しい広い庭で歓談しながら目の前で焼き上がる料理に舌鼓を打つ。テピはというとベ ンチに座りながら、イライラしている様子。持ってきたウオークマンで好きな音楽を 聞くと笑顔も見せるが、それも一時しのぎに過ぎないようだ。幸いこの庭は隣接する 雑木林へと続いている。裕がテピを誘って軽い散歩に出かけた。闇が少しづつ深まり、陸生の蛍がゆらゆらと怪しい光を灯し始めている。

 しばらくして姿を見せたテピはすっかり緊張が解けた様子。リラックスすると今度 はトーンの高い独り言を言い始めるが、テピのいい状態の独り言はこういった自由な 雰囲気の中ではそう気にならない。それからずっとテピは皆の中で落ち着いていた。

 独立記念日には米国全土、市内各所で打ち上げ花火が行われる。友人宅から歩いて すぐのゴルフ場も花火会場となった。私達を含め、花火を見に行きたい約半数が一緒 にゴルフ場まで移動した。すっかり暗くなった芝生の上にはたくさんの蛍がふわーっ ふわーっと地面から空に向けて妖しげな光りを放つ。空中に浮かぶ光を手ですくい取 り、初めて間近に見る蛍の姿。それが感動的ではしゃぎたい気分になる。この時、間 近で見た派手な打ち上げ花火よりも、はかなげな光を放つ蛍達の存在の方が、より鮮 明に私の脳裏に焼き付いている。

●好物を持参
 英語の先生のケイトが私達家族のために自宅でディナーパーティーを開いてくれ た。 テピをよく知っている彼女は、テピのために何か準備できることはないかと事前にとても気を使ってくれていた。

 当日私は、寿司と小豆白玉団子を作って持参することにした。親日派のケイトとテ ピが共通して好きな食べ物だからだ。 こじんまりと暖かいムードのケイト宅。テーブルウェアのセッティングも彼女のセンスの良さを感じさせる。ケイトは手の込んだ料理を作って私達を待っていていくれた。

 同席したケイトのボーイフレンドがべた褒めの彼女の手料理。この料理をじっくり 味わえるかどうかはテピにかかっている。 オードブルを進める私達の傍らで、テピはケイトが差し出してくれた寿司に手をつけ始めた。凄い勢いで食べるテピ。私はケイトの料理もテピに食べさせたかったが、拒否される。ひとしきり食べると持参したウーロン茶を飲みソファに腰掛ける。そして静かにステレオから流れる優しいジャズの音に耳を傾け始めた。 それからテピは長い時間を穏やかに過ごした。もちろん私達も。

●遅れて行くのも有効
 帰国1週間前、大学で裕のフェアウェルパーティーが開かれた。家族も裕同様パー ティーの主役である。大学の会議室で大人数が集まるパーティーにテピを連れていく にあたって、私達はこう作戦を立てた。

 参加者が多く混雑するのはパーティーの中盤までで、それを過ぎると義理で参加し ていた約半数の人達は帰る。会場も落ち着き親しい人達が中心で和やかな雰囲気にな った頃、私が子供達を連れて現れる、といった具合に。予定どうり、1時間以上過ぎた頃私達は大学に向かった。もちろん食事は済ませて。 会場入り口に一歩足を踏み入れると、裕を含めた紅潮した顔々が私達を一斉に注目する。一瞬たじろいだ私だったが、次の瞬間の歓迎の笑顔に導かれて中へと吸い込まれていった。

 テピは言われるままに椅子に座り静かにコーラを飲み始めた。デイビー教授が私を 初対面の人々に紹介しに回る。出会いとが別れが一緒になってしまう人々だ。でも裕 から常々話を聞かされていた人々には旧知のような親しみを感じる。

 私はしばしテピのことを忘れていた。フッとテピの方に視線を向けると、テピはち ょうど立ち上がり椅子から離れようとしているところだった。 「お父さんのところに行きたいんだね。」と大学院生がテピに声をかける。テピはニコニコしながら、話し込んでいる裕に駆け寄り抱きついた。それから帰路につくまで機嫌良く裕に寄り添っていたテピである。

 ヨピはというと、どのパーティーでも本当に何でもよく食べていた。大人とは別に 子供達だけ集まって子供部屋でゲームをしていたり、動物のいる家ではその動物に魅 せられていたりとヨピなりに楽しんでいたようだ。普通児のたくましさをつくづく感 じたものである。

(この原稿は、佐藤氏より掲載の許諾をいただいております。「アメリカの障害児教育の魅力」が学苑社より発行されています。事務局)

■Closing the Gapカンファレンス

 世界一の規模を質を誇る「コンピュータテクノロジーと障害者教育/リハビリテーション」Closing the Gapカンファレンスのお知らせです。昨年は、中邑ゼミ、成田ゼミ生らが参加しました。150の発表のほか、100社余りの企業やグループが出展します。

●名称 16th Annual Conference Computer Technology in Special Education and Rehabilitation
●日時 1998年10月22-24日
●場所 ミネソタ州ミネアポリス市 Raddisson South Hotel
●参加費 前予約 一人250ドル 5人以上では一人225ドル
●宿泊ホテル Radisson South でカンファレンス割引で一人115ドル、二人で125ドルとなります。数人で行くと得です。
こちらのURLでonline予約ができます。
http://www.closingthegap.com


■皆さんからのお便り

●「マルチメディア教材研究開発ワークショップ」
 沼尻 清 knuma@tau.bekkoame.ne.jp
 栃木の沼尻です。この夏休みは、日本視聴覚協会の研修に参加してきました。この研修は、「マルチメディア教材研究開発ワークショップ」と言って、ハードメーカーの協賛で研修を受けられるものでした。今回は、Apple、日立、IBM、富士通の4社です。私は、当然その中のAppleの研修を受けました。内容は、ノンリアルビデオ編集です。

 他の会社の研修は、インターネットのホームページづくりとか、ハイパーテキスト(ハイパーカードのWin版のようなもの)で、Macユーザーは、何年も前に経験しているようなことを他のみなさんは最新テクノロジーであるかのようにがんばっていました。それに対して、Appleの研修は、パソコンでとうとうここまでできるようになったかと思いました。パソコンだけで、かなり本格的な映像編集ができることがわかりました。

 ただし、ハードディスクは最低でも8G以上必要になりますね。辛い!でき上がった作品を他の研修を受けた人達と一緒に観ました。他の研修を受けた人からは、ただの映画作成研修か?と言っている声も聞こえてきましたが、パソコンで編集できることが重要であり、ビデオデッキや編集機を使ってやることを考えたらどんなに進んだ技術であるかがわかると思います。

 この研修で、Appleから担当していただいた方は、三木功次さんでした。このようなトレーニングセンター関係の方なのか、私は、初めてだったのであまり話しができませんでした。もう一人は、茨城大学の山内裕平さんでした。この方とは、話しをすることができました。以前MESの記事で名前を見たような覚えがあったので、声をかけてしまいました。

●お願いです
 前田卿子  静岡医療福祉センター児童部 sifc@fuji.ne.jp
 静岡県障害福祉課主催のマルティメディア推進ネットワーク会議に8月に参加してき ました。伊豆の板垣さんも昨年からこの会議に出席していて,98年度は,浜松の精薄施設と,富士の重度身体障害者更生援護施設(実際はADL自立した方)にコンピュータ指導のモデル事業として450万円と,98年度にコンピュータ講習会に300万円の予算がおりて*が進行しています。コンピュータ講習会は,東部,中部,西部の2〜3日20〜30人の受け入れを予定しています。

 しかし,入力装置や,指導者研修に関しては全く取り組まれていず,障害が軽度な方へのサービスとなっています。上肢機能に障害があっても,入力装置の工夫がいる方への配慮がまったくされていません。兵庫県のマルティメディア推進事業の報告書がありましたら,参考に送って頂けませんでしょうか。よろしくお願いします。

●POEMの想い出
 前田俊幸 兵庫県竜野市 PXE00631
 何年ぶりの家族旅行?兵庫県から高速を走ること8時間、目指すは熊本県久木野村です。実は出発から落ちがありました。「ちょっとポンコツ車見てもろとこか」「前田さん、エンジンからオイルにじんでるよ」「のらんほうがええで」という会話があったのが前日です。

 急遽おじいちゃんの乗用車を借りて出発しました。第1回のPOEMのときまだ小学生だった長男がこの春に運転免許を取りました。女房と3人ドライバーがおります。というわけで眠くなったら即交代、と言うすばらしい?条件でのドライブでした。後ろの席には肥満の次男とやせの長女、というわけできわめて窮屈ですが、なんとかがまんしいしい8時間を過ごしました。

 ついたところが阿蘇山の南の外輪山の麓、絶景かな!夕日に照らされた山々のすばらしかったこと。懐かしいMESの顔も見られます。翌日、POEM本番です。が、あろうことか我が家は集団脱走と相成りました。というのは、長男は小さいときからの大のSLファン。阿蘇ボーイという列車に乗るため、熊本駅まで降りていってしまいました。残された我々は水源巡りです。

 会場のあたりには水がわき出すところがたくさんあります。そのまま飲めるのです。河にしゃくをつっこんで水を飲む、と言った感じですね。汽車から降りてきた長男を拾い、阿蘇神社で昼食、その後スカイラインを走って火口まで行きました。いやもう、本当にきれいなところで・・ただこの日は風向きが悪く、火口を続き のぞきにはいけませんでした。

 で、宿に帰ればもうPOEMは終了し、懇親会を残すだけです。パソコンバンクの紹介は小宮先生が発表のなかでやってくださったと言うことで、要するに私は単に家族を巻き込んで遊びに行った、それだけのことだったのです。後はひたすら飲み食いに明け暮れておりました。でも、まじめな九州の方が準備してくださったせいか、いい加減さを残す?関西のやり方がちょっと懐かしくなる気もしました。

グリーンピアの朝食は特筆に値します。滅多にほめることのない我が女房が、美味しい美味しいと朝からおかわりです。パンを食べ、ご飯を食べ、お粥を食べております。本当に美味しかったようです。サラダが気に入り、ドレッシングを買って帰りました。

 最終日、そばの打ち方を習って帰ります。長女も一緒に、おばさんの指導でとにかく作り、もって帰りました。初めてにしてはよくできておりました。バンクのみなさん、今度の幹事会にはごちそうできるかも?お楽しみに。長さ1mもある麺棒も買ってきました。ただこの棒、竹刀と同じぐらいの握りやすいものなので目的外使用があるのではないかと恐々としております。^^);帰りには岡山のあたりでものすごい雨に見舞われましたが、2泊3日の楽しい家族旅行でありました。

■ふれあいネットワークのご案内

山平喜一郎 明石市 k-yamahr@psn.or.jp
 パソコンバンクでは、ホームページの改訂を機に、新たにふれあいネットワークというメーリングリストをスタートさせます。ふれあいネットワークとは、障害児を育て、ともに生きていくのに有益な情報交換の場(メーリングリスト)であり、障害児の親でも、教師でも、医師でも、第三者でも誰でも自由に参加できます。

 話題は障害児の能力を伸ばすソフトの情報、医療情報、福祉行政に関する情報、進学や卒業後の進路に関して、家庭内での悩みについて、図書の紹介その他何でも構いません。実際に役立つ経験に基づいた情報を交換するとともに、いろいろな立場から意見を寄せていただき、問題を立体的に捉えることができる場になればと思います。

 以前住んでいたある小さな町で障害児のいる全家庭にアンケートをとったことがありました。「障害児がいることをどう思うか?」という質問に、9割以上の人達が「いて良かった」と答えました。その理由は「多くのすばらしい出会いがあった」、「障害児がいることで、人間として生きていく上で大切なことを学ぶことができた」というものでした。しかし同時に「非常に大変である」ことも事実です。

 今日得られた新たな情報、経験、貴重な学びや喜びを伝える場、重圧に押し潰されそうになった時には支え合う場、住んでいる場所や立場を超えて情報を交換する場、それがふれあいネットワークです。

 現在あるnaritas-pcbank1@ceser.hyogo-u.ac.jpやnaritas-pcbank2とは別のメーリングリストですが、これらのメーリングリストに参加されている方々には是非ふれあいネットワークにもご参加いただきたく、意思確認を行います。pcbank1の幹事の方々は参加いただくことを基本とします。参加に不都合がある方のみ連絡下さい、その場合はふれあいネットワークには登録いたしません。pcbank2のボランティアの方々は参加の可否をk-yamahr@psn.or.jp 宛連絡下さい。可の連絡があった方をメーリングリストにリストアップいたします。

 メールアドレスの変更がある場合や、参加を取り止めたい場合も同じように上記アドレスに連絡して下さい。準備が整いましたら、メールの送信先をお知らせします。ふれあいネットワークでやりとりされた情報は、その一部、または全部がパソコンバンクのホームページ、「障害者とコンピュータ利用教育研究会」会報やその他雑誌等に引用される場合がありますので、そのことを了解の上で参加下さい。

では来月の会報をお楽しみに。