2003年1月会報 No.144
contents


■「MES 自作教材集 CD-ROM2002」自作教材の募集と制作のお知らせ
 ・お知らせの内容


■『自閉症の息子たちのためにサービスを選ぶ』-その三

東京都 野口美加子

IV.サービスを自ら選択する時代 ―親が必要とすること―


 これまでの経緯は1980年代半ばから1990年代の我が家のサービスを選ぶ現状から述べたものです。これを踏まえて、親がサービスを選択するために何が必要とされているか述べたいと思います。

 1. 子どもの障害、発達段階、ニーズについての説明
 障害のある子どもの親は,子どもの障害についての専門家ではありません。子どもの障害名を知って、慌てて専門書や関連のホームページで調べたりするのが現状です。最近では、親が参加することができる様々な講習会などもあります。親は、子どもに関わる専門家による、障害の内容と発達段階についての丁寧な説明を必要としています。しかし、親の子どもの障害についての受容過程の段階や、また親がおかれている居住空間や社会的条件により、親が子どもの障害について説明を聞いたり知ったりする機会に差異が生じます。子どもの障害について、どれだけ親が的確に理解しているか否かで、家庭生活への影響は変わってきます。このように,親の障害に対する受容過程や社会的な状況に対応できるように、専門家やセルフヘルプグループが障害についての説明をする必要があると思います。

 2.専門家による具体的な援助、教育方法の説明と指導
 多くの親は、障害のある子どもの子育てについての知識や経験はありません。私のように障害のある子どもが二人いても、子どもにより障害の特徴が違うので戸惑うことが多くあります。具体的には、文字や数などの学び方が違います。親は、特に障害告知後から幼児期までは、子どもとの関わり方や家庭での生活スキルの教え方などの指導を必要としています。そのような指導を受けることにより、子どもとの関わり方や子育てに自信を持てるようになります。このような説明と指導は、継続的に必要とされています。

 3.親が子どもの将来像を持てるサポート
 親が子どもとの生活についての将来像を持ちながら、自分らの生活を組み立てることは重要です。それを可能にするようなサポートが必要です。そのようなサポートとは、子どもの将来や可能性について見通しを持てるような情報を親に与え、親が頑張ってみようという気持ちをおこさせるサポートです。

     4.サービスについての正しい情報
 サービスを選ぶ最終段階では、親が入手する情報の量と質がポイントとなります。公的でない私的なサービスについては、口コミと親同士の情報交換によるものが圧倒的に多いのです。また、学校、作業所関係の情報などは,第三者による客観的なものがあればよいのですが、親による口コミ情報が中心で、情報として客観的でないことも多々あります。公的そして私的なサービスについての,効率的で客観的な情報提供システムが必要とされています。

 5.専門家と相談する機会
 サービスを選択する最終段階において、その選択についてのメリットとデメリットを専門家や障害のある子どもの保護者などと話したり相談する機会は、そのサービスの選択が最善であるか、子どもに対して公平であるかを判断するために大切です。

V.親がより良い選択を行うために ―今後の課題―

 障害のある人とその家族がサービスを選択するに当たって議論されるべきことは、
 a.サービスの質・量の充実、b.効率的な情報提供、c.本人と家族が選択する力をつける支援の3点です。特に3点目の本人と家族が選択する力をつける支援にポイントを絞って述べることとします。

 1.専門家による支援
 親は初めから子どもの障害についての専門家ではないので、専門家からの子どもの障害と発達段階についての説明、子どもとの関わり方と生活スキルの教え方などの指導を必要としています。そのような指導を受けることにより、子どもとの関わり方を理解でき、子育てに自信を持てるようになります。特に早期療育における、専門家が果たす役割は大きいと考えています。このように,子どもを理解することにより、親として子どもが必要とするサービスを考え、選択できるようになります。

 2.セルフヘルプグループによる支援
 同じような経験を持つ親と話し合うことにより、障害のある子どもを抱える家族同士で連携が育まれ、共感が養われ、それが色々な力になります。何よりも、障害のある子どもを抱えている家族が他にいることを知り、孤独な気持ちが癒されます。将来についての見通しについても先輩の親との話しの中から持てるようになります。親が疑問に思っていること、不安に思っていることを、専門家でない第三者に話すことはとても大切です。話し合うことで、具体的な解決策や解答がでなくても、問題が整理できたり、家族としての生活の在り方についての方向性のようなものが親に見えてきたりします。このような経験が、具体的に本人と家族に必要なサービスを選択する時の助けとなります。

 3.継続的な相談コーディネーターによる支援
 継続的に本人に関われるコーディネーター(キーパスン)を中心とした個別教育計画/個別ライフプラン/個別援助プランなどの定期的な作成と見直しができるシステムが必要です。教育計画やプランを定期的に見直すことにより、本人、家族とも将来への見通しをもちながら、問題整理・解決ができます。このような経験の積み重ねにより、家族と本人がどのようなサービスを必要としているかを自ら考え、主張し、選択できるようになると考えます。

VI.おわりに

 障害のある子どもとその家族が、ごく当たり前に地域の中で生活できるようにすること、これこそが、医療・教育・福祉サービスの役割だと思います。親はこの目的のために,障害のある子どもたちのサービスを選択しています。しかし,家族は最初から障害のある子どもと様々なサービスを上手く利用して生活しているわけではありません。家族は子どもと関わりのある専門家や仲間の家族などに支えられ,また子どもの障害について様々なことを学びながら、本人と家族が必要とするサービスを考え、次第にそれらを選択できるようになのです。

 最後に,障害のある人とその家族が自ら選択する力をつけ、また,この選択を可能にするためには,継続的に本人とその家族に関わることのできる『サービス・相談コーディネーター』の存在が必要だと考えます。このコーディネーターの役割は,医療・教育・福祉の立場の関係者が連携して,本人と家族のニーズを理解し、これらのニーズに見合うサービスの提供をコーディネートすることです。どのような制度の中で、誰が、その役を引き受けるべきかは今後の大きな課題です。しかし、二人の自閉症障害のある息子の親としては、一日も早くこのようなシステムができることを願っております。今,発達障害のある人を取り巻くたちの連携と創意工夫が問われているのだと思います。

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