|
21世紀コンピュータ教育事典 旬報社 1998年12月刊行 pp. 180-181.
The 21st Century Encyclopedia of Information and Communication
Technology for Education
成田 滋 兵庫教育大学 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp
目 次
1. はじめに
2. 障害とヒューマンインターフェイス
1) 障害児が必要とする周辺機器
2) 視覚障害
3) 聴覚障害
4) 動作性障害
5) 知的障害
3. 学習ソフトウエア
4. おわりに
障害児の学習や余暇活動の充実という視点から、コンピュータに代表されるテクノロジー、とりわけ"assistive and augmentative technology"の活用ということがしばしば強調される。現在、障害児のいる家庭でも購入できるすぐれた機器や学習ソフトウエアが開発されている。だが特殊教育の世界では、テクノロジーの応用は、きわめて疎いという現状が続いている。テクノロジーの利用による障害の補償や代替という考え方が、我が国の障害児教育界には浸透していない。
それには理由はいくつかある。第一は、障害を克服することを強調するという「教育=訓練」という図式が教育界には偏在することである。繰り返し繰り返し訓練するという伝統的なパラダイムが、学校教育の基本となっている。テクノロジーの利用は非人間的で「教育的でない」という考え方が教師の間に根強く残っている。
テクノロジーが普及しない第二の理由は、障害児は周りから支援を受ける者であり、教育や福祉の客体であるという考え方である。自分の食べたいものを選択したり、好きな洋服を着たいという決定ができないような貧困な状況が、とりわけ重篤な障害児にはある。すべての子どもは一人ひとり異なり、特別な教育のニーズがある。そのニーズを満たすためには、コンピュータに代表されるテクノロジーを日常的に使うという風土が学校に必要である。(目次へ)
1) 障害児が必要とする周辺機器
現在のコンピュータは、付加的機能といった拡張性を有しているため、その利用がいっそう高まる可能性をもっている。この付加的機能とは、フルカラーボードであり、通信機能であり、マウスであり、画面のファイル管理とか絵文字といわれるアイコンなどのことである。一言でいえば「インターフェイス」というユーザー本位の拡張機能ということになる。
具体的には、こうした機能のいくつかは障害児にとってきわめて有用なものとなっている。例えば、音声合成・認識装置、拡大画面ソフト、画面読み上げ、キー操作制御などである。障害児は、このような付加的機能を使って学習教材やその他の情報にアクセスができるようになる。こうした機能によって、かつては障害のゆえに人の助けを借りなければできなかった作業が自力でできるようになってきた。2) 視覚障害
視覚障害児にとって、触覚を利用した情報処理の主たるメデイアは点字である。今までは点字の知っている人が点字タイプライターで文書を作成していたが、最近は素人でもカナ文字やアルファベットで入力し、それをたちどころに点字に置き換えることができるようになったきた。もちろん、その逆もできる。
印刷文字の光学的な読み取りは長年の課題であったが、高い精度での実用化が進んでいる。光学式読み取りに付随する問題の一つは同音異議語の読み上げ、音訓の識別などである。これも辞書の充実や熟語を識別する方法の創案により実用に耐えられるようになりつつありる。文字情報の電子化とは、とりもなおさずコンピュータで作業を行なえる形式にすることである。このように視覚障害児が学校で学習を進めるためには、文字情報などが電子化されることが肝要である。3) 聴覚障害
コンピュータの操作は基本的にはキーボードからの入力を中心とする視覚的な作業である。従って聴覚障害児とっては、キーボードの操作は聴覚障害ということが重大な支障とはならない。聴覚障害児には、ドライブの回転する音からドライブの状態を知ることは困難であろうが、幸い光表示による信号がドライブの状況を伝えてくれる。また時計や砂時計のアイコンが処理の進行状況を教えてくれる。4) 動作性障害
手足の不自由な生徒にとっては、コンピュータを使うことは、手書きの文書の処理に比べて、より快適に作業ができる。電子化処理は動作性、特に移動に障害がある者には自力で学習ができる唯一の情報処理方法かもしれない場合もある。しかし、こうした人々のコンピュータ利用の問題は、キーボードやマウスの操作に支障がある場合が多いことである。
文字入力には大きく分けて3つの方法がありる。第1は直接選択方法である。これは特定のキーを押すことによってある機能を選択することである。第2は走査方法である。選択したい文字やイメージがスキャンによって一致したとき選ぶやり方である。第3はコード方法である。モールス信号によって文字や数字を入力しる。スイッチから短い信号と長い信号を組み合わせてローマ字を入れ、漢字などに変換する。5) 知的障害
重度の知的障害児であっても、身体障害との重複が無い限りマウスは使える。また、子どもが熱中するソフトがあれば、マウスの動かし方を完全に理解するまでは、さして時間はかからないという事例がいろいろ報告されている。マウスの動きがダイレクトに瞬間的なモニタに出て、入力とともに音のでるソフトは子どもに喜ばれる。
もしどうしてもマウスが使いこなせない場合は、タッチパネルやトラックボール、ジョ イスティック等のより使いやすい入力装置がある。(目次へ)
障害のある子ども達も、その子の発達のレベルや発達の特性に合致した魅力的なソフトに出会えば、夢中で取り組む姿が見られる。「寝食を忘れて」という表現がぴっ たりの、熱中した状態になる例も報告されている。食い入るように画面をのぞき込む状態になると、その子の内部にあるエネルギーが溢れ出て、新たな発達を示すことである。例えば、文字や数字が理解できたり言葉が話せるようになる場合である。
学校でのコンピュータ利用の目的の一つは、障害のある子ども達が学習ソフトを使うことによって、自らの能力を高めて行くことである。しかし、現時点ではどのような種類のどの程度の障害に、どのようなソフトが効果的なのかが明確になっていない。この問題点を解決するためには、次のような親の反応などをもっと集約しデータベース化することによって、情報を提供する必要がある。(障害者とコンピュータ利用教育研究会自作教材CD-ROM97年版-98年版)● 学習ソフトウエア利用の事例(海老名市Iさん)
「私には5才になる息子がおりますが、彼は2才ごろに自閉傾向と診断され障害児仲間入りをし、現在はリスクLD児と診断されています。2才半頃からテレビゲームにとても興味を持ち始め、操作法もすぐ覚えるので、3才ごろよりパソコンを購 入して子ども向けソフトをやらせたところとても喜んで、すぐに家族の手を煩わすことなく遊べるようになりました。
親は初め、その辺のゲーム機の内容と変わらないのだろうと考えていましたが、子ども向けソフトは教育的要素を持った物があり、遊びながらパソコンからいろいろと吸 収しているようです。筆圧が弱く線を引くのにも苦労する彼ですが、マウスを使えばなひらがも書け、迷路やぬりえも簡単にできるので、やる気がどんどん出てくるようです。最近購入したソフト「ちびっこくらぶ」ではお金の種類と使い方、交通ルール、トイレの男女のマークの違いなどいろいろと楽しみながら覚えていきました。障害児をお持ちのお母さん仲間にもパソコンの効用を感じている方もいらっしゃるので、子どもの成長過程によってどのようなソフトが合うのか、良いソフトをご紹介していただけないでしょうか。」(目次へ)
障害児は、学校において学びの主体者である。自分の学習したいことを選択し決定できるためには、コンピュータに代表されるテクノロジーを活用することが必要である。そのためには、教師にはテクノロジーについての積極的な態度と指導能力が要求される。障害児のコンピュータの利用には、障害を補う周辺上の機器と、子どもの発達にそった学習ソフトウエアの充実が望まれている。コンピュータの活用によって、障害児は支援されること「assistive」から、主張する「assertive」ものに成長するという考え方が大事である。(目次へ)
1999年1月5日掲載