1998年アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第20回議会報告書


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保護手続き



 保護手続きは、障害を有している子どもの親と本人の権利を保護するために、またその家庭と学校との異議を解決するために策定されたものである。保護手続きのうち、いくつかは本質的にはあまり変化していないが、いくつかが修正されたり新たに付加された。 以下の保護は従来通りである:

・教育上の記録の入手:親は、子どもの教育上の記録のすべてを検閲しレビューする権利を有している
・子どもの IEEを入手する親の権利
・障害の同定、評価、あるいは子どもの処遇、あるいは FAPE(無償で適切な教育)の提供に関するあらゆる問題について、適正法手続きによる審問を請求する親の権利
・公正な審問担当者による適正法手続きでの審問が行われるようにする親の権利
・もしSEA(州教育委員会)が審問を行わなければ、SEAに対して最初の審問判決を求める申立てを訴える親の権利、そして
・最終の審問判決を控訴するのに適切な州または連邦裁判所へ民事訴訟を行う親の権利。

 幾つかの手続きが修正され、さらに幾つかの手続きが付加された。 これらについては、以下のセクションで論じる。

事前の文書による通知と保護手続きの通知

 1997年の個別障害児教育法(IDEA)の修正前では、事前の文書による保護手続き通知は、公的機関が(a)障害の同定、評価、あるいは子どもの教育的処遇、あるいは子どもへの無償で適切な公教育(FAPE)の提供の開始や変更を提案する前にあるいは(b) 障害の同定、評価、あるいは子どもの教育的処遇やFAPEの提供の開始や変更を拒否する前に親に与えられなければならなかった(34 CFR §300.505(a)(1))。1997年の修正個別障害者教育法は、親の保護手続きを通知するこのアプローチを簡素化する修正を加えた。

 現在、法律上の保護手続きに関するすべての説明は、以下の場合において、「保護手続きの通知書」によって提供されている
・子どもが初めて評価を照会される場合
・親が IEP 会議の通知を受ける場合
・行政機関が子どもを再評価することを提案する場合
・適正法手続きによる告訴の申請。 (§615(d) (l))

 その他の場合には、「事前の文書による通知」と呼ばれる書類を通して従来のように親が保護手続きを入手できるようになっている。 事前の文書による通知は、公的行政機関が子どもの障害の同定、評価、あるいは教育的処遇、あるいは子どもへの FAPE提供することを開始あるいは変更することを提案もしくは拒否する場合はいつでも付与され、そして以下を含んで付与される。(1) 行政機関によって請求されたあるいは拒否された訴訟の記述;(2) 行政機関が訴訟することを請求あるいは拒否する理由の説明;(3) 行政機関が考慮したその他の選択肢の記述と、なぜそれらの選択肢が拒絶されたかの理由の記述;(4) 請求されたあるいは拒否された訴訟の根拠として行政機関が用いた評価手続き、テスト、記録の記述:(5) 行政機関が請求あるいは拒否したことに関するその他のあらゆる要因の記述:(6) 障害を有している子どもの親の陳述は、このパートの保護手続きの下に保護され、そして、もしこの通知が初めての評価に対する照会でない場合は、保護手続きの記述をコピーすることで入手できる。そして、(7) 親がこのパートが提供するところのものを理解する手助けとなる情報源(§615(c))。

調 停

 修正前の法律では、学校と障害を有する子どもの親との対立を解決するために調停を利用することが認められていた。1997年の修正個別障害者教育法では親とLEA(学校区教育委員会)が自発的に参加できる調停手続きを作成するように州の義務を概説している。 州は、調停手続きが両方の関係者において自発的であることを保証しなければならず、そして、それが適正な審問手続きによる親の権利を否定したり遅延することに利用されてはならず、また、IDEA のパートBの下に与えられている他のいかなる権利も否定することに利用されてはならない。
 調停は、有資格の優れた調停技能を有している公正な調停者によって行われなくてはならない。 特殊教育と関連サービスの規定に関する法律と規則について熟知した有資格の調停者のリストが州によって整備されていなければならず、州は調停手続きの費用を負担しなければならない。(§615(e))

懲 戒

 障害を有している子どもの懲戒に関する法律に特定の要件が付加された。 これらの要件は、多くの要因、判例を含め、OSEPの覚え書き、OCRからの知見に基づいたものである。
 当初の法律の基本的な信条の1は、「不問に伏す」政策として知られている。 この条項は、公的機関が障害を有している子どもの現在の教育的処遇を一方的に剥奪し、そして行政上の訴訟手続き中に子どもを別の環境に処遇することを阻止するのに効力を示した。1997年の IDEA 修正は、以下のことを明記することによりこの条項を推進している:
 「サブセクション(k)(7)の[控訴中の処遇]で規定されているように、このセクションに従って行われるいかなる訴訟手続きの申請中でも、州又は地方の教育機関と親の同意が無ければ、子どもは現在の教育的処遇に停め置くべきである.........を除外する」(§615(j))

 1997年の修正個別障害者教育法は、以下のような障害を有する生徒の懲戒に関する明確な新しい要件を付加した:
・懲戒処分の対象となる学校規則あるいは行動規約に違反する者
・SEAおよび LEAの管轄下の学校あるいは学校行事に武器を持ち込む者
・SEAおよび LEAの管轄下の学校あるいは学校行事に、承知の上での非合法の薬物の所有や使用、規制物の販売や販売を要請する者、そして
・もし彼らの現在の教育的処遇に措置する事で、本人あるいは他の人たちに怪我をさせる可能性が十分に高い者。

 1997年修正個別障害者教育法のセクション615(K)は、懲戒訴訟手続きを10のサブセクションに分けている。 以下のパラグラフはこれらの懲戒要件を簡単に概説したものである。
 1997年の修正個別障害者教育法は、以下のように障害を有する子どもの処遇に変更を命ずることを含め学校の職員が懲戒処分を行う権限を明確にした。
 「(1)適切な暫定的代替教育環境、その他の環境、あるいは10日間以下の授業日数の停学 (障害を有していない子どもに適用される程度の代替):そして、(2)障害を有していない子どもが受ける懲戒と同程度の期間、しかし45日以下の適切な暫定的代替教育環境、もし
(1)子どもが学校あるいは学校行事に武器を持ち込む・・・:または
(2)子どもが学校あるいは学校行事に、承知の上で非合法の薬物の所持や使用、または販売や販売の要請・・・」(§615(k)(l)(A))

 上記で言及された懲戒処分が行われる10日以内に、もしLEA が停学の結果が出る前に、機能的な行動査定を行わないで子どもに行動介入計画を実行する場合、行政機関はその行動を扱うための査定計画を作成するために IEP 会議を召集しなくてはならない。もしすでに子どもが行動査定計画を持っているなら、IEP チームは計画を再検討し、必要な修正をしなくてはならない。(§615(k)(1)(B))
 法律は、審問担当者が子どもを45日以内の適切な仮の代替教育環境に処遇できる権限を拡大した。
 審問担当者は、公的行政機関が示した子どもの現在の処遇を維持することが、子ども本人やその他の子どもへ危害をもたらす可能性が高いことかどうかを判決しなければならない。 判決においては、審問担当者は現在の処遇の適切さを検討しなければならず、 公的行政機関が、現在の処遇において補助的援助者や補助的サービスの使用を含め、危害のリスクを最小限にするための合理的な努力を行ったかどうかを検討しなければならない。(§615(k)(2))

 これらの二つの新しい条項は、障害を有している子どもが通常のカリキュラムに参加し続け、子どものIEPに記述されているサービスとその変容受け続けることが可能となる、そして、IEPの目標に達することが可能となる環境へ処遇することを言及している。 処遇は IEP のチームによって決定されなければならない。(§615(k)(3))

 子どもの障害と非行との関係は「明確に決定するための再調査」を通して決定されなくてはならない。 IEP のチームは、行動が明らかに子どもの障害によるもではないとを決定するかもしれない。懲戒処分の適用となる行動を検討するために、評価と診断の結果を含めたすべての適切な情報、子どもの親から提供されたその他の適切な情報、子どもの観察、子どものIEPの処遇が懲戒処分の適用となる行動と関連して再調査されなければならない。
 IEPのチームは子どものIEPの処遇が適切であったこと、そして補助的援助者や補助的サービスと行動介入方略が子どものIEPと処遇に整合して提供されたこと、子どもの障害は行動の問題の影響と結果が懲戒処分となることを理解する子どもの能力を疎外していないこと、そして子どもの障害は子どもの行動を統制する能力を疎外していないことを決定しなければならない。(§615(k)(4)(c)) 

 1997年の修正個別障害者教育法の下で、もし非行が子どもの障害によるもではないことが決定されれば、障害のない子どもたちに適用される適切な懲戒手続きが、障害のない子どもたちに適用されるのと同じ方法で子どもに適用される。
 しかしながら、学校は、停学あるいは退学処分を受けている障害を有している子どもにFAPE(無償で適切な教育)を提供し続けなくてはならない。(§615(k)(5)(A))
v  親は、明確に示された決定を控訴する権利を有している。 控訴中は、「不問に伏す」条項が、控訴手続きの中の子どもの処遇を決定する。 もし学校職員が子どもにとって危険な現在の処遇を維持するとすれば、LEAは速やかに審問を請求してもよい。(§615(k)(6)と(7)))

 また1997年の修正個別障害者教育法の下では 、特殊教育が適切であるとまだ認められていない子ども、そして、あらゆる規則や行動規約に違反した子どもで、もしLEAが、行動が生起する前に子どもが障害を有しているとの認識がある場合は、法令の保護を主張することができる。
 1997年の修正個別障害者教育法では、子どもが障害を有している場合、LEAがそれを知っていたかどうかが決定基準に設定されている。もしLEAが子どもが障害を有しているという認識を持っていなければ、子どもは障害を有していない子どもたちと同様の懲戒処分の適用を受けることになる。しかしながら、もし子どもが懲戒基準に照らし合わされている間に子どもの評価が申請されれば、評価は速やかな方法で行われなければならない。(§615(k)(8)(C))

 1997年の修正個別障害者教育法は、行政機関が障害を有している子どもによって犯された犯罪を適切な当局に報告することは禁止されていないことを明確にしている。同様に、法律は州と司法当局がその責任を行使することを妨げていない。(§615(k)(9))
 最終的に、1997年の修正個別障害者教育法は、違法薬物、違法な麻薬、確たる証拠と武器に対する定義を規定している。 これらの定義は、これらの新しい条項の解釈と実行に重要である。(§615(k)(10))

弁護士費用

 1997年の修正個別障害者教育法は、弁護士費用を徴集することができ、そして適正料金基準が課されることを保証するという状況を明確にした。法律は、行政上の手続きや司法上の訴訟により命じられたことを除いて、弁護士費用と(a)IEPの会議に関する費用、および(b)申告している告訴に対して事前に行われた調停への州の裁量による費用を禁止している。法律はまた、弁護士費用が減額されなければならない場合の状況について明確に概説している。(§615(i)(3))

結 論

 歴史的に、個別障害者教育法は強力な市民権の法規である。 この構成全体に示されているように、1997年の修正個別障害者教育法は、障害を有している子どもと包括的な権利と責任を持つその家族を規定するために修正前の個別障害者教育法をもとに策定された。新しい法律はまたSEAや LEAの責任を強化している。 個別障害者教育法は、親の権利と教育機関の責任の均衡を保つようにしている。この均衡は、州に対する厳密な法解釈による援助、家族の関与の増加、OSEP (連邦障害児教育局)による法律履行の監視を通して達成されることが期待されている。(栢木隆太郎訳)