1998年アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第20回議会報告書


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修正個別障害者法の概要

 1997年の6月、IDEAは、公法105-17によってその修正法案が可決され修正個別障害者教育法となった。これは、個別障害児教育法(IDEA)の5度目の修正法である。過去にIDEAによって、障害生徒やその家族の生活はより改善されたとともに、障害生徒の教育に対する学校や教師の責務がより明確にされてきた。

 IDEAの基本的精神は、1975年に法律が可決されて以来全く変わっていない。しかしながら、修正された各条項によって、本法律のもつ本来の主旨は、より強化されることになった。1997年のIDEA修正法は過去の修正法と大枠は同じである。しかし、いくつかの重要な改正がなされた。本稿では、この法律のすべての修正点に関して詳細に解説するのではなく、むしろ修正されたいくつかの領域の概要について解説するものである。

 この年次報告書の別の稿においても、本法律の修正に関する内容を解説している。修正法の完全なテキストは、インターネット上からオンラインによっても次に示すURLから得ることができる。
http://www.ed.gov/offices/OSERS/IDEA
http://www.lrp.com/

 本稿は、部分的に連邦障害児教育局(Office of Special Education Programs (OSEP))の資料に基づいて作成された。なお、OSEPは、全米障害児童生徒情報センター(the National Information Center for Children and Youth with Disabilities(NICHCY) )と連邦特殊教育情報センター(the Federal Resource Center for SpecialEducation (FRC))から、本資料作成のための後援を受けた。また、「The individuals with Disabilities Education Act Amendments of 1997」と題された2巻の研修書物の資料も、本稿を作成する際に用いられた。



IDEAの6原則

 IDEAを概念的に理解する一つの方法は障害生徒に対して実施された教育サービスの枠組みを与える6つの原則を定義することである。その6原則とは、次のことである。

●無償で適切な公教育(FAPE)
●適切な評価
●個別教育計画(IEP)
●最も制約の少ない教育環境(LRE)
●親と生徒の意志決定権の尊重
●手続き上の保護措置

 修正個別障害者教育法案は、以上のような6原則の枠組みに基づき審議された。以下でそれを述べる。



無償で適切な公教育(FAPE)

 1997年の修正個別障害者教育法は、FAPEに関する旧条項を遵守しつつ、新たに2条項が追加された。したがって、障害生徒は、特殊教育および関連する教育サービスを受けるという意味において無償で適切な教育が適用されるとしている。具体的には以下のような教育サービスが示された。

(A) 公的な監督や指示のもとで、公費によって賄われる教育サービス
(B) 州の教育機関の基準に沿った教育サービス
(C) 州による就学前、初等、中等教育のなかで行われる教育サービス
(D) 614条(d)." (§602(8))のもと、IEPに準拠して与えられる教育サービス

 今回の修正法では、特に、無償で適切な教育が停学や退学の処分を受けた生徒に対して適用されなければならないとされている。州の教育機関(SEAs)と学校区教育委員会(LEAs)は、確実にIEPを実施していく責任がある。そして、IEPの目標と目的に沿いつつ、たとえ学校を停学または退学した生徒であろうと最も制約の少ない教育環境の中でIEPの実施が図られなければならない。(新しい要件のより詳細な解説は別項の
「手続き上の保護措置」において述べるものとする。)

 修正法は、刑務所内の障害生徒に対する教育サービスの制限に関しても言及している。連邦法では18歳から21歳までの一定の対象者に対しては、州の行うFAPEの適用には及ばないとしている。この対象者とは、投獄前の矯正施設内で障害を有するであろうと考慮されなかったもので、IDEAのもとで障害を有すると認定されなかったか、あるいは投獄以前にIEPの対象とならなかったかのどちらかにあたるものである。

無償で適切な教育(FAPE)に含まれている定義

 FAPE条項の中で、キーとなる用語は、「特殊教育とそれに関連する教育サービス」である。修正法では、特殊教育の定義はそのまま変わらず、関連する教育サービスの<定義に関しても事実上変わっていない。しかし、orientation and mobility servicesは、関連する教育サービスの法令リストに追加された。orientation and mobility servicesは、視覚障害を有する生徒を補助するためにつくられたサービスである。

無償で適切な教育(FAPE)と通常の教育課程

 どのような要件がFAPEの適用を規定するのかに関して、今回の修正法では強調されている。適用要件の評価のために必要とされる用語について増強されるとともに、適用要件の評価のためには、通常の教育課程への生徒の参加に関連する情報を含まなければならないようになった。(§614(b)(2))

職員の資質向上の包括的なシステム(CSPD)と州の改善計画(SIPs)

 同修正法に基づく教育サービスの提供機関は、サービスに関わる職員の知識面、技術面、態度面などをよく踏まえた上で効率的なサービス提供が行われるように努めなければならない。同修正法では、競争原理に基づく新たな交付金制度が盛り込まれている。交付金の大半はサービスに関わる職員の資質向上のために費やされなければならない。そして交付金への競争制度を導入するために、州は交付金制度の改善計画を立てなければならない。州によるCSPDは、特殊教育や通常の教育、特殊教育に関連する教育サービスなどに対する人的な教育サービスの適用を的確に行うために計画立案されなければならない。また、人的な教育サービスの提供にあたっては、同修正法653条中の(b)(2)(B)および(c)(3)(D)で規定された職員の資質向上に関する州の改善計画の要件に沿った人材を提供する必要がある。それに加え、地方行政レベルでのcapacity-buildingが今回促進された。そして、成果が十分期待される研修を導入することが、SIPsによってより一層進められている。また、学校区教育委員会に対する助成金の交付が、capacity buildingを促進させるとともに州の改善計画に寄与している。
(§611 (f)(4)).

 CSPDに対して追加された条項は、以下の内容を含んでいる。
●州は、SIPの要件に沿った効率的なCSPDを立案し実施しなければならない。
●教育サービスに関わる職員は、SIPによって指定された人材要件を満たしていなければならない。

 SIPは、特殊教育サービスの供給システムを改善するための強力な方策である。同時に、障害生徒に対する教育サービスの成果を高めるために必要な知識を備えた人材を整えるためにも、強力な方策となる。同修正法のもと、SIPは可能な限り1965年の初等中等教育法や1973年の障害者法との統合化を適切に図りながら実施されなければならない。競争原理に基づく交付金制度は、過去の実績評価に基づき採用されたものである。そして、同修正法は、この交付金をどのように使えばよいのかといったガイドラインを示した。

教育サービスに関わる専門職としての基準

 修正個別障害者教育法が成立する以前、各州では以下のような施策が求められていた。
(a) 職員に対して適切で十分な研修を確実に行うこと。
(b) 職員に必要とされる専門職としての基準を立案し、その基準を保持していくこと。
(c) 専門職としての基準を満たすために必要な研修の段階を明確にし、専門職としての基準に沿った職員を採用すること。
 これらの施策は、教育サービスに関わる現在の職員が、州の規定する特定の専門職としての基準を満たしていない場合や、職員の再研修の際に適用されるものである。同修正法では、新たに2条項を設けた。

●州においては、特殊教育や関連する教育サービスに関わる条項の規定範囲内で、専門職補佐員や助手の採用を認めるものとする。雇用にあたっては適切な研修と監督がなされなければならない。

●州においては、学校区教育委員会に対して、次のような施策を行うことができるものとする。「特殊教育や関連する教育サービスに携わる職員の採用にあたって、学校区教育委員会は、十分かつ適切にトレーニングなされた人材を募集し採用するように努めなければならない。」このような施策は、州の規定する専門的規準を満たしていない職員に対しても適用されるものとする。また、より専門的な知識や技能を有する人材の募集や雇用により、州の研修コースの達成の際に十分な成果を示すとともに、州の規定した専門職としての規準に沿うように、3年以内にコースを終了することが可能であろう。



適切な評価


 前回のIDEA法と同様に、修正個別障害者教育法では生徒が特殊教育や関連する教育サービスを受ける以前に、十分かつ個別的な初期評価が実施されなければならないとしている。同修正法では、以下のような点についても規定している。
●初期評価にあたっては、親の同意を得ること。
●差別的な評価を実施してはならない。
●疑いのある障害に関しては、その障害全ての領域にわたる専門スタッフによって評価がなされなければならない。
●ただ一つの方法や手順により、生徒の障害を判定したり生徒の教育プログラムを策定したりしてはならない。
●評価テストの実施にあたっては、明らかに不適切な方法であると判断されない限り、生徒の母国語を用いるととともに、生徒に応じたコミュニケーションの方法を用いなければならない。
●学校区教育委員会は次の場合、生徒に対する再評価を実施しなければならない。それは、「生徒の状況により再評価が必要と判断された場合や、親や教師が再評価を養成した場合---(§614(a)(2)(A))」である。

 修正個別障害者教育法では、評価のプロセスに関して一定の修正がなされた。また、評価や再評価に関する条項は、1つの部分にまとめられた。(セクション614参照)評価に関する条項の修正は以下のとおりである。

 修正個別障害者教育法パートBにおける障害生徒の定義は、3歳から9歳までの生徒に対して、州の教育機関や学校区教育委員会の考え次第で以下のように拡大解釈がなされた。

(i) 州による規準や適切な診断装置や器具等の評価法を用いて、発達の遅れが認められた場合。この発達の遅れには、身体運動発達、認知発達、コミュニケーション発達、社会的、情緒的、適応的発達などの遅れを一つ以上含むものとする。(§602(3))

(ii) 上記の定義を満たすならば、特殊教育や関連する教育サービスを受けることができる。(§602(3))

 それまで、発達障害の用語は満5歳までの子どもを対象として用いられていた。Committee on Labor and Human Resources Report によれば、「『発達障害』の用語は、障害児教育に対する統一的なアプローチの一貫として認められている。それは、障害生徒の教育ニーズをより直接的に満たすためであり、不適当な障害種を有すると生徒が誤って判定されるのを防ぐためでもある。」(pp. 6-7) としている。

 評価に関する条項の他の修正事項としては、州の施策の成分化があげられる。この施策とは、有用な情報を教育評価を行うツールや方略は、特殊教育を行う際の重要な情報源になることや通常のカリキュラムと深く関連づけられて特殊教育が行われなければならないこと、文書業務負担の削減などである。

 評価の過程に関しても、修正法によって強化された。修正個別障害者教育法では、特殊教育や関連する教育サービスの対象となる生徒の判定に親の参加を含めるものとしている。特に、評価の過程では、親からの情報収集(§614(b)(2))(A))や、親から得られた既存の評価データ情報の再検討(§614(c)(1))(A))などが含まれるとともに、障害を有するかどうかの判定にあたっては、専門家と親双方の合意によってなされるとしている。(§614(b)(4)(A))

州や地区全般による交付金査定の包括

 修正個別障害者教育法は、他の立法にも関わりをもっている。それは、本法律が近年の教育改革立法と共同歩調をとっているという点からもわかる。この教育改革立法とは、ゴール2000やアメリカ教育法、修正アメリカ学校教育法(IASA)、School to Work Opportunities Act などである。修正個別障害者教育法では、次のように述べられている。

(A) 概説--障害生徒は、通常の地区全般にわたる査定プログラムに含まれるものとする。この査定には、必要に応じて貸付金などの便宜も図られる。査定額の割り当てのために、州や地方の教育機関は、次の施策を行うものとする。

(i) 州や地区全般の査定の対象とすることができない障害生徒のために、代替となる査定プログラムのガイドラインの作成。
(ii) 2000年1月1日までに、代替となる査定プログラムを実施すること。

(B) 報告--公共に利用可能な州の教育機関では、障害を有しない生徒に対するのと同様の頻度で査定に関する詳細な報告が公的になされるものとする。具体的には次の通りである。
(i) 多数の障害生徒が通常の査定の対象となること。
(ii) 多数の障害生徒が、代替の査定の対象となること。
(iii)-(i) 通常の査定対象となる障害生徒については、1998年1月1日までにその教育成果をまとめること。また、代替の査定対象となる障害生徒については、2000年1月1日までに教育成果をまとめること。この規定により、査定に関する確実な統計を得ることが可能になるため、個々のケースに関する報告は特に必要とされないであろう。
(iii)-(ii) 生徒の教育成果に関するデータについては、副条項中に以下のように記されている。(1) データの総計は以下の場合には必要としない。--(aa)1998年1月1日以降に実施された査定の場合、(bb)1998年1月1日以前であっても、州によってデータの総計が必要とされないと認められた場合(§612(a) (17))

 障害生徒の査定に関連したこの種の法律への詳細な検討を加えるために、以下の項を参照のこと。第一部「州のアカウンタビリティシステムと障害のある生徒」、第四部「規準に基づいた改革と障害のある生徒」「障害のある生徒の代替査定の開発」

学力に関する目標とその規準

 障害のある生徒を通常の査定の対象とすることに加え、修正個別障害者教育法では、州が障害生徒の学力促進のゴールを設定するとともに、学力促進の進歩を判定するための規準を設定するものとしている。同法では、州に対して次のような規定が示されている。
●1998年の1月1日までに、通常の学力促進のゴールに可能な限り一致させた障害生徒用の学力促進のゴールを設定すること。
●学力促進の評価規準を設定すること。この規準は、ゴールの達成をめざして学力進
歩の状況を評価するために用いられるものである。また、最低限、生徒の学力の状況、中途退学率、卒業率などを評価する必要がある。(§612(a) (16))

 第四部では、「パートB,C,Dにおける評価規準」について述べられている。この項では、1993年に制定された「学力促進と成果に関する連邦法(the Government Performance and Results Act of 1993=GPRA)」に対するOSEP(Office of Special Education Programs=連邦障害児教育局)の見解の詳細な記述が述べられている。(翻訳 渡部親司)