2002 年 12月会報 No.143
contents


■「MES 自作教材集 CD-ROM2002」自作教材の募集と制作のお知らせ
 ・お知らせの内容


■『自閉症の息子たちのためにサービスを選ぶ』-その二

東京都 野口美加子

I.誰のためにサービスがあるのか ―家族のごく普通の地域での生活のために―


 5. Behavioral Intervention Projectについて

 このプログラムは、4歳から22歳までの、中度から重度の発達障害や行動障害のある児童・生徒を対象としていました。基本的な生活習慣の確立、学習、職業訓練(学校、地域での職場、下請けの仕事)を目的としてプログラムを行っていました。授業は公立の学校の教室で行なわれていました。学校への送迎は、居住している町の教育委員会の責任でした。家の玄関から学校までスクールバスで息子の送迎をしてくれました。

 学校での観察が終わり、Shriver Center でのアセスメントが終わると,個別教育計画が作成され、それを親が承認する会議がMs. Elias をも含めて行なわれました。個別教育計画では、知的な能力が高いとか低いとか、何ができて何ができないかは問題とされませんでした。子どもがどのような発達段階にあるのか、どのようなことをどのように教えることが必要で効果的であるかが、教師と親との間で話されました。本人がどのようなことができるようになれば、より彼の生活が充実したものになるかを考えながら作成されました。

 個別教育計画の関係書類に署名した後に、担任は「私たちは親と各々の立場で、彼のために協力しあい連携するのです。なにかあったらすぐ気軽に声をかけるか、ノートに書いて下さい」と、言ってくれました。家で困っていることを聞かれたり、本人が興味をもっていることも担任の教師から聞かれました。これは、家族が家族として、障害のある子どもが積極的に家族の中で生活するためには、何が問題なのか、子どもがどのようなことができればよいのか、家族として何をさせてあげられるかを考えるきっかけとなりました。主に、先生との連絡はお便り帳を通してですが、お互いに家や学校での様子などを書いたり、子どもができる課題について学校と家庭で協力できることを率直に書いたりしました。学年末には、1年間の子どもの変化について記録をもとに比較し、お互いに息子の発達を喜びあいました。

   6. 米国での経験から

 息子についてMs. Elias やBehavioral Intervention Project のプログラムの教師と話す時は必ず、息子が今何を一番必要としているかを一緒に考えよう、保護者として何が一番困ったことなのかという問い掛けがありました。このようなやり取りにより、息子のニーズや家族のニーズについて考えたり、まとめたりすることができました。また、個別教育計画のおかげで家で取り組む目標が明らかになり、本人の発達にあった課題や躾けをすることができました。異国とはいえ、前向きな生活を送ることができました。

III.帰国後のサービスの現状 −米国での経験を生かして−

 1998年の夏、私たち家族は帰国しました。長男は5歳、次男は4歳、三男は3歳でした。三男の発達が順調でないことには気付いていましたが、すでに帰国する予定があったので,三男については日本に帰ってから対処しようという話し合いを夫婦でしていました。

 1. 日本における三男の処遇

 帰国してから三男は、1988年秋のホームリーブで帰国した時に次男が 診察を受けた、児童精神科の医師の診断を受けました。三男も自閉症の障害があるのではということになりました。その病院にデイケアがあったので次男も三男もその待機児リストに加わりました。取りあえず次男は保育園に入園することができ、デイケアには翌年の4月から通えることになりました。

 しかし,三男にとって、親が納得できる療育機関がありませんでした。親としては、総合的なアセスメントに基づいたプログラムではないこと,自閉症に対しての専門性が乏しかったことに納得ができませんでした。また、就学前の三人の息子を抱えての母親の付き添いが必要な通所は,物理的に無理でした。適当と思われる療育機関に通所できるまで、1年半待ちました。この間,家で母親と二人で過しました。療育機関に定期的に通えるようになるまでは、専門家による親の指導やアドバイスがないため、本人への適切な働きかけができず,また本人の状態を良く理解することが難しく、親として大変不安な状態でした。

 2.米国と日本の違い

 次男と三男の、障害の告知から療育や教育を受けるまでの日本と米国の違いには次のことがあげられます。まず,日本では、子どもがアセスメントを受ける手はずを整えたり、子どもに必要な療育や教育の場を親とともに捜してくれたりする相談機関や相談相手がいないことが挙げられます。あったとしても、就学前と就学後で行政の管轄が変わってしまい、幼児期の重要な発達段階での継続性が途切れてしまいます。

 次に、子どもの総合的なアセスメントを実施する機関がありません。日本では子どもの障害の診断を受けるために、色々な医療機関を訪ねなくてはなりません。知的障害を専門とする言語療法士、理学療法士、作業療法士が日本では非常に少ない現状です。それらの専門家による適切な子どもへの働きかけが十分でないため、子どもの総合的な発達が保障されないことは大変残念なことです。米国で次男が経験したようなアセスメントがあれば、多くの人が,より効率的に子どもへのサービスを行えると思います。

 また米国では、親が文書開示を承認すれば、病院や言語療法のクリニックなどがカルテを教育委員会やShriver Centerに開示することができました。このことにより,子どもについての専門家同士の効率的な情報のやりとりができました。日本のように,何度も何度も同じ話を親が繰り返しする必要はありませんでした。

 米国における,教育委員会との連絡役・相談役のコーディネーター、子どもの状態を把握するための総合的なアセスメントを行う専門機関、個別教育計画は、当時の混乱している家族にとり大変な助けとなりました。これらのサービスがない日本では、次男と三男のための医療的なサービス、教育的なサービス、福祉的なサービスを捜し、また,家族の生活を組み立てるために、現在でも親は大変な労力と努力を要求されています。

 3.サービスを選ぶプロセス

 私は、息子たちのためにサービスを選ぶにあたって、今までの経験にもとづき次のようなステップを踏んでいます。

 (1)本人の障害と発達段階を理解し、興味、強さを知る。
 何よりも大切なことは、息子たちを知ることです。息子たちの障害、発達段階、興味、強さの正しい理解がなくては、適切な教育の場やサービスなどを選択できません。発達障害といわれるように、息子たちは彼らなりに発達しています。本人たちのニーズにあった働きかけが,適切であればあるほど生活の幅が広がり、様々なことができるようになります。そのような働きかけをするには、彼らの生活の様々な場面で関わる専門家の知識と情報が必要となります。医師や臨床心理士による定期的なアセスメントは、必要不可欠と思われます。

 (2)家族全体のバランスを考慮に入れ、本人に必要なサービスを考える。
 まず、本人の状態を理解してから目標をたてます。目標に向けて、息子たちとの家庭での生活や学校での生活を計画します。これらの作業は、親だけでできる作業ではありません。息子たちと長い期間関わりのある、専門家の方々に相談しています。また、家族のライフステージにより、障害のある子どもに重点的に家族の資源を集中できる時期とそうでない時期があります。サービスの選択が子どもを含めて家族全員にとって最善でなくてはなりません。

 (3)実際の選択肢からサービスを選ぶ。
 実際のサービスの選択肢は少なく、サービスについての情報は親が積極的に動かないと集められません。現実に欲しいサービスがなく家族で考え工夫し解決することも多くあります。

     4.サービスを選べない現状とサービスが選びにくい現状

 経験上,息子たちを育てるにあたって、サービスを選べない現状と選びにくい現状があることに気付かされます。まず,選べない理由としては、選択肢の中に必要とするサービスがないことがあげられます。たとえば、兄弟の幼稚園や学校への送迎が重なった場合、母親しか家族の中で送迎ができなければ、送迎サービスが必要です。しかし、柔軟性があり、またサービス料金が手ごろなサービスはありません。

 次に選びにくい理由としては、本人にとり適切な指導やケア内容のサービスの選択肢が少ないことがあげられます。自閉症の息子たちはコミュニケーションの障害がありますので、特に耳鼻科、整形外科、形成外科などで治療が必要な場合に、医師が自閉症の障害ついての知識があると、診察や治療が受け易いです。しかし、障害のある子どもの診察や治療に慣れている医師や、専門の病院が少ないのが現状です。v  加えて,適切なサービスがあるにもかかわらず,サービス全般についての情報が入手しにくいため、選びにくくなってしまう状況も問題です。療育機関や余暇活動プログラムについての情報が、効率的で客観的に提供されていたならば、息子たちがより充実した生活を送れたのにと思うこと多くあります。

 5. コーディネーター役を果たす母親

 親が障害をもつ子どもの状態を把握して、彼らの発達を保障し,そして家族に必要なサービスを考え選択する作業は、とても重要だと思います。このようなプロセスを踏んでサービスを選択できれば、家族として前向きに生活を送ることができます。しかし、このような作業を親だけでするのは難しいことです。コーディネーターのような役割を果たす人、あるいは専門機関が必要だと思います。コーディネーターあるいは専門機関が、地域の情報や動向を把握し、それらの情報を親に説明できなくてはなりません。そして、そのようなコーディネーターあるいは専門機関には、親、医療、教育、福祉関係者を同じテーブルにつかせ、障害のある子どものケアについて話し合いの場を提供することが求められます。そのような場では,コーディネーターが継続的に本人にかかわり、本人と家族のニーズについて正しく把握し、関係機関に説明する役割を果たすことが要求されると思います。

 我が家では、母親である私自身がこのようなコーディネーター役をしています。障害がある子どもと生活しながら、コーディネーター役を果たして、息子たちの将来を考えながらサービスを決定することには大変な労力が求められます。私がこのようなことができるのは、長期にわたり子どもに関わって下さっている、医師、臨床心理士や教育関係者と定期的に相談できるからなのです。(次号に続く)

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