1998年アメリカ合衆国個別障害者教育法(IDEA)第20回議会報告書


州のアカンタビリティ・システムと障害児教育

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目的


 本稿は、アカンタビリティ(accountability)の問題点の概要を説明することである。ここでは障害児のニーズに対応するための州のシステムに焦点を当てて述べる。

 過去数年にわたって、連邦政府、州、及び学校区の政策担当者は、障害児教育が限られた役割を担った「州単位の改革」(注2)のシステムを奨励した(Goertz & Friedman,1996)。州レベルにおいて、「州単位の改革」は、一連の論争、州主導の改革によって引き起こされた政策の崩壊について取り組むためのシステムとして1990年代に登場した(Smith&O'Day,1991)。「州単位の改革」は、「州政府が、州全土にわたるシステムと生徒の目標を設定し、多様な州の政策に関わる長期的教育上の目標をコーディネートすることであり、また、それらの目標を達成するための責任をもつ学校や学校区を保有する」と仮定する(Smith & O'Day, 政策調査センター(Center for Policy Research 引用,1996,P.4)。
 概して、アカンタビリティは、「学校や生徒が要望された目標に向けて動き出している教育的システムを内外から保証するための体系的方法」として定義される(Brauen,& O'Reilly & Moore,1994. p.2)。アカンタビリティは、システムレベル・アカンタビリティと生徒レベル・アカンタビリティの2つのレベルに定義づけられる。伝統的に、システムレベル・アカンタビリティは、学校教育やプログラムの改良の指標についての入力と処理に焦点化された。いくつかの州において、このタイプのアカンタビリティは、学校認定、または、プログラム検閲措置と呼ばれている。「州単位の改革」に関して、アカンタビリティは、結果に限らず、生徒の評価を包含するために拡張された。典型的に、生徒の成果は、評価結果に関して測定された。このことから推して、システムレベル・アカンタビリティについての3つの要素は、情報入力、処理、生徒の成果集計である。生徒レベル・アカンタビリティは、個人的目標の達成や必要条件の促進が含まれる。この構成部分であるモジュールは、システムレベル・アカンタビリティについてのみ焦点をあてた。モジュールの残りの部分は、州の教育アカンタビリティ・システムにおける変化と通常教育アカンタビリティに障害児を含むことに関する問題点をレビューすることである(注3)。このモジュールは、家族、子ども、教育者、そして連邦、州、地方レベルでの政策担当者に意義のある知見の要約から構成されている。


その意義

 アカンタビリティ・システムへ障害児を包含することは、いくらかの論究のために重要である。まず、多くの教育者や人権擁護者は、大部分の教育者が障害児の成就のための責任を感じていないということを熱心に主張した(Elliott&Thurlow, 1997; Roach & Raber,1997; Schnorr,1990)。第二に、一般的なアカンタビリティ・プログラムに障害児を含むことは、「州単位の改革」に障害児を含むための鍵となる手段である。加えて、人権擁護者は、アカンタビリティ・システムを含む一般の学校システムの全ての側面における障害児のインクルージョンを支援する(NASBE,1992, 1992; NASBE, 1994)。最終的に、連邦法は、障害児が「州単位の改革」の全ての面に包含されることを要求する(The Goals2000: Educate America Act(アメリカ教育法), 1993; America's Schools Act(アメリカ学校法), 1994; and the Individuals with Disabilities Education Act Amendments of 1997(個別障害者教育法1997年修正)。しかしながら、この理論的根拠にもかかわらず、障害児教育は、「州単位の改革」政策の創造において限られた役割しかに担っておらず(Goertz & Friendman,1996)、また障害児は、しばしば一般的なカリキュラム、州や学校区のアセスメント、及び、アカンタビリティ・システムから除外された(Elliott & Thurlow,1997; Roach & Raber,1997)。


伝統的な通常教育アカンタビリティ

 通常教育アカンタビリティについての伝統的なモデルは、図書館における書籍の数、学校での生徒一人当たりの床面積、及び学校区で使用される教科書の数や年数のように、システムへの情報提供に大部分が基づいていた。これらの入力指向アカンタビリティ・システム(input-oriented accountabilities systems)は、認定、学校改善の審査、アカンタビリティ報告、プロフィール、学校区総合報告、と様々に呼ばれていた。こうした認定の審査は、学校区と学校関係者の協力において州教育省の職員によって行われてきた。他の場合には、独立した認可の組織体が、認可審査を行うために州との協力において活動する。特定の問題に関する情報提供のための報告に加えて、多くのシステムは、プログラムが完全性をもち、また彼らが創り出した政策の効力の範囲内で実施されたかどうかを結論づけるための教育事業の構成要素を審査した。例としては、カリキュラムの審査周期や、学校区における長期間にわたる柔軟なプランニングを含むものである。これらの審査の焦点は、教育の過程と教育のための情報提供に関してである。分析のユニットは、典型的に学校や学校区である。
 アカンタビリティについてのこのタイプと結び付けて考えると、審査は、連邦政府または、州政府のいずれかによって資金を供給された特定のカテゴリカル・プログラムについての遵守審査である。遵守審査、もしくは監査は、分析のユニットとしての特定のプログラムの調査を行う。それは、認可のように、特定の生徒集団、学校、または学校区のための(補償教育、あるいは2カ国語教育のような)特定のプログラムの提供のプロセスにおいて広く基礎的に用いられている。このように、遵守審査もまた、システムへの情報提供を頼りにしている。

 伝統的に、障害児教育におけるアカンタビリティは、規則の遵守に焦点が当てられてきた。1990年代半ばまで、焦点は、学校区が時流にのったスタイルにおいて、連邦、及び州法によって規定された適正手続きを請け負ったということの保証に関してであった。子どもの総数はまた、障害児教育に関する連邦及び州の資金の多くが、プログラムの下でサービスを受けるためにふさわしい生徒の数に基づかれていたので、障害児教育におけるアカンタビリティの測度として活用された(Elliott & Thurlow, 1997)。加えて、個別障害者教育法の要求の一つが、「早期障害発見」であり、障害児教育のサービスの必要性があるかもしれない生徒を捜し出すことの州への要請である。障害児教育のための子どもの数を審査することは、要請についての学校区や州の履行状況を評価するための方法である。また、司法機関および、あるいは、公聴会のプロセスは、学校区や州レベルでの障害児教育アカンタビリティについてのメカニズムになる。


アカンタビリティ改革

 通常教育アカンタビリティ・システムは、3つの点において変化している。すなわち、 (1)本質において、(2) 形式において、(3) 実施方法においてである。

その本質
 アカンタビリティ・システムは、情報提供、または、指導のプロセスから教育システムの成果の強調への変革である。しかしながら、それは、州が生徒の達成度に関する強調点を加え、または、いくらかの例において、彼らのアカンタビリティ・システムにおいてよりしっかりと生徒の達成度に力点を置いているが、いくつかの例外とともに、州が、それぞれのシステムについての情報提供やプログラムを改善する要素を一般的に維持しているということが重要なことである。(Roach & Raber, 1997)。

形式
 州は、学校区または学校のリポートカード、あるいは学校区の比較的大きな総合報告書の一部としての州の評価結果を報告することを学校区へ要求することのような、生徒の成果を記述するアカンタビリティ・システムのためのセクションを盛り込んでいる。州は、州によって設定された基準を満たす生徒をどのようにして援助するのかについて示すことを学校区に求めるプロセスを実施している。結果として、いくつかの州は、彼らのアカンタビリティ・システムのために方略上重要なプランニングの要素を盛り込んでいた。いくつかの州は、彼らが以前に学校区、及び生徒レベルでのアカンタビリティを取り入れたであろう学校の責任を維持するためにアカンタビリィ・システムを拡張している。

実施方法
 多くの州の間で、強調点は、手続き的遵守からプログラム改良及び技術補助へとアカンタビリティ・プログラムにおいて変革した(MacDonald, Schrag,1996)。この成功のために、いくつかの州におけるアカンタビリティは、一時的なものから継続的プロセスへと変化している。州はまた、いくつかのプログラムにわたる監査をコーディネートしている。このように、障害児教育プログラムについての監査は、ニカ国語教育あるいは、Title Iプログラムに対する監査のように同じ周期で行われた。加えて、いくつかの州は、異なったニーズをもつ生徒を包含するための彼らのアカンタビリティ・システムを統合している。障害児が新しい通常教育アカンタビリティ・システムに組み込まれる一次的な方法は、学校や学校区の報告書に彼らのテスト得点を含めることを完了することである。人権擁護者は、多くの生徒が、適切に州あるいは学校区の標準化されたテストに組み込まれることを保証するために過去数年にわたって精力的に活動している。依然として、調査は、障害児が、州の政策やガイドライン、用いられたアセスメントのタイプや便宜上の有用性、テストスコアがどのように報告されるか、また、テスティング報告に組み込まれた結果のような要因に基づく多様なアセスメントに含まれることには限界があるということを示している(Roach & Raber,1997)。IDEAの近年の改正はもとより、いくつかの州における州のアセスメントやアカンタビリティ政策の修正は、障害児が、テスティングのプロセスに組み込まれ、またスコアが、州のアカンタビリティ・システムにおいて報告されるということを求めた(Elliott & Thurlow, 1997)。



通常教育アカンタビリティ・システムへの障害児の組み込みに関連する諸問題

 12州のアカンタビリティ・システムの追求、及びこれらの州のアカンタビリティ・システムについての4つのより深い研究において、以下の問題点が明らかになった(Roach, Goertz, & Dailey,1997):

・時間的制約
 コーディネートされたモデルの下、障害児教育遵守査察官は、十分な障害児教育遵守審査と同時に、チーム遵守活動への参加もまた行わなければならない。州の査察員は、明らかに、彼らが両方の活動に加わるための十分な時間をもっていない。

・コーディネートされていない査察、及び重複の査察
 広範囲にわたって深く研究された4つの州のすべてが、通常教育の査察とともに彼らの障害児教育遵守査察のコーディネート、または、統合整理について報告したけれども、学校区は、必ずしもそのことについて理解していなかった。いくつかの研究対象学校区の回答者が報告したところによれば、州の査察官は、同じ時刻に学校区に到着したけれども、彼らは、彼ら自身のプログラムをモニターし、重複する質問を学校区や学校職員に尋ねた。いくつかの調査対象学校区において、回答者は、プログラムが異なった時間にモニターされたということを報告したけれども、州は、コーディネートされたアカンタビリティ・システムについて報告した。

・個人的資格対する共通の基準におけるグループ・アカンタビリティ
 我々のサンプルにおいて、メリーランド州、ミズーリ州、ケンタッキー州、テキサス州、フロリダ州、そしてコロラド州は、アカンタビリティ・システムにおける生徒の成果に関する大きな強調点を設けた(Roach, Goertz & Dailey,1997)。もし、新しいアカンタビリティー・システムが共通の基準の生徒の達成度に主に基づかれたならば、障害児教育者や人権擁護者は、障害児教育の個別化の認識が失われるであろうことを心配する。これは、2つの因果関係をもっている。第1は教育者は、彼らが、グループ・アカンタビリティにより注目するならば障害児教育に関するいくらかの個別化を放り出すかもしれない。第2に、焦点が通常教育におけるグループ・アカンタビリティにあるために、障害児教育における生徒の成果についてのアカンタビリティが進展しないかもしれない。

・総合的アカンタビリティ・システムは、アセスメントに障害児を取り込まなければならない。
 生徒のアセスメントの結果が、新しいアカンタビリティ・システムの要であるので、障害児をテスティング・プログラムに不適切に組み入れた州は、アカンタビリティ・システムにこれらの生徒を組み入れるための準備が不十分であった。州は、「個別障害者教育法1997年修正」の新しい要求の下、彼らのアセスメント・システムにすべての生徒を取り入れるための方法を開発しなければならない。

・もし、データが、十分に細部まで収集され、報告されなければ、乏しい達成度が生み出される。
 生徒のアセスメントに依拠する州のアカンタビリティ・システムは、典型的に州あるいは、学校レベルでの成果のみのデータを収集した。何が報告されたかは、しばしば、全体としての生徒集団のテストスコアの平均値である。これらの例において、いくらかの生徒の優れた成果は、他の生徒の乏しい成果を補うことができ、それゆえ総合的な学校集団の平均スコアは十分であると思われるかもしれない。これは、障害児を含んでいる州のアカンタビリティ・システムにおける生徒集団を追跡調査するための問題点である。

・州の職員は、連邦政府の要求によって影響されたと感じる。
 障害児教育遵守項目は、主に手続き重視である連邦政府の遵守要求を反映している(Elliott & Thurlow, 1997)。州が、プログラムの改善に焦点を置いたアカンタビリティ・システムを開発するとき、障害児教育のスタッフは、彼らが連邦政府の手続き的遵守項目の充足と広い範囲にわたる十分な参加、達成度重視の州のアカンタビリティ・プログラムとコーディネートされた効果的な計画作成の間でひどく悩まされたということを認識した。州の査察官は、彼らが、プログラム提供や分離システムとしての障害児教育に焦点を当てること、同時に、統一されたシステムのプログラム改良に焦点を当てることを地方当局者に求める立場に置かれたということを感じている。(Roach & Raber, 1997)。



知見

 全米州教育委員行政官協会(NASBE)でなされた最近の活動や、近年におけるアカンタビリティ・システムにおいて起こっている変化に基づいて、いくらかの点が指摘されるべきである。

・学校レベルでの回答は、彼らが、プロセスの監視がよりよく生徒の成果を導くと
信じた領域に基づいた「手続き重視の障害児教育(process-oriented special education)」の監視の有用性を評価した。プログラムを利用するための権利の保証が、生徒の成就を自然に導くということことがいくらか信じられた。他方、通常教育アカンタビリティの転換に関して、システムへのアクセスの保証は、生徒の成果を改良のために必ずしも変質しない。彼らは、生徒の達成度を改善する手段として生徒の成果に焦点を置くことが不可欠であるということを信じる。

・州は、「プロセスについてのアカンタビリティ」に対する「生徒の成果についてのアカンタビリティー」の強調点の妥当な調和を確立することに取り組みつづける。生徒の成果に対する強調点における転換と等しく、州は、プログラムの改良に向けての意図をもって、プログラムの要素や情報入力変数をモニターし続ける。

・生徒が新しい基準に適するかどうかに焦点を当てるためのアカンタビリティの変化は、情報提供または処理から成果までのアカンタビリティーの取り組みの転換や障害児への見込みに関する「規準を強める」ことを伴う。

・障害児を通常の州のアカンタビリティ・システムに組み入れることは、通常のシステムにおける彼らの特権を拡張するが、IDEAによって広められた個別的な保護を保証することを州が免除されるということを示すわけではない。通常教育、及び障害児教育のアカンタビリティー・システムは、相互に干渉するものではない。



要約

 州のアカンタビリティ・システムに障害児を包含することは、教育的プロセスよりもむしろ最終的成果を強調するという通常教育改革の動向の一部である。個別障害者教育法や他の法律は、障害児が州のアセスメント結果において報告され、また、それによって、州のアカンタビリティ・システムの一部になるように命じた。アカンタビリティ・システムへの障害児のインクルージョンを取り巻く諸問題は、州の監査活動の時間的制約、学校区や学校レベルでのスコアの平均値についての報告に関連して設定されている手順、また、現存しているシステム、または、州レベルでのアセスメントの選択肢の不足を含んでいる。

【註】
1. 一部、このモジュールの報告は、OSEPによって資金を提供されたいくつかの調査センターのひとつである政策調査センターでのRoach博士によって実施された調査結果である。
2. 「週単位での改革」に関する多くの情報は、結果のセクションにおける2つのモジュールにおいて見出すことができる。
3. 州全体のアセスメントにおける障害児のインクルージョンに関連する教育改革活動の深い議論については、19th Annual Reportを参照のこと。(翻訳 吉利宗久)

【参考文献】

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